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12.無間地獄

 現世で魔王軍の侵攻が起こっているようだが、地獄にいる俺には伝わらない。
 俺は最下層の地獄に向けて、何もない空間をただ落下し続けていた。
 七つ目と最下層の間は、真っ逆さまに落下しても二千年はかかるほど深い。
 その間、俺にあるのは自由落下の感覚だけだ。
 それ以外に何もない。
 これが本当の無というものなんだと実感した。
 並みの精神状態なら、これだけで壊れてしまうほどかもしれない。
 ここまで拷問に耐えていなければ、きっと俺も壊れていただろう。

 さて、地獄の試練も残すところ最下層のみ。
 ここに到達するまで、俺の精神も肉体も大きく変貌してしまった。
 自分でもわかるが、地獄に落ちる前の俺はほとんど別人だ。
 唯一変わらない部分があるとすれば、シンクたちの敵討ちを望んでいることだけかもしれない。
 その一心でここまでたどり着いたんだ。

「もう大丈夫だ……今の俺なら何が来たって――」

 耐えられる筈だ。
 確信めいた感情が俺の中に芽生えていた。
 
 しかし――

 二千年かけて到達した最下層は、ここまでの拷問がお遊びに思えるほど悲惨だった。
 剣樹、刀山、湯などの苦しみを絶え間なく受け続ける。
 さらには巨大で奇怪な鬼がいて、舌を抜き出されて釘を刺され、毒や火を吐く虫や大蛇に責めさいなまれ、熱鉄の山を上り下りさせられる。
 これまで七つの地獄でさえ、この無間地獄に比べれば夢のような幸福だと感じられるほどだった。
 ここでの苦痛は、大焦熱地獄の千倍はあるとされ、期間は六万四千年。
 拷問が開始されてすぐに、俺は耐えられないと感じた。
 もはや涙も、声すら出せなかった。
 あるのは無限の恐怖と絶望だけだ。

 俺は見失いそうになった。
 自分がどうして、こんな場所まで落ちてきたのか。
 何を求めて地獄に来たのかも、忘れてしまいそうになるくらい恐ろしかった。

 もう嫌だ……終わりにしたい。

 俺の心は折れかけていた。
 そんな俺の前に、シンクが現れた。

「ここまで来て諦めるのか? ルーク、お前の想いはその程度だったのか?」

 もちろん幻聴だ。
 これまでに交わした言葉が、都合よくリフレインされているだけだ。
 そうだとしても、彼の言葉が俺の中にある。
 俺の中には、彼らは存在している。
 
 それだけで――俺は戦える!

 この瞬間から、耐えるのではなく戦うんだという意識の変化が起こった。
 俺は地獄へ、戦うために来たんだ。
 ここで勝てなきゃ、彼らの魂は永遠に報われない。
 虐げられたままでいいのか?
 蔑まれたままでいいのか?
 ここで終わって……いいわけないだろ?

 そうして、六万四千年に渡る戦いは終わった。
 

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