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14.初陣

「結論だけ最初に言うとじゃな? あと二日もすれば、ここへ魔王軍の主力が攻めてくる」

「……やっぱりか。まぁ、なんとなく予想はしてたよ」

 俺はそこまで驚かなかった。
 自分で口にした通り、魔王軍は攻め込んでくるだろうと思っていたからだ。
 一番の障害だった勇者パーティーが全滅したんだ。
 俺が魔王でもそうすると思う。

「主力ってどのくらい?」

「すでに報告されているのは、魔物と魔族合わせて二十万じゃな。指揮をとっているのは、魔王軍四天王の一人――デュランじゃ」

 デュランって確か、漆黒の鎧を身に纏った悪魔だったな。
 以前に旅の途中ででくわしたことがある。
 そのときは結局戦わなかったけど、他の魔族とは明らかに違う雰囲気を持っていた。

「こっちの戦力は?」

「王国騎士団三万人……と言いたい所じゃが、残念なことに半数はもう墓場行きじゃ。主が地獄に行っている間に、同盟国も三つほど滅んだしのう……」

「つまり……状況は圧倒的不利ってことか」

「そうなるのう」

 なるほど、だから王女様も忙しそうにしていたのか。
 この部屋の窓から、王城内を軽く見渡せるんだけど。
 ああ、衛兵たちが駆け回っているのが見えるな。
 あの様子から察するに、急ピッチで防衛ラインでも築いているのか?

「なるほどね……」

「主はどうするのじゃ? ふっ、まぁ聞くまでもないと思うがのう」

「当然、言うまでもないな」

 何のために地獄を越えてきたんだ?
 シンクたちの仇、魔王を倒すためだろ?
 だったら徹底抗戦以外に選択肢なんてない。

「じゃあ、お前はどうするんだよ」

「もちろん主と一緒じゃ」

 プラムはニヤッと笑いながらそう言った。
 彼女の目的もまた、俺と一緒で魔王を懲らしめることだ。
 そうなれば、俺と同じように戦う以外はありえないよな。

「決まりだな」

「そのようじゃな。それより主よ。ワシのことをお前と呼ぶでない」

「ん、じゃあなんて呼べばいい?」

「うむ~ そうじゃな、ワシらは同じ目的を持った協力者――否、共犯者というべきか? 特別に、我が名を呼ぶことを許可しよう」

「じゃあプラムだな。だったら俺も、主じゃなくてルークって呼んでもらえる?」

「いいじゃろう。ではルークよ、向かうとするか」

「ああ、奴らに……地獄を見せてやるよ」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 王都から北西に五十キロ。
 そこには、レリークという大きな街があった。
 この街はアルザット王国の領土内で、もっとも王都に近く繁栄している街でもあった。
 街並みも非常に綺麗で、数万人の人類が暮らしていた。

 ――が、現在は誰もいない。
 
 綺麗な街並みは無残に破壊され、道端には歩く人ではなく、バラバラになった死体が転がっている。
 そこをズカズカと踏み荒らす彼らこそ、魔王軍の侵攻部隊である。
 異形の魔物や屈強な魔族たちが隊列を組み、王都にめがけて侵攻している。
 その戦闘で指揮する黒い騎士こそ、魔王軍四天王【暗黒騎士】の異名を持つデュランだ。
 数百年前、彼はもともと人間だった。
 誇り高い騎士だった彼は、魔物との戦いで重症を負い、瀕死のところを魔王の術によって悪魔となったのだ。
 以来彼は、自らの命を救った魔王に忠誠を誓っている。
 魔王に次ぐ戦闘力を持っており、剣術においては右に出るものはいないとされている。

 そんな彼が、徐々に王都へ侵攻してきていた。

「この街は完全に制圧したか。よし、では王都へ向かうとしよう」


 その様子を、俺とプラムは遠めで見ていた。 

「なぁプラム、もう一度確認するけどさ。あの街に生存者はいないんだよな?」

「うむ、全員殺されておるわ。間違いないのう」

「そっか。じゃあ心置きなくやれるな」

 そう言いながら、俺は右手を空にかざした。

「――雨炎火石(うえんかせき)

 晴天だった空から、大量の岩が降り注ぐ。
 岩は熱を帯びており、衝突した魔物の肉を抉っていった。

「敵の攻撃!? どこからだ!」

 デュランが叫んだ。
 俺は隠れているわけじゃないので、堂々とわかりやすいように接近した。

「いや~ 今ので結構減らせたんじゃないか?」

「じゃな。ざっと三分の一は消えたぞ」

「そっかそっか。まぁ上等かな」

「貴様ら……王国の兵か? まさかたった二人ではないだろう?」

「いいや、残念ながら俺たちだけだよ」

 俺は相手を小馬鹿にするような口調で言った。

「ワシらは嫌われ者じゃからのう。まったく困った話じゃ」

 それにプラムも乗っかった。
 やれやれ、自分でもよくわかるけど、昔の俺だったらこんなセリフ……絶対に言わなかったよな。
 俺が感慨に耽っているのに対して、デュランはプラムの声に反応した。

「その声……その姿――! 貴様プラムか!?」

「うむ、久しいのうデュラン」

「あれ? 二人って知り合いなの?」

「まぁのう。あ奴はワシが魔王と共におった頃からいる古参じゃし」

「へぇ~」

「馬鹿な! 貴様どうやって地獄から抜け出した!」

 ほのぼのムードで話すプラムに向かって、デュランは激昂したように尋ねてきた。

「何を驚いておるのじゃ? ワシは真祖じゃ。あの程度の封印なんぞ、時間をかければ自力で解けるわ」

「なんと……」

 おっと、プラムは平気で嘘を付いたな。
 リアクションからして、デュランも今のを信じたみたいだけど……。
 まっ、俺からしたらそのほうが有難いか。

「ふんっ……どちらにしても、ここで貴様らを殺せば全て解決する」

「そうなるな」

「うむ。ならば始めようか?」

 俺たちは殺意えお込めて睨みあった。
 互いの間に吹き抜けた風が、戦いの始まりを告げているようだった。

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