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32.淡い希望

「どうするのじゃ?」

「そうだな……」

 現状を確認できないとはいえ、アニマットは壊滅状態にあることは確かだろう。
 ここにいる二十八人を見ても、戦えそうな人材は残っていなさそうに思える。
 可能なら助力を頼みたかったけど、それはもう絶望的だ。
 だとすれば、ここから問題になってくるのは、壊滅したアニマットに魔王軍が潜伏しているのかどうか。
 そして、他に生き残りの獣人がいたとして、敵なのか味方なのか。

「どちらにしろ、一度確認しに行かないとだな」

「じゃな。もし魔王軍がいるなら、まとめて叩くチャンスじゃ」

「ま、待ってください! まさか国ごと攻撃するおつもりですか!?」

 ヒノワが焦った表情で俺たちに質問した。
 プラムは何を当たり前な質問をするのじゃ、と言わんばかりに呆れて言う。

「主らの国はもう存在せんのじゃ。問題ないじゃろ?」

「問題はあるぞ! 生き残っている人たちだっているかもしれないんだ!」

 今度はシズネが声を荒げた。
 必死な二人に向かって、プラムは態度を変えることなく言い切る。

「それが何じゃ? 仮に生き残っておったとして、魔王軍に寝返っておったらどうする? 主らも寝返るか?」

「そんなことはしません!」

「そうだ! 私たち獣人族は、人間と違って簡単に裏切ったりするもんか!」

「ふっ、ルークよ。言われておるぞ?」

 はっとして俺の顔を見る二人。
 今の発言が、人間である俺に対する挑発になると気付いたようだ。
 助けを請おうとした相手を侮辱してしまったと思い、焦りと戸惑いが生まれ汗を流している。

「あっその……今のは……」

「安心しろ。俺は怒っちゃいない。事実だからな」

 俺はグロールの街を思い出した。
 あの街で出来事はしばらく忘れられないだろう。
 嘘と偽善で塗り固められた街と、そこに住む言い訳で武装した人間たち。
 俺は彼らを文字通り一蹴した。
 だから俺は、シズネの言ったことが間違っていないと思える。

「誰だって、死を眼前に突きつけられたら怖いだろ。自分の命ほしさに、信念を曲げて寝返ってもおかしくない。人間も、お前たち獣人でもそうなんじゃないか?」

「それは……」

「違います」

 言葉を詰まらせたシズネとは裏腹に、ヒノワはハッキリと答えた。
 何かを決意したように、戦いにおもむく戦士のように真剣な表情でそう言ったのだ。
 俺には彼女の言葉が嘘なのかがわかる。

「……そうか。プラム、一旦見てからにしよう」

「何じゃ、今回は助けるのか?」

「助けるかどうかは実際を見て決めるよ。まぁ、気が変わったのは事実だけど」

「ふん、まぁ良いじゃろう。ワシのやることはさして変わらんしのう」

「あ、ありがとうございます!」

「ヒノワ、それを言うのはまだ早いぞ。別に助けるって決まったわけじゃない。お前の言ったことが本当なのか、それ次第だ」

「はい。大丈夫です」
 
 大丈夫……か。
 俺は笑ってしまった。
 愚かしさにではなく、肝のすわり方に笑ってしまったのだ。
 まぁそもそも、生き残りがいるかどうかも問題だ。
 どちらにせよ淡い希望であることは変わらない。
 
 そして、俺たちは知っていた。
 淡い希望を持つことが、どれだけ無駄なのかということを知っていた。
 確認してからと言いつつも、俺は何となく察していた。
 魔王軍が、意に反する者たちを生かしておくはずがないのだ。
 つまり……そういうことだ。

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