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5-2. 思い出の日々

 シーヴとグンナルは、魔力が許す範囲であれば、禁術や『失われた魔法』でさえ操る事が出来るほどで、二人が特別優秀な神官だということを示している。
 それはユウリにとって、とても幸運なことだった。

 シーヴは魔導具を日々メンテナスし、朝一番で魔力を込める。それを使ってグンナルが、万が一ユウリの魔力が暴走してもある程度の範囲までは止められるよう、彼らの住む山小屋の辺り一帯に結界魔法を施していた。

 また、ユウリの訓練も二人が行なっていた。
 訓練など、《始まりの魔女》である彼女には必要ないとも思われるが、実は、機械時計をつけた状態で《始まりの魔法》を使用するには、少々コツがいるらしい。
 初めてユウリがそれ試した時、慣れない方法で発動した魔法が縦横無尽に暴れて、二人は大層難儀したのだ。
 それを踏まえて、機械時計を媒介とした魔力の出力を訓練することにより、ユウリはここ一、二年でようやく、()の時と同じように、《始まりの魔法》が使えるようになっていた。

「グンナル、見てて!」

 落ち葉拾いをして遊んでいたユウリが、グンナルの姿を認めて、自分の魔法を披露する。
 一斉に落ち葉が一カ所に集まり、竜巻のように巻き上げられて、その後土砂降りの雨のように二人の頭上に降り注いだ。
 こんもりと頭に落ち葉を積もらせたグンナルを見て、ユウリは大笑いし、彼は怖い顔で首を振って、彼女を咎める。いつも無口で無反応のグンナルが、不機嫌という感情を露わにしたこともあって、この悪戯は後にユウリのお気に入りとなった。
 《魔女》であっても、外見は五歳ほどの娘。
 その夜、年相応に悪戯をする、とシーヴに愚痴るグンナルからすると、中身もさほど変わらないようだった。

 けれども、やはり魔力を抑えていると勝手が違うようで、ユウリは度々機械時計を外したがった。
 そんなときは、彼女の周りに多重結界を張って、魔力の漏洩を最小限に留めるのも二人の役目だ。
 幼いと言えども、《始まりの魔女》。
 彼女が機械時計の制限なく願えば、森羅万象すべてを一瞬で支配できた。
 どんなに季節外れでも木々はその実を実らせ、四季の木の葉の移ろいも、天候の変化も、瞬く間に叶ってしまう。
 そうやって彼女が披露する様々な《始まりの魔法》を三人一緒に眺めることが、ユウリは大好きだった。

「ねぇ、次は何がいい、シーヴ!」
「そうですねぇ。今日は満月なので、お花を咲かせて、お外でお夕食にしましょうか」
「うん!」

 ユウリが頷き、振り返ったときにはもう、満開の花々に彩られた軒先に、クロスの掛かったテーブルと三脚の椅子が並べられている。一度好きなものだけ出して怒られたため、ユウリは料理を出すのは止めておく。
 魔法でふわりと食器を並べると、シーヴが準備した夕食をそれに盛り付け、機械時計を着け直したユウリを確認してから、グンナルが結界を解いてワインを注ぎ、一緒に食卓を囲みながら他愛ない話をする。
 こんな毎日が、ユウリの日常だった。

 嬉しい事、楽しい事、辛い事、悲しい事。
 全てを三人で共有して、暮らしていく幸せな日々。

 心に戻った思い出が、走馬灯のようにユウリの中を駆け巡る。

 グンナルのお気に入りの椅子に悪戯して怒られた日。
 シーヴに教えてもらったお菓子が、とても上手に出来た日。
 二人が出掛けている間に昼食を作って、驚かせた日。
 グンナルが少し怖い顔をして何かを読んでいた日。
 シーヴが優しく髪を撫でてくれてよく眠れた日。

 ……それが全部壊れた、あの日。

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