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23 ビーン一家①

 オーシャンブルーに光輝く海。
 そこに一本の血みどろの腕が流れ着いた。

 フェニーチェは、そのギョロの村に調査に来ていた。
 これが、ハデスから貰った偵察の仕事。
 しかし、村にひと気はなかった。

 冷たい空気。
 そして塩っぽい臭がした。
 海辺だからかフェニーチェは、さほど気にはしなかった。

 「情報収集の基本は酒場やで!
  街に着いたら、真っ先に酒場に行きや!」

 ハデスのその言葉を頭に浮かべフェニーチェは、酒場へと向かった。
 酒場は、外とは違い何人かの人がいた。
 フェニーチェが、入ると一瞬で静かになる。
 フェニーチェは、静かにカウンターの方に座る。

 カウンターに立っていたのは若い20代前後の若い女性。
 女性はフェニーチェに近づきゆったりとした口調で言葉を放つ。

「なにになさいますか?」

「えっと……
 じゃ、ミルクをひとつ」

「旅の方ですか?」

「まぁ、そんなところです」

 女性は、フェニーチェの体を舐めるように見る。

「私の名前は、ディジーです。
 貴方はもしかして剣士さんですか?」

 ディジーは、フェニーチェの腰に収められている狂音の方を見てそう言った。

「んー。
 剣士と言うか騎士です
 装備とか見ると騎士っぽくないですよね」

 フェニーチェがそう言うとディジーが笑う。
 狂音が小さな声でフェニに言う。

「フェニ……
 この子……」

 狂音がそう言うとフェニーチェがうなずく。

「はい。
 この人からは、人の血の匂いがしますね……」

「あら?気づいちゃった?
 騎士様のお肉、美味しそうね!」

 ディジーは、ニヤリと笑うとナイフでフェニーチェに襲いかかる。
 フェニーチェは、そのナイフを避ける。
 狂音が、叫び声を上げる。
 フレイジーバウンドだ。

「あ……?」

 ディジーの体に力が抜ける。
 その声に腰を抜かす。

「馳走だ……
 俺、あの女喰ってみたかったんだ……
 お前はどうだ?」

 酒場の客のひとりが、そう言うと他の男が立ち上がる。

「そうだな。
 俺も喰ってみたかった……
 強いし喰われるの怖いし、でも今は腰を抜かして動けねぇ」

 男たちの意味不明の言葉にフェニーチェは、戸惑う。
 男たちは一斉にナイフを取り出し構える。
 フェニーチェも狂音を構える。
 しかし、男たちが襲ったのはフェニーチェにではなく、ディジーに襲いかかった。

 ディジーが、悲鳴をあげる。

「アンタたち何を……」

 ディジーが、抵抗するも腰が抜けて力が入らない。

「俺たちは、お前を喰うことに決めた。
 賞味期限が切れる前にお前を喰らう。
 若い女の肉は柔らかくて美味いんだ。
 お前も知っているだろう?」

 男のひとりが、そう言ってディジーに斬りかかる。
 フェニーチェは、見てられなかったのか狂音を男たちに剣圧を当てる。

「フェニどういうつもり?」

 狂音が、小さな声で尋ねる。

「目の前で困っている人がいたら助ける……
 なんとなくですが、そうしなくちゃいけない気がするんです」

 フェニーチェの答えに狂音が、小さく笑う。

「いいわ。
 それも青春よ!
 か弱い女の子を護るのもナイトの仕事よ!
 ガツンと決めなさいな!」

「はい!」

 フェニーチェは、大きくうなずくと男たちを狂音で峰打ちにしていく……

「ぐ……」

 男たちがうめき声をあげてその場に倒れる。
 するとディジーが、ゆっくりとフェニーチェに近づく。

「あの、ありがとう」

「いえいえ」

 フェニーチェが、小さく笑う。

「アンタいいやつだから教えてあげる。
 この村は、人を襲い金品を奪って人肉を食べて生活しているの。
 だから、ここから早く逃げたほうが――」

 ディジーが、そこまで言ったとき目を丸くさせて驚く。

「どうしたのですか?」

「どうして貴方が……」

 ディジーが、視線を移す場所。
 フェニーチェの後ろには、大きな斧を持ったオークがいた。
 気配を隠していた。
 強いものほど気配を隠すのが上手い。
 それは、フェニーチェにもわかっていた。

「フェニ……
 後ろに……」

「はい……
 でも、振り返れば殺されますね……
 悔しいけれど後ろのオークには僕には勝てそうもないです」

「わかっているようだな。
 なら、楽に……」

 オークが、斧を振り上げたその瞬間。
 赤い波動がオークにぶつかる。

「赤の魔導砲だよ。
 君がいかに強くてもこの砲弾に当たれば魔力はガンガン削られるよ」

 フェニーチェは、その隙を狙って大きくその場から離れた。

「しゃべる猫?」

 狂音が、そう言うとその猫が答える。

「しゃべる大剣に言われたくないね」

「まぁ、そうよね。
 世の中色々事情があるわよね」

 狂音が小さく笑うと猫も笑う。

「そうだね……
 ところで、君もこの世界にきてたんだね」

「僕のことを知っているのですか?」

「え?」

 フェニーチェの言葉に猫は驚く。

「ごめんね。
 この子、記憶喪失みたいで……」

 狂音がフェニーチェの代わりに謝る。

「そっか……
 まぁ、それぞれ事情があるからね。
 仕方がないか……
 僕の名前は、13。
 新しく覚えてね」

 13が、そう言って簡単に自己紹介をした。

「そう、僕はフェニーチェ。
 失った武器と記憶を探しているんです。
 よろしくおねがいしますね」

 フェニーチェがニッコリと笑う。

「猫は美味くないから喰わずに殺してやろう」

 オークが、そう言って斧を13に向けて投げた。

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