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第10話~月明りの盾~

 クレスを祀った礼拝堂には、等身大の銅像が祀られていた。

「…これが、英雄クレスなのか…」

「そう。この銅像は、魔法によってクレスがまだ存命の時に作られたそうよ」

「魔法で?」

「ええ。魔法でその人物の型を作り、そこに原料となる銅を流し込むらしいわ」

「なるほどな。ということは…」

「そう。素材が銅というだけで、それ以外はその人そのものって訳」

 威厳のある、それでいて優しさも感じられる顔立ち。長髪を後ろで束ね、今にも動き出しそうな姿勢で、その銅像は祀られていた。

「…それにしても、この銅像…何かが欠けているような気がするのは、気のせいか?」

「このクレスの銅像には、『月明りの剣』がないのよ。理由は不明だけど…」

 銅像の右手を見ると、それ自体は剣を握っている形になっているにも関わらず、そこにあるはずの剣の姿だけが見当たらなかった。

「左の腕には『ガーター』があるのに、どうして…」

 その時、突如として銅像が黄金色に輝き出し、同時にアルモが持つ『月明りの剣』もそれに共鳴するかのように輝き出した。

「アルモ…もしかして!!」

「ええ。きっとそうに違いないわ!!」

 アルモは、輝き出した月明りの剣を鞘から抜き去ると、銅像の右手にそれを納めた。

“キィーーーーン…”

 次の瞬間、銅像の左腕にあったガーターが銅像から離れ、銀色のガーターへと姿を変えた。

 そして、剣とガーターは俺とアルモの足元まで移動すると、激しい輝きは失われ、月明りのような優しくほのかな輝きへとその姿を変えた。

「アルモ…これって、もしかして…」

「…間違いないわ。このガーターが、アーティファクトの一つ『月明りの盾』に間違いないわ」

 そう言ってアルモが月明りの盾を拾い上げようとした、その時だった。

“タッタッタッタッタッ…”

 礼拝堂の入口の奥から、何者かが近づく足音に気づいて俺とアルモは、入口に目をやった。

 すると…

「アコード!それにアルモ!!無事だったか…」

「シュー!シューじゃないか!!」

「どうしてあなたがここに?」

 礼拝堂に姿を現したのは、グルンニードの宿に居るはずのシューだった。

「サリットはどうした?それにザイール殿は?」

「サリットは少し調子が悪くて、宿に待機している。ザイール殿は俺にアコード達への言伝を頼むと、街に情報収集に向かった」

「サリットは大丈夫なのか?」

「ああ。休んでいれば、大丈夫みたいだ」

「そうか…」

「それで、ザイールの言伝って?」

「それなんだが…二人の後ろにある月明りの盾…それは罠だ!!」

「罠…だって?」

「どういうこと?」

 駆け付けたシューによれば、封印を解除した直後に現れるアーティファクトは罠で、それを破壊することによって、真のアーティファクトが姿を現すのだという。

「ちょっと待って…ザイールは、確か総帥からアーティファクトの封印について引継をしていないから、詳細は分からないと言っていたわよね…」

「確かに…詳細が分からないから、アルモが直接本部に行けば何か分かるかも知れないってことで、俺とアルモのみで本部に潜入することになったんだったよな…」

”ジーーーーー…”

 疑いの眼差しでシューを見る俺とアルモ。

「い…いや………ザイールが昨晩本部から持ち帰った資料を整理していたら、封印について分かったらしくてな…」

 明らかに、動揺した面持ちでその場を取り繕おうとするシュー。

 その時だった。

“ドドドドドドドド…”

 礼拝堂の入口から、今度はかなりの人数の足音が木霊してきた。

 そして、100人は収容できるであろう礼拝堂に、50人余りの教団兵が姿を現した。

「アコード!」

「シュー!今は言い争いをしている場合じゃなさそうだ!!お前は俺とアルモの援護をしてくれ!」

「了解した!!」

 俺とアルモの前にいたシューが、不敵な笑みを浮かべながら俺たちの後方に下がろうとした、その時…

「アルモ!!」

「ええ!分かっているわ!!」

 アルモは足元に置かれた月明りの剣を右手で拾い上げると同時に、月明りの盾を左手で拾い上げようと試みた。

“ササッ…”

 ところが、あと一歩のところで拾い損じてしまい…というよりも、即行で動いたシューのスピードに負けてしまい、月明りの盾を拾い上げることは叶わなかった。

 そして月明りの盾は、シューの両手に納まっていたのだ。

「シュー!!」

「それを返して!!」

「いやいやお二人さん。これは罠だと言ったじゃないですか!」

「罠だったとしたら、シュー!お前も危ないんじゃないのか?」

「俺?俺は大丈夫さ。なぜなら、教団が長年かけて研究した、対アーティファクト魔法によって守られているのだからな!!」

“ピキーーーーーン!!”

 次の瞬間、アルモが持つ月明りの剣と、シューに成りすました人物が持つ月明りの盾が再び共鳴し、輝かしい光を放ち出した。

“ピキ………ピキピキピキピキ………”

「…何だ、この光は……あぁ…私の魔法が解除されていく……」

 まるで春先に凍った湖面が割れる時のように、シューの姿の複数個所にヒビが入り、ボロボロと剥がれ落ちていく。

 そして、数秒後にはシューの姿は跡形もなく崩れ去り、光を放っていた月明りの盾は、本来の持ち主であるアルモの手に瞬間移動していたのだった。

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