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05 マントを持たないサラリーマン

「妻も子どももいないおじさんさ。
 バット(武器)を持たないおじさんは。
 マントを持たないおじさんさ。
 空は飛べないおじさんさ。
 なのにクビはすぐとぶのよ、おじさんは。
 かなしみのおじさん」

 男が涙を流しながらそう歌う。
 静かで安全な世界に生きたその男にもかつて家族がいた。

 しかし、ベルゼブブという王の存在が現れ……
 全てを奪っていった。

 もう男には、妻も子もいない。
 ベルゼブブに殺された。

 復讐を誓った。
 敵討ちを誓った。
 しかし、誓うだけではなにも産まれない。
 復讐をしたところで家族は戻ってこない。
 なぜならそれが、死なのだから。
 そしてなにより……
 そしてなにより……
 男には凶悪と戦う力がない。
 だから歌うしかない。

「妻も子供もいないおじさんは。
 |武器《ツルギ》も持てないおじさんが。
 マントを持たないおじさんで。
 空も飛べないおじさんさ。
 なのにクビはすぐ飛ぶおじさんで。
 ぜつぼうのおじさんなのさ」

「よう」

 誰かがそういって近づいてきた。

「誰ですか?」

「私かい?私はそうだな。
 『社長』とでも名乗ろうか……
 ところで君!24時間働く力は欲しくないか?」

「24時間ですか?」

「ああ、永久に働ける力だ。
 私にはそれをお前に授ける力がある」

「社畜ですか?」

「そうだなある意味社畜だな。
 会社のために働くのではない。
 社会のために働くんだ」

「社会?なんのために……でしょうか?」

「ベルゼブブを倒すためにだ」

「え?」

「ここにひとつのキャンディがある」

 社長は、そういって白い包みに入ったキャンディを男に見せた。

「飴ですか……?」

「これは、最強の武器を作ろうとしてできたものさ。
 これで、第二の武器を作る予定だった。
 このキャンディを舐めると神々と同程度の力……まではいかないが。
 目の前の悪を倒すくらいの力は得れる。
 だが、失敗すると死ぬ」

 男は小さく笑う。

「いいですよ。
 死ぬのもいい。
 死んでもいい。
 失ったものはたくさんある。
 もう失うものはない。だったら僕は!!」

 男は、キャンディの包みを開け輝くキャンディを口の中に入れた。
 するとキャンディはすぐに男の口の中で溶ける。

 男の胸から溢れる感情。
 憎しみでもない、苦しみでもない。
 優しさでもない、愛でもない。
 それは、まさに太陽。
 空が平等に照らす温もり。

「おお、これは……」

 社長の胸が熱くなり涙があふれる。

「この暖かい感情これは」

「まさに炎、まさに太陽」

 歌が溢れる。
 歌が溢れる。

「妻も子どももいないサラリーマン。
 |武器《ツルギ》を持たないサラリーマン。
 マントを持てないサラリーマン。
 空は飛べないサラリーマン」

 男の心に温もりがあふれる。
 涙があふれる。

「お前の名前は、サラリーマンだ!
 サラりとやってきて人々を救う男!
 それがサラリーマンだ!」

 社長は、そう言って優しく微笑む。

 それはカナタがいる村から遠く離れた場所【アンパン村】で起きた出来ごと。

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