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11話 指名手配だって。

 カレンダーをフックから抜き取って、1月のページを捲る。
 2月のページを前にして、再びフックに引っかける。
 ユリにこのカレンダーの値段を質問したことが遙か昔のことのように感じる。
 今日から2月。死神事件発生から2週間余り。
 タカヒロさんは未だ行方不明。
 僕は腕を腰の横に下ろして、壁掛け時計を見上げる。
 もうすぐ、二本の針が重なる頃だ。
 テレビをつけて独りでソファーに座る。
 次々と流れるコマーシャルを見ながら、正午のニュースが始まるのを待つ。
「ユウちゃん」
「また、ここにいたのね」
 五本のコマーシャルが流れた頃、ユリとマリが事務室に入ってきた。
 ユリの左手には茶色い封筒が握られていた。
「はい。お給料」
 ユリはその分厚い茶封筒を差し出す。
 面接の時に話していた通り、本当に手渡しだ。
「あっ、ありがとう」
 僕はおずおずと両手を伸ばし、記念すべき初給料を受け取る。
 札束の重みを両手で味わう。
「お疲れ様。これからもよろしくね」
労いの言葉と共に笑顔をくれるユリ。
「これからも馬車馬の如く働くのよ!」
 そんなユリとは対称的に、人使いの荒い方が肩を叩きながら更なる過酷な労働を要求する。
 大丈夫かな。あまりに酷いようだったら、スタッフサービスに電話しようかな。
「私達もニュース見ようか」
「そうね」
 無人だった向かいのソファーがユリとマリの体で埋まった直後、音楽とテロップが流れた。
 男女二人のキャスターが御辞儀。男性キャスターへカメラが向けられる。
 彼の口から飛び出した言葉は一瞬にして僕らを凍り付かせた。
「遂に指名手配が敷かれました」
重々しく喋り、今度は女性キャスターが映し出される。
「警察は横山タクヤさん殺害の容疑で、吉野タカヒロ容疑者を全国に指名手配しました。吉野容疑者に関する情報はこちら、死神事件特別捜査本部までお願いします」
 女性キャスターがパネルに書いてある電話番号を指差す。
 僕らの目は画面の真ん中に映る手配写真に釘付けになっていた。
 やっとのことで我に返り、3人で顔を見合わせて衝撃を共有する。
 ユリとマリの顔に浮かぶのは驚愕の表情。
 きっと、僕も同じ顔をしているはずだ。
「とうとう指名手配か」
「おっちゃんの言ってた通りになったわね」
 タカヒロさんはどこにいるのだろう? 
 出頭して自首するつもりはないのか? 
 あくまでも復讐を成し遂げるつもりでいるのか? 
 虎視眈々と小野さんを殺害する機会を狙っているのか?
 あの穏和そうな人があんな残虐な犯行を繰り返すなんて。
 いくら大切な人の命を奪われた故の復讐とはいえ、やっぱり信じられない。
 だけど、考えてみれば当たり前のことなのかもしれない。
 マリの言う通り、見た目で犯人が分かるなら警察も探偵もいらない。
 人は見かけによらないし、人間なんて分からない。
 容疑者となったタカヒロさんの写真を、僕はやるせない思いで眺めていた。

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