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第13話~暗躍~

 今日の宿を確保しに向かったアルモとアコードとは真反対の方向へと歩を進めた私とシューは、更に二手に分かれ、情報収集を行っていた。

「へい、いらっしゃい!!」

 まず私は、周辺で露店を営んでいる店主から情報を収集することにした。

「そのフルーツを頂くわ」

「へい、毎度あり!って、姉ちゃん…見かけない顔だねぇ」

「ちょっと旅をしていて、フラッとこの街に寄ったところなの」

「そうかいそうかい」

「ところで…ここ最近、この街で変わったこととか、なかったかしら?」

 同じフルーツを指さし、小銭を店主に渡す。

「…そうだなぁ…変わったことと言えば…ここから歩いて1時間程度の場所に『月明りの丘』という場所があるんだが…」

「…その、月明りの丘って場所が、どうしたの?」

 口ごもる店主に苛立ちながら前を見ると、小銭を受け取った手の指先全体をヒョイヒョイと動かしている。

 私は更に同じフルーツを1つ取ると、小銭を店主に渡した。

「毎度!いや…その場所で数日前、原因不明の爆発騒動があったらしい」

「爆発騒動!?その場所には、火薬庫か何かがあるというの?」

 私の問いかけに、更に指先をヒョイヒョイと動かす店主。

 私は仕方なくフルーツを取ると、再度小銭を支払う。

「いや、夜空が綺麗に見えるスポットってだけの、ただの丘さ。火薬庫なんて、とんでもない」

「何もないところでの爆発騒動、か…怪しいわね」

「俺がこの件で知っているのは、ここまでさ」

 そう言うと、店主は薄暗い路地の方向を指さした。

「あの路地の先に、情報通が集まる酒場がある。これ以上のことが知りたければ、そこに行くといい」

「ありがとう!おじさん」

「何、たくさん商品を買ってくれたお礼さ。気にしなさんな。ただ、お前さん、一人なのかい?」

「いえ、連れがいるわ」

「ならいいんだが…その酒場には、決して嬢ちゃん一人では行かないこった」

「分かったわ。忠告ありがとう!」

 私は買ったフルーツを持ってきた袋にしまうと、手を振りながらその場を後にし、シューを探した。

 シューも同じように露天商から情報収集を行っていたようで、両手一杯に荷物を抱えていた。

「…随分と買い込んだわね。今から冬篭りでもするつもり?私は付き合わないわよ…」

「…相変わらずサリットの言葉には参っちまうなぁ…」

「で、そっちはどうだったの?」

「数日前に、ワイギヤ教軍の将軍の一人が、この地を訪れていたらしい…」

「その将軍は、一体何をしていたの?」

「そこまでは…で、サリットの方は?」

「実は…」

 私は果物屋の露天商が教えてくれた薄暗い路地の方向に向かいながら、月明りの丘の一件をシューに話したのだった。


***


 アコード達と別れ単独行動となった私は、グエンの街の盗賊ギルドを目指していた。

 盗賊ギルドとは、盗賊により結成される秘密結社で、町外れの酒場や下水道等を根城とすることが多い。

 盗賊ギルドは当然危険な場所であるが、同業者にとっては貴重な情報源となる場所だ。

 そして、このグエンの街にも下水道が完備されていることから、盗賊ギルドの根城は地下にあることが想定される。

「(…主と出会う前を、思い出すな…)」

 感傷に浸る場合ではないと分かっていながらも、盗賊ギルドを探す今の状況は、主と出会う前の自分の姿と大いに重なり、いつの間にか瞳には涙がたたえられていた。

「(いけない、いけない…。集中しなければ)」

 下水道への入り口を見つけた私は、たたえられた涙をぬぐい、中へと入っていった。

 この街の下水道は近年整備されたようで、コケなどが生えることなく、内装等がしっかりしていた。

 ランタンに火を灯し、左手に持った街の地図にかざす。

「(…下水道は………街のメイン通り沿いに作られているようだな)」

 地図に記された下水道入り口の表示から、下水道の道筋を想定する。

「(…とにかく、先に進んでみよう)」

 私は地図を道具袋にしまい込むと、ランタンを前方に掲げて歩き始めた。

“コツコツコツコツ…”

“ジャァァァァァァ…”

 私の歩く靴の音と、下水の流れる音が辺りに木霊する。

 そして…

「(…何だか、様子がおかしいような気が…)」

 ランタンの光に、軽く靄がかかる。

「(こんな地下水路で靄?しかも、紫色!?…)」

 刹那、私は両膝を地面に落とし、ランタンをどうにか消さずにその場に置くと、両手をも地面に落とした。

 全身に悪寒が走り、震えが止まらない。それでいて、手足と顔面が痺れ、同時に頭痛と吐き気を催している。

 そんな中、どうにか顔を上げた私の視界に、それまでは存在しなかった他人の両足が映し出された。

「アルモ達の仲間の一人、レイス殿とお見受けする」

 相手の顔を見ようと立ち上がろうとするものの、体が言うことを聞かず、その場から動くことができない。

「私の水銀の味は如何だったかな?気に入ってもらったのなら良いが…」

“バタン”

 私は呆気なく、その場に倒れ込んでしまった。

「…どうやら、相当私の水銀をお気に召して頂けたようだ」

 そして私は、その声の主に抱きかかえられると同時に、意識を失ったのだった。

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