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16.旅立ち

 デュランの首が宙を舞い、胴体の前に転がり落ちる。
 続けて首を切り離された胴体も、力を無くしてガチャリと倒れた。

「結局最後はワシ頼みとは、無様じゃのう」

「そう言うなよ……斬りやすかっただろ?」

「まぁそうじゃな」

 プラムは血で作った大きな鎌で首を斬った。
 彼女が鎌を手放すと、崩れるように血へ変化し、彼女の肉体に戻っていった。
 デュランは気付いていなかったが、すでに周囲にいた大量の魔物は討伐されている。

「プラム……悪いんだけど一旦俺を殺すか、治療できる何かくれない?」

 俺は地面に伏せたまま頼んだ。
 痛みは感覚が麻痺している影響であまり感じないが、肉体を動かす機能が障害されてしまい、自分の力で立ち上がることができない。
 地獄巡りを成し遂げたお陰で、スキルとは別に『死ぬと負傷がリセットされて蘇る』という体質を手に入れたから、一度死ねば治る。

「仕方ないやつじゃのう……ほれ、ワシの血を飲め」

 プラムは俺に近寄り、口元の上から血を流し落とした。
 彼女の血液には、回復薬と同じ効果がある。
 それを飲めば致命傷だろうと回復させることができる。

「うぅー……はぁ、やっと動けた。ありがとう、プラム」

「礼には及ばん。しかしルークよ、最後のあれじゃが、別にワシが決めんでも何とかなったのではないか?」

「ん?」

「他のスキルを使えば、デュランを倒せたじゃろ? スキルの保持数だけなら、今のワシよりも多いのじゃぞ」

「まぁね」

 俺は地獄巡りを経て、乗り越えた形相に由来するスキルを手に入れた。
 巡ったのは八つの地獄、だから手に入ったのも八つのスキル……だけじゃなかった。
 八つの地獄の周囲には、それぞれ十六の小地獄が存在しているのだが、その小地獄に由来するスキルも手に入っていたのだ。
 つまり、今の俺は八大地獄のスキル八つに加え、小地獄のスキル(16×8)も所持しており、計一三六個のスキルを有している。
 あとは中途半端な不死性も手に入れているから、それも含めると一三七個になるか。

「確かにそうなんだけど、十六小地獄のスキルは一日一回の制限付きだし、八大地獄のスキルも強力だけど無敵じゃない。今後のことを考えたら、無闇に手の内を晒したくなかったんだよ」

 デュランは強敵だったけど、最終目標は魔王の討伐なのだ。
 どこで誰が見ているかわからないし、ここで全てを出し尽くすわけにはいかなかった。
 どんな強力なスキルも、対策されれば無力化されてしまうからだ。
 だから、戦っている途中にプラムのほうを確認して、手が空くタイミングまで待った。
 会話で時間稼ぎをしたりしてな。

「しっかしすごいな。あれだけの数を簡単に倒しちゃうなんて」

「そうじゃろそうじゃろ! もっと褒めて良いのじゃぞ!」

 プラムは嬉しそうに言った。

「これだけ強いなら、一人でも魔王を倒せそうだな」

「う~む、どうじゃろうな? ワシの不死性も魔力に起因するものじゃし、三百年前ならともかく、いまのあ奴がどれほど強くなっておるか想像できん」

 さらに魔王は、プラムの能力をすでに知っていて、その対策も知っているらしい。
 戦いには強い彼女も、封印には弱い。
 今回の戦いで、彼女の復活は魔王にも届くことになるだろうし、一人では厳しいと彼女は語った。

「と言うわけじゃ。これから頼むぞ、我が眷属」

「眷属? そんなものになった覚えはないぞ?」

「さっきワシの血を飲んだじゃろ? あれが眷属を生み出す儀式じゃ」

「えっ、そうなの?」

「うむ。じゃが、眷属といっても大して何も変わらんよ。多少治癒能力が向上するくらいじゃ。問題ないじゃろ?」

「そのくらいなら、むしろ有難いかな。さて、それじゃ一旦王都に戻るか」

「じゃな」

「それじゃ、帰りもよろしく」

「……ルークよ、ワシを便利屋と勘違いしておらぬか?」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 俺はプラムの能力で王都まで転移した。
 行きも同じように彼女の能力で移動させて、俺としてはとても助かっている。
 当の本人は、便利に使われているようで不服じゃ、っとむくれていた。

 帰還した俺は、王城に入って国王に魔王軍討伐の報告をした。
 だいたい想像できると思うけど、国王はひどく驚いていた。
 すぐには信じられなかったようだけど、半日くらい経過して確認がとれたらしく、泣きそうなほど安堵していた。
 その報は国民にも伝えられ、国中で新たな英雄が誕生したと騒ぎ立てた。
 国王も、国をあげて宴を開催すると言っていたけど――

「良いのか?」

「ああ、宴なんて騒がしいだけだし」

 俺はプラムと一緒に、王都を囲む塀の外にいた。
 これから二人で、魔王討伐の旅に出発する。
 準備はもう終わっている。
 俺は英雄になりたかったわけじゃないし、そんなに偉い人間でもない。
 だから宴も賞賛の声もいらない。
 そんなことに時間をかけるくらいなら、一秒でも速く魔王を倒したいと思う。

「そうか。ならば行くかのう」

「おう」

 そうして俺たちは旅立った。
 俺にとっては二度目の旅で、最後の旅でもあった。

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