26話 蜂の巣を突き過ぎるとアナタモハチノス
ハルトの登場に無の神は少し焦った顔をした。
(どうやってここに入れた?この少年は破壊の女神の加護を得たとしても只の人間…しかし、油断は禁物だ…今邪魔される訳に…)
先怒鳴ったのが気に障ったかな…
じっと僕を見ている無の神に焦ってしまった。
それで…まず穏便に事を済まそうとコミュニケーションを取る事にした。
アレを見られてからはちょっと気まずいが…平和一番!まず挨拶から…
「は、初めまして…無の神様…」
「ええ、初めまして…」
大人しくハルトと挨拶を交わしてくれた無の神。
「先は見苦しい醜態を見せてすみません!出来れば忘れて頂きたいですが……ルル姉もお願いしますよ?」
「努力します……インパクトあり過ぎて1万年は忘れられないでしょうが」
「ですよね…」
「は、ハルト…(気を許すな!やつは…)」
警告したいが今のルルは話す事もままならなかった。
僕は意外と話が通じる神と思った。
「えーと…無の神様、一つ聞いてもいいですか?」
「何でしょう?」
「何故世界を滅ぼそうとします?」
「違うわ…一度壊して作り直す」
…作り直す?勝手だな!所有者登録書の提示を要求する!
「何故…作り直したいんですか?」
「………知る必要は無い」
来たよこれ!都合が悪くなったらすぐこれだ
理由を話すのを断固拒否する無の神にちょっとイラッとした。
訳も分からずに消えたくはないじゃん!神様ってワガママな人が多いな!もう…
「ではそれはいいとして…うちのルル姉から出てくれませんか?」
「それも出来ない…もう魂が同化している…引き離すことが出来るのは邪神君主ぐらいだね…諦めなさい」
元はルル姉の身体…それを勝手に共有してるような言い方!うわー信じられない!実際、今奪おうとしてるじゃん!邪神達が…手を貸してくれるはずがないだろうし…。
「なら…大人しくして貰えませんか?貴方の身体ではありませんよ…ルル姉に迷惑かけないでください!」
「ふ、ふん!それは出来ない相談だね…ああ…あと少しで、やっと待ち望んだこの世の終わりが観れるのに!邪魔をするな!」
言い返す言葉が無い時発動する究極のアビリティ!開き直る!来たこれ!
無の神の手から微かな光が発生した。
見慣れた物を手にしてそれを見つめてる笑っていた。
それはルル姉の器だった。
それに、銀色に輝いていた器が真っ黒に染まっている。
「この器が完全に黒く染まれば同化が終わる…この子抵抗が凄くて苦労したわ」
僕はその瞬間、頭に血が上る感覚を知った。
「無の空間を活性化し彼女の万物の破壊を使って、全て飲み込む!やっと私の悲願が達成できる!!」
「は、ハルト…君…ああぁぁぁ!」
「ルル姉!」
同化の進行が最終段階まで進んだルル姉は苦しそうに悲鳴を上げた…。
「何故…貴方が器をもっているんですか?」
「破壊の女神の心の隙を突いて取り出したわ…あんなに乱れて来るとは助かったわ」
あの時か……そうか。
もう限界だった…頭の中に理性の糸が切れるのを感じた。
「ルル姉の傷つけて、器も奪って、今も苦しめている…もう、穏便に解決する事は出来なさそうだよ、ルル姉の器を返して!!」
これ以上話しは無用と判断して、奈落剣オゥカスを無の神に向けた。
「少、少年…分を弁えなさい!!」
「黙れよ!ルル姉を苦しめる奴は神だろうがなんだろうが許さない!」
僕は無の神に斬りかかった。
「きゃっ!!まだ侵蝕が終わって無いのに!」
しかし、全く通用しない、無の神に傷一つつけられなかった。
嘘だろ…全く歯が立たないとは…それにこの力は…
「ふ、ふぅ…びっくりしたわ…しかし、やっと破壊の女神の力を使えるようになった!!私の力と合わせればもう誰も怯える必要はないね!あははは!」
元は巨大な力を持つ創世の神と言え、魂のかけらのみの無の神は実際、何かと戦える力は無かった。
それに、ルルに同化が終わってない状況で、不安だった彼女は大人しくしてハルトを油断させた。
「まさか……ルル姉の力?」
「言ったはずよ?魂が同化して居ると…それに、万が一にも貴方が私を倒しても…それは、破壊の女神も無事にいられませんよ?あははは…安心してくださいね、破壊の女神は私の中で眠ってもらうだけです…ふふふ」
ルル姉の加護で人間離れした僕でも破壊の女神その者には敵う訳が無い!それにルル姉が傷つくと分かったには…手が出せない!
