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1.追放宣言

 僕は弱い。
 たぶん、僕より弱い冒険者はいないと思う。
 腕相撲で女の子に負けるし、足の速さも五歳下の弟より遅いし、体力も人並み以下だ。
 剣は重くて上手く触れないし、弓は硬すぎて引き絞れない。
 こんな僕が、勇者パーティーに選ばれるなんて思いもよらなかった。
 
 二年前のことだ。
 僕が十六歳になった日に、王国から知らせを持った騎士がやってきた。
 騎士は僕を指差して、君は選ばれたんだと言った。
 父も母も、僕自身も驚きすぎて声すら出せなかった。
 わけもわからず連れて行かれ、勇者たちと対面し、要領を得ないまま魔王を倒すための旅路に出発した。
 
 僕の生まれは辺境の村で、めったに魔物もでない平和な場所だった。
 だからというわけじゃないけど、生まれてからこれまで、僕は武器というものを握ったことがない。
 村では食料調達のためイノシシ狩りをしていたけど、僕はドンくさいからと参加させてもらえなかった。
 特別なスキルは持っていないし、魔法の才能もなかった僕は、当たり前のように足手まといになった。
 
 だけど、そんな僕にもパーティーの皆は優しくしてくれた。

 聖剣に選ばれ勇者となったシンク。
 彼は誰よりも勇敢で、正義感が強い男だった。
 困っている人を放っておけず、どんな逆境にも屈しない心を持っていた。

「怪我はないようだな。立てるか?」

 失敗ばかりの僕に、彼はいつも手を差し伸べてくれた。
 そんな彼は、皆にとって……僕にとっても憧れのヒーローだった。

 女神に仕える聖女マリア。
 パーティーメンバー唯一の女性で、お姉さん的な存在だった。
 彼女の祈りは、たくさんの人々と仲間の命を救ってきた。

「傷は私が治すわ。だけど無茶しないでね?」

 僕も彼女に、何度救われたかわからない。
 
 賢者と呼ばれた大魔術師ロード。
 彼の扱う攻撃魔法は、強大なドラゴンを一撃で倒すほど凄まじかった。
 彼がいなければ乗り越えられなかった窮地も山ほどある。

「……その荷物、半分持つよ」

 無口で表情に出さないけど、仲間想いでやさしい人だった。

 魔王討伐の旅は過酷で、いつ死んでしまうかもわからないほどギリギリの毎日だった。
 それでも辛いと思ったことは一度もなかった。
 彼らとの旅は、彼らと一緒だったから楽しかった。
 いつか魔王を倒したら、皆で楽しく穏やかに暮らそう。
 そんな約束を交わして、僕たちは旅を続けた。

 充実した毎日――
 そんな日々に、突然終わりが訪れた。

 本当に突然で、何の前触れもなく変化は起こった。
 どんなときも優しく手を差し伸べてくれたシンクが――

「またお前か! 何度言わせれば気が済むんだよ!」

 と、失敗した僕に罵声を浴びせるようになった。
 女神様よりも身近で、僕の傷を癒してくれていたマリアが――

「そのくらい自分で治しなさい」

 腫れ物を見るような冷たい視線を向けるようになった。
 そして、影でいつも僕のことを気遣ってくれていたロードも――

「お前はもう……何もするな」

 まともに言葉も交わしてくれなくなってしまった。
 
 意味がわからなかった。
 理解しようにもできなかった。
 彼らの変化は突然で、まるで人が変わってしまったかのようだった。
 それでも旅は続いて、僕は必死に喰らいついた。
 これは何かの間違いだと、きっと考えがあるんだと信じて疑わなかった。
 
 だけどある日――

「お前はここまでだ。ルーク」
 
 次の街へ出発する直前、シルクは僕に冷たい表情でそう言った。

「えっ、ど、どういう……こと?」

「そのままの意味だ。お前はも必要ないんだ。さっさと王国でも、故郷の田舎へでも帰るんだな」

「な、何で……」

「何で? おいおい、わからないのか?」

 シンクは僕を馬鹿にするように笑った。
 こんなに歪んだ表情を見たのは初めてだった。
 マリアもロードも、ただ僕をじっと見ているだけで、かばってはくれなかった。
 その後、シンクは鬼のように怖い顔になって、怒鳴るように僕にこう言った。

「役立たずなんだよお前は! これまで一度でも、俺たちの役に立ったことがあったかぁ? ずっと我慢してたんだよこっちは! お前みたいなやつでも、一応は選ばれた仲間だったからなぁ!!」

「っ……」

 僕は何も言い返せなかった。
 当然だ。
 彼が言ったことは、全部正しかったから。
 僕は役立たずで、何の力もない足手まといだった。
 それは僕自身が一番わかっていて、認めなくないことでもあった。
 
「じゃあな」

 そう言って、シンクたちは街を出て行った。
 僕はその場で立ち尽くして、あふれて止まらない涙をぬぐい続けた。

「ごめんなさい……っ、ごめん……ごめんなさい……」

 口から出たのは謝罪の言葉だった。
 ひどいことを言われたのに、怒りも憎しみも沸いてこなかった。
 むしろ、こんな僕を二年間もパーティーに置いてくれたことに、仲間として扱ってくれたことに、感謝しかしていない。
 
 弱くてごめんなさい。
 足手まといでごめんなさい。
 気を使わせてごめんなさい。
 察しが悪くてごめんなさい。

 手を差し伸べてくれてありがとう。
 傷を治してくれてありがとう。
 気遣ってくれてありがとう。
 仲間って呼んでくれて――ありがとう。

 涙が乾く頃には、彼らの姿は消えていた。
 そして、僕が彼らの真意を知ったのは、ずっと後になってのことだった。

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