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第3話~ガイーラとの出会い~

 父さんから、古の剣士が使っていた『月明りの剣』を譲り受け、己の運命を悟った私は、父さんと母さんの住む生家を後にした。

「(父さんは…)」

「(アルモ。この剣と共に旅立ち、真の世界の理を見てくるのだ!)」

「(と言っていた…とりあえず、いつも買い出しに行っていた町まで行ってみよう…)」

 私は、町までの道を歩き出した。







 どれほど歩いただろうか。

 夕刻過ぎに終わった成人の儀式直後に両親から受けた告白。その後、剣に触れた次の瞬間に私の頭に流れ込んできた剣の記憶。そして旅立ち。

 生家を勢いよく出てきたものの、成人の儀式が終わったあたりで東の空から登り始めた月は、私の頭上を通り過ぎ、既に西の空へと傾いていた。

「(…いつでも旅立てるようにって、母さんが荷物を用意してくれていたから野宿には困らないけど…こんなことなら、太陽が昇ってから出発するべきだったかな…)」

 生家を勢いよく出て来てしまったことを後悔しながら、野宿の準備をし焚き火を起こした私は、荷物の中からチーズを取り出し軽く炙ると、地面にとろけ落ちる前にパンの上へ乗せ、口へと運ぶ。

「(…真の世界の理、か…そんな簡単に見つかるのかな…)」

 簡単な夕食を済ませ寝袋に包まった私は、木々の隙間に見え隠れする満天の星空を眺めながら、そんなことを考えていた。

 だが…

“ササササササ…”

「(!!!この足音は………オオカミの群れ!?)」

 寝袋から瞬時に出た私は、腰に剣を装備すると、無駄と分かっていながらも焚き火を消し、耳を澄ます。

“タッタッタッ…”

 すると、オオカミと思しき群れの足音の中に、微かだが人の足音が混じっていた。

“タッタッタッ…”

「(少しずつ、足音が大きくなっている…)」

 漆黒の闇に染まる周囲に同化した私は、剣の柄に手を当てその場に構えると、少しずつ大きくなる人の足音を確かに耳で捉えながら、それの出方を伺う。

 刹那…

“キンッ!”

 私は、素早く月明りの剣を鞘から抜き去ると、背後に現れた足音の正体ののど元に切っ先を突き立てた。

「わっ!ストップ!ストップ!!俺は怪しい者じゃない!」

「私の両親が言っていたわ。『自分は怪しくない』と言い張る者ほど、怪しむべきだと…」

「だから、俺はその両親から頼まれて、あんたを追いかけて来たんだって!」

 薄暗くて顔は良く見えないものの、その男はとっさにCrescent Allianceの紋章を、ほのかに輝く月明りの剣の刀身近くにかざした。

「それは…」

「信用してもらえたようだな…だが…」

“ササササササ…”

「しまった!あなたに気を取られて、オオカミの群れが近づいているのを忘れていたわ…」

“キンッ!”

 すると、鞘から抜き去ったロングソードを目の前に構えたその男は、私と互いに背中を預ける形で立った。

「おっと!俺もまだ死にたくはないんでね…俺の疑いも晴れたことだし、ここは共闘しようじゃないか!アルモさん!!」

「…あなた、名前は!?」

「おっと、これは失礼。俺はガイーラ。表向きはフォーレスト王国の近衛隊長をやっているが、裏の顔はCrescent Allianceの遊撃部隊員さ」

「CAにも、部隊があるのね…」

「そんなことよりも、今は目の前のオオカミ共をどうにかするのが先決だ。話は、こいつらを始末してからにしよう!」

「そうね。私の背中は預けたわ!」

“タッタッタッ…ズシャ!”

“キャインキャイン…”



***



「こうして私とガイーラは出会い、オオカミの群れを壊滅させ、私は無事にCrescent Allianceの本部に迎え入れられたわ。ただ、本部といっても、ただの一軒家だったけど、ね」

「なるほどな…それで「命の恩人」な訳か…」

「そのガイーラが、もうこの世の人じゃなかっただなんて…ううっ、ヒック…」

 昔語りが終わり、再び感極まったのだろう。アルモは再び嗚咽を漏らし始めた。

「レイスは、ガイーラがCAのメンバーだったことは知っていたんだよな…」

「まぁ、そうだな。かくいう私も、だ…」

 レイスがペンダントに装飾されたCAの紋章を見せる。

「そうだったのか…」

「ガイーラ様は、この国の近衛隊長を任される程、腕の立つお人だ。敵将は『今頃は死んでいる』などとほざいていたが、私はいまだにその言葉信じられぬ。主はきっと、どこかに落ち延びているに違いない…」

 レイスの言葉に、アルモの嗚咽が止まる。

「…そうよ、ね…ガイーラさんが、死ぬわけないわよ、ね…」

 レイスの言葉に信ぴょう性など微塵もない。

 だが、その場の3人を奮い立たせるには十分すぎる言葉でもあった。

「…とりあえず、フォーレスト城を出よう。城の外の様子も気になる…」

「…それも、そうね。こんな辛気臭い場所でウダウダしているのを、ガイーラだったら許さないだろうし…」

「アルモの言う通りだ。私も、こんなところでメソメソなどしていられない!」

「よし!それじゃ城の外へ!」

 こうして俺たち3人は、ガイーラに扮していたワイギヤ教軍12将軍の1人ラジマの撃退に成功した謁見の間を後にし、フォーレスト城を出たのだった。

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