23話 その2
主神を落とす寸前に、長身のメガネ女性が玉座の後ろから出て来た。
「ガラーウ、冥界の視察は終わったか?」
「はい!ただ今戻って参りました!」
ガラーウは主神の補佐で執務や視察全て任されるほど有能ではある。
ラズリックに強いライバル意識を持って対抗したが一度も勝った事がない。
それに天界を荒らすルナファナリールカとラズリックを目の敵にしている。
(くっそ!ガラーウ…ラズリックが居ない今ややこしくなるだろうな…)
「ルナファナリールカ様…ラズリックがまた冥界の入り口にイタズラしてましたよ…」
(しまった!こいつ冥界の視察に行ってたか!)
冷や汗が止まらないルル姉…冥界にイタズラ?ああ…あれか…。
「それに、異界の住人を連れて来るとは…前代未聞の事ですね…」
来たら駄目ですか?…確かにパスポートも無いな…あれ?僕密入国に不法滞在してる?
「ツッ……何事も挑戦するのが私のモットーだでな…」
舌打ちするルル姉…ちょっと不機嫌になったようだ。
「……無許可で悲願を使いましたね…禁忌ってわかってますよね?」
悲願?なんだろ?でも、なんか僕に関わってる気がする、ルル姉はすぐ器に戻ってたしな…。
「…あ?それがどうした?喧嘩売ってるのか?あん?」
短気のルル姉は問い詰めるガラーウに怒り出した。
「……相変わらずですね、その短気な性格」
「私は気に入ってる、この性格!」
誇らしくドヤ顔で言ってる…だが!そこがいい!
「主神様の御前でその態度…目に余りますよ?」
「貴様……補佐の風情が!」
「静まれ…」
二人の言い争いに主神が止めた…。
「申し訳御座いません…ですが主神様、私は様々な禁忌を犯し反省もしないルナファナリールカ様に3000年幽閉と、何度もの天界の無断侵入して、破壊行動を行なった邪神バルトゥールは消滅処分で、異界の少年、シムラハルトは記憶を消去し元の世界に帰還させるべきだと進言します」
…進言ではなく判決だろう!
「主神様の威厳と天界の秩序の為にこれが妥当かと判断しております」
「ふむ…」
はっ?幽閉3000年?消滅処分?僕の記憶を消去が妥当だと?横暴過ぎるだろ!どこが妥当だ?妥当の意味わからないの?
「あの?横暴過ぎると思いませんか?」
爆発瞬前だったが何とか耐えた。
「立場を弁えて口を慎みなさい…異界の少年よ!!」
あの目、虫を見る目だ…ムカつく!
「…クソタレが!誰の記憶を消去するだと?この私を処分?…随分好き勝手言ってくれるな!クズがぁぁ!」
激怒して我を失ったバルトゥールは体全体から邪気を激しく放った。
「ふっ!主神様の前で…禍々しい邪気を…やはり、処分した方がいいでしょう…」
ガラーウは鼻で笑った…ハメられた!
くっそ!その鼻にフライドポテト…いや!激辛タバスコ入れたいんだが…。
「…ガラーウよ…今まで数えきれない程の揉めて来た私だが、本気で誰がを憎む事はなかった」
ルル…姉?、いつもと違う!何この感じ…胸が騒つく。
「ああ…これが憎いという感情か、あははは…心の底からお主が憎い!!お主を切り裂けと心が囁くのう…」
凄まじい気迫で主神の聖地全体が揺れた。
主神の使徒が全員僕達を囲むが…怯えてそれ以上動かない。
「退け、チリも残さず消滅させるぞ…」
ルル姉のその激怒した顔は別人のような冷たく深い闇に落ちたような表情だった。
これは、怒ってるってもんじゃない!これはまずい…もう手がつけられない!
「何の真似ですか?ここは主神様の謁見の間ですよ!」
「それがどうした?」
「はぁ…貴方は天界の秩序を乱し、気ままに荒らして周りに迷惑かける、兄たる主神様をどれだけ困らせたら気が済みますか?」
「………その口引き裂くぞ」
「ふふふ、やれるならやって見なさい」
いい気味だと言いたいような顔のガラーウ…本当に憎たらしくて虫酸が走った。
「やめんかぁ!その口を閉じろ!!ガラーウ!」
主神がガラーウを怒鳴りつけた…そして、何故か深いため息をした。
「も、申し訳ない御座いません…(え?こんなお困りの様子は、一体…)」
ガラーウはまだ知らない…ルナファナリールカの真の恐ろしさを…何故、神々がルルに手を出さないか…。
三馬鹿も創造の女神もガラーウと同じ、真の理由を知らなかった。
これ以上彼女を怒らせたらどうなるか分からないと…兄の主神はガラーウを怒鳴りつけ止めた
「秩序だ?威厳だ?そんな抜け殻のようなもの…クソ喰らえだ…あははははは!」
「………な、何ですと!貴方は!」
「口を閉じろと言ったはずだ!!!!」
主神は今度は激怒して玉座から立ち上がった。
「そうね、今の私は無力だよ…今じゃ貴様にも敵わないだろ…笑いたいだろ?笑えよ!私には分かるよ…貴様の心の底に私とラズリックに痛い目に合わせてやると…」
「なにを言ってますか?私は主神様の補…まさか!その目は!!心眼!!(くっ!心を全て読まれたか!…まずい…)」
その悪意に涙まで流すルル姉の真っ赤な目は憎しみと悲しみに溢れた…。
「あぁ…そんなくだらない理由で私の大切な物を壊そうとした…このクソ外道がぁぁぁ!!」
「ルル姉!落ち着いて!ルル姉ぇぇ!」
怒りに理性が飛んでるか…僕の呼び声にも全く反応がない。
その時、ルル姉の行動に僕は意識が停止しそうにショックを受けた。
自分の胸に手で刺し込み器を取り出した…鮮血が飛び散り、ルル姉の胸元はえぐり取られた深い傷が残った。
「ル、ルル姉…何を…ああぁ!血が、ルル姉…?」
その時僕はルル姉に凄く歪な違和感を感じた。
何?この感じ!ルル姉じゃない?誰?全く別人の気配がする!
確かめようとしてルル姉に触れようとした僕は結界のようなものによって吹き飛んだ。
「くあ!」
「お兄ちゃん!!ルナファナリールカ何をす…?うん?貴様、誰よ?」
バルトゥールもルル姉の違和感に気付いたようだ…一体何が起きた?
「許さん、許さん、許さん、許さん!滅びろ…復讐の時が来た…」
何?この声!ルル姉じゃない!
周りの違和感にガラーウは顔が真っ青になる。
「なんなの?……何をしようとするんですか?えっ?なんてますか!これは!?」
ゆっくりと物や光と影すら動きが止まり始める光景にガラーウは取り乱し始めた。
「やめんかぁぁぁ!!ルナよ、しっかりせんか!それに飲み込まれると森羅万象まで無になるぞ!」
「な、何ですか?これは…?主神様ぁ!!」
「破壊の女神の権威、万物の崩壊…なんて事を!!ガラーウ!全ての大神を緊急召喚せよ!!早く!全てが終わるぞ!!」
「え………………」
自分が何をしたかやっと気がついたガラーウは腰が抜けて座り込んでしまった。
「世界の破壊、秩序の破壊、存在の破壊、時空の破壊、生の破壊、死の破壊……全て、全て、形残らず、壊れて無くなったてしまえーーーーーああああぁぁぁ」