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2.悲しい結末

 勇者パーティーを追放された僕は、一人だけ街に残された。
 自分の無力さに打ちのめされて、もう何をする気も起きない。
 僕は泊まっていた宿屋に戻って、三日三晩不貞寝し続けた。
 夢の中で何度も同じシーンが繰り返され、うなされて目覚めるとシーツが涙で濡れている。
 そんな日々をおくっていた僕だけど、いつまでも宿屋に泊まっていられるわけではない。
 いずれお金が底をつくし、そうなれば追い出されてしまうだろう。
 僕は鉛のように重くなった身体を起こして、王国に帰る為に歩き出した。

 これまで通った道のりを逆走していく。
 彼らと一緒に歩んできた道だ。
 考えないようにしても、視界に飛び込んでくる景色が忘れさせてくれない。
 そうすれば、嫌でも思い知らされる。
 自分は今、一人ぼっちなんだということを――

「帰らなきゃ……そう言われたから、帰って……」

 帰って――何をすればいいんだろう?
 僕にはわからなかった。
 このまま歩き続けて王国に戻ったところで、僕の居場所なんてない。
 王国に戻れば、僕を選んでくれた国王と姫様や、期待に満ちた歓声で送ってくれた人々がいる。
 そんな彼らに、僕はどんな顔で会えばいい?
 どんな言い訳をすればいいんだ?
 
 いや……きっと何を言っても無意味だ。
 僕みたいな役立たずに価値なんてない。
 結局、皆が期待を寄せたのは僕じゃなくて、シンクたち本物の勇者パーティーなんだ。
 僕のことなんて、シンクたちが魔王を討伐して戻ってきたら忘れてしまうに違いない。
 そう考えると、こうして必死に歩いて帰る意味なんてあるのか?
 
「……帰ろう」
 
 それでも僕は歩き続けた。
 歩み続けた先に、きっと幸福なんてものは存在しない。
 無意味と知りながら足を止めなかった。

 王都に戻れ――

 それが彼らと最後に交わした言葉だった。
 だから僕は歩き続けたんだと思う。
 あわよくば、もう一度彼らに会えるかもしれないと思っていたのかも……。
 もしそんな日が来たなら、今度こそちゃんと謝ろう。
 これまでの謝罪を、感謝をちゃんと伝えて、ちゃんと別れよう。
 いつしか、そんな無駄な目標だけを抱えて、僕は王都へ歩いていた。

 そして半年後――

「帰って……来たんだ」

 僕はようやく王国に到着した。
 正式名称はアルザット王国。
 人口は三千万人、十七ある国の中で、もっとも人口が多く国土が広い。
 世界最大の人類国家だ。
 王都レーベは巨大な塀で周囲を囲まれており、その中に広がる街には人口の三分の一が暮らしている。

 僕は正門を潜って中へ入った。
 
 行きは二年もかかった道のりだったけど、帰りは戦いもイザコザもなくてすんなりいけた。
 それでも半年が過ぎて、その間彼らの噂を度々耳にした。
 僕と別れてから、彼らは大陸の最果てにある魔王城へ乗り込んだらしい。
 その噂を聞いたのが一ヶ月くらい前だから、もしかするともう終わっているかもしれないな。
 
「あれ……」

 おかしいな、こんなに静かだったっけ?
 僕が魔王討伐し出発した頃は、もっと活気があって賑わっていた。
 それが今は、数えられる程度の通行人しか見えない。
 あの頃は衛兵もよく巡回していたはずだけど、一人も姿がない。
 やはり様子が変だ。
 そう思った僕は、王都中央にある王城を目指した。
 
 王城に近づくにつれ、少しずつだけど人が増えてきた。
 それでもあの頃には遠く及ばない。
 加えて道行く人のほとんどが、悲しそうな表情で俯いていた。
 まるで国中が葬式ムードのようだった。
 全身を嫌な予感が駆け巡る。
 僕は急ぎ足で王城に向かった。

「あの……すいません」

 王城前は王都と同じく大きな塀で覆われている。
 入り口は正門と裏門だけで、門番が常に警戒している。
 僕は正門に到着し、無気力な顔をしている門番の衛兵に声をかけた。
 すると衛兵は――

「あ、あなたは……ルーク殿!?」

 突然大きな声を出して僕の手を掴んだ。
 無気力だった表情が、驚愕の表情に変化したのだ。

「す、すぐに来てください!」

「えっ、あの――」

 衛兵は僕の手を掴んだまま、強引に王城内に連れ込んだ。
 僕はわけもわからず、引きずられるようにして王様のいる部屋まで移動した。

「陛下! ルーク殿がお戻りになられましたぁ!!」

「何だと? すぐに入れ!」

「はっ!」

 王室の扉が音をたてて開いた。
 そこにいたのは、この国を治めるお方――ガルフォード=リーク=アルザット王だ。
 王様は僕を見て、泣きそうなほど辛い表情を見せた。
 それからこう言った。

「よくぞ……よくぞ戻ってきてくれた」

「えっ……」

 予想外の一言だった。
 およそ一番言われないだろうという言葉を、陛下は慈しむように言った。
 理解できない僕は、戸惑い上手く話せなかった。

「ルークよ。お前だけでも無事で、本当に良かった」

「あの……何を……」

「そこの衛兵よ。アレをここに」

「はっ!」

 王様は衛兵に命令を下した。
 アレとは一体何なのだろうか。
 その疑問は、最悪な形で解消されることになった。

「此度はまことに残念だった。お前も無念だろう」

「――……嘘……こんなぁ……」

 衛兵が運んできた大きな黒い箱には、シンクたち三人が入っていた。
 首だけになって――

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