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25.矛盾だらけの男

「最悪だなちくしょう。プラム、ルリアが攫われた方向を教えてくれ」

「……なぜじゃ?」

「なぜって、助けに行くからに決まってるだろ」

「じゃから、なぜ助けに行く必要があるのかと聞いておるのじゃ。あんな娘など放っておけばよいじゃろう」

「なっ、急に何言い出すんだよ!」

「それはワシのセリフじゃ。街全体が敵じゃとわかったのなら、また石の雨を降らせて全滅させてしまえばよいじゃろう? そもそも、なぜそうまでしたあの娘を助けようとする?」

「それは……お前だって、あいつは使えるかもって言ってただろ」

「うむ、言ったぞ。それが今じゃと言うておるんじゃよ。敵は娘を殺さず人質とった。まさか娘ごと攻撃するとは思っておらんじゃろ」

 プラムの意見は尤もだった。
 ルリアを人質にとったということは、俺たちは誘い出す準備があると言うことだ。
 このまま彼女を救い出すため乗り込めば、敵の策にまんまと嵌ることになる。

「でも……」

「……のうルークよ。主の目的は何じゃ?」

 魔王を倒すことだ。

「主は目的を果たすため、地獄すら越えた男じゃろ」

 そうだ。
 俺は復讐のため、地獄を巡って帰ってきた。

「主の目的に、あの娘は含まれておらんじゃろ」

「わかってる……」

 頭では理解しているつもりだ。
 彼女を助けるより、見捨てて街ごと破壊するほうが効率的だったことを。
 いくらシンクの妹だからて、危険を犯してまで助けに行く義理はないってことを。
 目的のためなら手段は選ばない。
 どんな犠牲も問わない……そう誓ったのも事実だ。

 なのにどうして――

「ルークよ、今の主は歪じゃ。目的のために全てを捨てる覚悟を持ちながら、かつての仲間への想いも捨てられない。主の覚悟は本物じゃ、そうでなければ地獄は越えられん。じゃが、その覚悟と同等の想いが決断を鈍らせておる。まるで呪いのようじゃ……」

「呪い……か」

「これは助言ではなく忠告じゃ。今の主では魔王をまで辿りつけん。その甘さを捨てねば、必ず足元を掬われるぞ」

 俺はすぐに応えられなかった。
 プラムの言ったことは、ほぼ全て当たっていた。
 今だってそうだ。
 魔王を倒すためなら何でもする。
 そう誓ったのに、ルリアを助けなきゃって気持ちが芽生えてしまっている。
 こんな気持ちは足枷にしかならないと知りながら、身体はすぐにでも助けに行こうと疼いている。
 たぶんあいつがシンクの妹じゃなきゃ、こんなに悩むことはなかっただろうな。
 自分の中で、何人もの自分が戦っているような感じがするよ。

「そうだな……でも悪い、だとしても助けにいく」

 考えに考え抜いた結論。
 己を見つめ直し、決意するように俺は言った。

「プラムの言う通りだ。魔王を倒すと誓った覚悟……それに偽りはないと今でも言い切れる。だけど、シンクたちへの想いも捨てきれない。今の俺は矛盾だらけでむちゃくちゃだ……。だけどそれでいい! 俺は自分の覚悟も、あいつらへの想いも捨てない。矛盾を抱えたまま、ぐちゃぐちゃのままで戦ってやる!」

 魔王は倒す。
 どんな手を使ってでも、どんな犠牲を払ってでも倒す。
 時には非道にもなろう。
 悪党だと罵られることもあるだろう。
 俺は勇者じゃないから、全ての人々を救う義理なんてない。
 それでも、あいつらが遺したものは守りたいと思っている。

「ルリアはシンクの妹だ。あいつがこの世に残したものの一つだ。だから助けに行く」

「贖罪というやつかのう」

「いいや、ただのエゴだよ。俺と一緒で意味なんてない」

「甘さも非道さも捨てぬ……か。ふんっ、主ほど噛み合ってないやつをワシは知らんぞ」

「だろうな。だから地獄も越えられたのかも」

「かもしれんな。よいじゃろう……主の好きにするがよい。まぁあれじゃ……あんな娘でも、おらんとちと寂しいとからのう」

 プラムは照れながらそう言った。
 何だ、お前もそう思ってたんじゃないか。

「そっか、なら行くか」

「うむ」

 俺たちはルリアを助けに向かった。
 プラムの案内で行きついた先は、領主の屋敷だった。
 玄関先では、俺たちを案内してくれた使用人の男性モルクが立っていた。
 腰にはサーベルを携えていた。
 
「お待ちしておりました」

「俺たちを案内してくれたあんたが、今度は道を阻むのか」

「我が主のご命令です。悪く思わないでいただきたい」

「それは無理――」

 刹那。
 モルクはすさまじい踏み込みで、俺たちに急接近してきた。

「プラム!」

 俺は叫んだ。
 彼女は能力で剣を生み出し俺に投げ渡す。
 それをキャッチして、バックステップしながらモルクの斬撃を受け止めた。 

「くっ……」

 鍔迫り合いが続き、振り払うように距離をとった俺を、モルクは突き激してきた。
 嵐のような怒涛の攻めに、俺は防戦一方だ。

「良い剣技です。相当な修練を積んだとお見受けします」

 モルクは余裕の表情でそう言った。
 数秒やり合っただけでこの疲労感。対して向こうは、汗一つかいていない。
 何者なんだよこのおっさんは!

「ですが、あなたの剣技からは才気を感じない。それでは私には勝てませんよ?」

「そうですかい、生憎こっちはにわか仕込なんでね。それに俺は剣士じゃない、ただの人殺しだぜ?」

「左様でございますか」

 そう言いながら、モルクは剣を鞘に収めた。

「おい……どういうつもりだ?」

「私が主より命じられたのは、侵入者の足止めです。その役割は十分果たしましたので、どうぞお通りください」

 モルクは道を譲った。
 さっきまでが嘘みたいに、殺気も敵意も感じられない。
 まるで別人になったようだ。

「何者なんだよ……あんたは」

「ただの使用人です。それと行くならお早めに。人と違って、魔族は非常に短気ですから」

「ちっ、プラム」

「うむ」

 俺たちは彼を横切って屋敷へ侵入した。

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