どうしよう?このままだと…ルル姉が、世界が、皆んなが…
「いい子ですね…でも脅かしたお仕置きに、ちょっと静かにしてもらいますよ!」
「くあっ!」
無の神はいつの間に懐に入って腹部と後頭部を拳で強打した。
あれ?目の前が真っ白に…あぁ、意識が…
「ハルトぉぉ!貴様ぁぁぁ!!やめろ!」
「ほぅ?人の子に思えないほど丈夫ですね…普通バラバラになって死ぬはずが…なら…」
クビを掴み頭と腹部を殴りつけて楽しそうに笑っていた。
「くっ!かっ!うう……」
「あら?今の私…まるで前の貴方のようですね?ルナファナリールカ?ふふふ」
攻撃は緩めず殴られ続いた…クソ痛い。
「もう、やめて…くれ…」
ルル姉の切ない声が聞こえる…血塗れで目に血が入ったせいで前がよく見えない…そろそろ痛みも、感覚も鈍くなった。
(あぁ…ハルト君!胸が切り裂けそう…私なんかが存在してはならなかったかもね…)
満身創痍のハルトをただ見るしか出来ないルルは自己嫌悪になった。
「中々同化が終わらないですね、先の剣のせいか?同化が少し低下したな…もう諦めなさい!」
「ル、ルル姉……諦めたら、、、め、よ」
必死に意識を保ってはルル姉に手を伸ばした。
「ああ、ハルト君…ごめんね…」
オゥカスの剣撃で同化率が下がったルル姉は少しだが、体を動かしたり喋るようになったようだ。
「ル…姉…、、まけ、、、めた」
ルル姉は力を振り絞り僕の手を取り抱きしめてくれた。
「ごめん…ハルト君、君には迷惑ばかりかけてる…異界に連れて来て一度、死なせて、生き返って早々に苦労ばかりだったよね…ああ…」
「へへ、楽で、なかっ、けど…楽しかっ、よ…ル、、姉には感謝、て、よ…」
痛い…意識も飛びそう…血塗れだな、それでも諦める訳にはいかない…。
血を拭き取り傷だらけの僕の顔を見ているルル姉は…悲しさと苦しみの泣き顔だった。
(私の為、命がけでこんなに献身的に…ああ…愛おしく切なく悲しみに満ち…涙が止まらない)
「泣くなよ…大丈夫だから…ゲホッゲホッ」
「ああ…もういいのよ、こんな私の為に傷だらけになって…もうよく分かったでしょ?私って迷惑ばかりかける厄介者だよ…」
ルル姉は傷だらけの僕の姿に耐えきれずもう諦めた表情だった。
「さようなら…ハルト君」
「やっと、私に全て委ねる気になりました?」
「る、姉…あきらめ、、いや、…」
意識が…くそぉー!守りたいルル姉を…
「もう…私はこの世に居ない方がいいだろ…」
「さぁー、お別れの時間ですよ?」
ルルは涙を拭き歯を食いしばって無の神に怒りと憎悪と憎しみを込めて睨みつけた。
「ああ…そうだね…貴様と私もね!!!」
「はぁ?何を言ってます?貴方は動く力も無いのに…ふふふ」
「破壊の女神の名において承認する…魂魄の破壊を発動せよ…」
ルルの器が猛烈に光を発した。
「なに!まさか、貴方!…」
「この私が誰だと思ってる!!破壊の女神!ルナファナリールカだ!自分の身体を貴様などに好きにさせてそのままくたばる女では無いわ!!」
「魂魄の自懐を??存在事態消えるつもりか?ハッタリを…きゃっ!あ、貴方、本当に…正気かよ!!」
無の神は急に苦しそうに体を震えていた。
「あははは!それがどうした?貴様に乗っ取られて悔しくてシクシク泣きながら生きてるより一億倍マシだ!さあ…一緒に消えるとしようか……」
「く、狂ってる…イかれてる…」
「……私の最愛のハルトを目の前で、いたぶられて狂わない、イカれない訳ねぇたろうがぁぁぁクソあまぁぁぁ!!」
ルルは悲しみで怒り狂っていた。
「ああ…やめて!まだ消えたく無い!あいつらに復讐しないと!やめろぉぉ!」
身体が動かない…意識も朦朧とするが微かにルル姉と無の神の話し声が聞こえた。
自滅?ああ!ダメ!!お願い、やめろよ!くっそぉぉ!!僕はルル姉を守れないのか!体が動かない、動け動け動け動け!…うああぁぁぁ!
僕はルル姉を失いたく無いと心の底から切なく願った。
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[[彼女の救う、力を貸そう…少年よ]]
誰だ?何処からの声だ?それはどうでもいい!力を貸してくれるなら!なんだってする、お願い!
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[[君の魔力にかけた、封を外した、、後は任せろ…そしてバ、、、、、を……よ、、た、む…]]
何処からか分からない話し声が消えてから心臓の脈が急上昇した。
ドクン!…ドクン!…ドクンドクンドクンドクンドクンドクン!!!
そして、ハルトのドス黒い魔力が完全活性化した。
「…姉を、守る、あ、あ…」
「ハルト…君?…」
「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ハルトは全身に文字が埋め込まれ、黒いオーラを激しく放つ姿にルルと無の神は驚きを隠せなかった。
「これは!!一体なんなのよ!人間が…そんな!」
「ハルト君の体に邪紋が?それに、これは…邪神の波動!」