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4.路地裏

 ルークが追放された直後、背を向けて歩いていくシンクたちは――

「ごめんな……ルーク。酷いことを言ってしまって」

「仕方ないわ。これが一番よかったのよ」

「ああ。こうでもしなければ、あいつは俺たちについてきていただろう」

「……そうだな」

 シンクはここ数日間を振り返っていた。
 ルークを危険から守るため、あえて厳しい態度をとっていた彼は、常に心苦しさで一杯だった。
 本当なら直接言うのではなく、ルークに自分から抜けてほしかった。

「いっそ……嫌われてくれたら楽だったよ」

 何度突き放しても、さげすむ様な視線を向けても、ルークはついてきた。
 そんな日がずっと続いて、シンクも限界だった。
 これ以上、彼に酷いことを言うのは耐えられないと思った。
 だからハッキリと言って、すべて終わらせようと決意したのだ。

「いつまでもへこんではいられない。魔王を倒そう! それから、ちゃんと謝ろう」

「そうね」

「ああ」

 シンクたちは振り返らなかった。
 魔王を倒すという使命を果たすべく歩き続けた。
 必ず生きて帰る。もう一度ルークに会って仲直りをしよう。
 そう身につけたピアスに触れながら誓ったのだ。

 そして、彼らは二度と――ルークに会うことはなかった。 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 自分の弱さを、こんなにも酷く呪ったのは初めてだった。
 シンクたちを殺したのはきっと僕なんだ。
 僕がもっと強ければ、優しい彼らにあんな言葉を言わせることはなかった。
 危険だとわかっている戦場に、彼らだけを向かわせることもなかった。
 あと少し、ほんの少しでも強さがあれば、彼らの盾にはなれたかもしれないのに……。

「それすらできないほど……僕は弱いのか」

 自分が憎らしい。
 彼を殺したのは魔王だろうけど、僕は僕を殺してしまいたい。
 そうすれば、彼らは僕を許してくれるかな?

「……わかってるよ。きっと怒られる」

 僕が死ぬことなんて、彼らは望んでいないんだろう。
 そんな結末のために、僕を逃がしてくれたんじゃないんだ。
 ただ、僕に生きていてほしかっただけなんだよね?
 ねぇ、皆……僕はこれから――

「どうすればいい?」

 トントントン。

 扉を叩く音が聞こえた。
 僕はむっくりとベッドから起き上がる。

「ルミリアです。ルーク様」

「王女様?」

 僕は慌ててベッドから降りて、扉の前まで移動した。

「こんばんは」

 扉を開けると、そこには銀色の髪をした女性が立っていた。
 純白のドレスに身を包む彼女こそ、ルミリア=リーク=アルザット。
 この国の王女様だ。

「どうして王女様が?」

「あなたと少しお話がしたっかったので……泣いていたのですか?」

「えっ、あっ……」

 僕は焦って目の周りを隠したけど、もう遅かった。
 王女様はそんな僕を見て、とても悲しそうな顔をしていた。

「悲しい出来事でしたね……。大切な仲間を失って苦しみは、私の想像を超えるものだと思います」

「王女様……」

「ですが自分を責めないでください。あなただけでも生きていてくれてよかった。私も父も、心からそう思っています。きっと彼らも同じ想いでしょう」

「……」

 ああ、まただ。
 違う……違うんだよ王女様。
 僕は戦ってない。
 助けられたことにも気付かなかった卑怯者なんだ。
 だから、そんな目で見ないでくれ……。
 励ますような言葉を、僕なんかに使わないでくれ……。

「っ――」

「ルーク様!?」

 僕は耐え切れなくなって逃げ出した。
 どこに向かおうとかは考えていなくて、ただ走り続けた。
 一人になりたかった。
 誰にもわからない所で、消えてしまいたかった。

「はぁ……はぁ……」
 
 テキトーに走り抜けると、いつの間にか王城を出ていた。
 ここはどこだろう?
 街中ではあると思うけど、街灯もないし、建物に囲まれていてとても暗い。
 そのまま道なりに進んでいくと、路地裏へ続いていた。
 ふと、後ろから誰かが近づいてくる気配がする。
 僕が慌てて振り向くと――
 
「まったくお(ぬし)は考えなしじゃなぁ~ こんな場所まできよって……追いつくのに苦労したぞ?」

 聞こえてきたのは、王女様の声だった。
 ただ話し方が全然違う。
 それに何だ……この異様な雰囲気は……。
 
 人影がゆっくりと近づいてきた。
 やっぱり王女様だ、間違いない。
 だけど、さっきまで会っていた王女様じゃないぞ?
 顔も声も同じだけど、髪の色が銀色じゃない……暗くてハッキリはわからないけど、あれは赤黒いのか?
 それにドレスも、純白だったのに闇に溶け込む黒に変わっている。
 加えてこの禍々しい威圧感……まるで――

「魔物?」

「むぅ……失礼じゃな~ 確かにわしは人間ではないが、魔物なんぞと間違われるほど落ちぶれてもいないぞ?」

「……だったら誰なんだ? 姿形は同じだけど、お前は王女様じゃないだろ?」

「その通りじゃよ。ワシはお主の知る娘ではない。じゃがぁ……まったく別人というわけでもない」

 王女様の声で、意味深な言葉を並べていく。
 真っ暗な路地裏に、月の光が少しずつ差し込んできた。
 徐々に照らされていく彼女は――

「ワシはプラム……悪魔であり、鬼であり、吸血鬼でもある――かつて真祖と呼ばれた存在じゃ」

 妖艶な笑顔で僕にそう告げた。

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