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校外学習と過去の因縁⑧




校外学習2日目 午前 小町通り


翌日。 早速班別行動を開始した結人班は、ホテルの近くにある鎌倉の小町通りというところへ来ていた。 
ここはたくさんの店が並んでおり、食べ歩きや土産を買うのにもってこいの場所だ。 
『ここへ行きたい』と言ったのは藍梨と愛であり、班員である男子たちは当然彼女たちの意見を採用する。
「んー。 ・・・椎野たち、大丈夫かな」
藍梨と愛が店の中へ入って楽しそうに会話している光景を見ながら、結人は仲間である椎野たちのことを考えていた。 その発言を聞いて、隣にいた真宮も口を開く。
「まぁ、アイツらなら大丈夫だろ」
「そうかな」
「昨日ユイが部屋を出ていってからは、椎野はもう北野の話はしなくなったぜ」
「え、それって・・・」
「この喧嘩を深く考えていないか、もう北野との仲直りを諦めているかのどちらかだな」
「・・・いいのか、それ」
淡々と分析していく彼に、複雑な表情を返す。
「まぁ椎野のことだし、後者の方はまずないだろ。 つか、北野の方は昨日どうだったんだ?」
椎野の視点から、真宮は上手く北野のことへと切り替える。
「昨日北野の部屋へ行ったら、そこには御子紫とコウと優がいてさ。 何か4人で、解決策を考えたんだとか」
「解決策? なら安心だな。 だったら大丈夫だろ」
「んー・・・」

―――でも・・・何なんだろう。
―――すっげぇモヤモヤする。

~♪

話に丁度区切りがつくと、真宮の携帯が鳴り出した。 ポケットから取り出し名を確認すると、そのまま電話で相手と話し始める。
そんな彼をよそに結人はなおも考え続けていると、真宮が急に話を振ってきた。
「あぁ、分かった、ちょっと待ってな。 ユイ」
「ん?」
「伊達が鎌倉のこと何も知らないらしいから、ユイに案内してもらうため今から合流してもいいかって」
「は!?」
突然そのようなことを言われ、慌てて視線を彼女の方へ向ける。
「いや、突然そう言われても。 藍梨は何て思うか」

「直くん? 会いたい!」

―――・・・マジかよ。

「ははッ。 じゃあ決定!」
どうやら藍梨は結人たちの会話を聞いていたようで、笑顔でそう口にしてきた。 そんな彼女の答えに結人が呆気に取られていると、真宮は話を進め出す。
「伊達、いいってさ! 今ホテルの近くの“小町通り”っていうところにいるから、そこまで来いよ。 入口のところにいるから、すぐに見つかると思うぜ」
「おい真宮、勝手に決めんなよ」
「じゃ、また後でなー!」

―ピッ。

そうして彼は、満足そうに電話を切りポケットの中にしまい込んだ。
「別にいいだろ。 藍梨さんの要望に応えてやらないのか」
「でも、だからってどうして伊達・・・」

そして――――それから、数分後。
「よっ、ユイ」
「・・・本当に来たのか」
本当に来た伊達班を見て、結人は複雑そうな表情を浮かべる。
「つか、俺は横浜出身だし、鎌倉なんて一度や二度くらいしか来たことねぇから案内はちゃんとできないぞ」
「別にそれでもいいよ。 人数多い方が楽しいだろ?」
そう返事をした後、伊達は結人の隣にいる櫻井の方へ目をやった。 突然目が合うと彼は一瞬ビクッとし、慌てて目をそらす。
その様子を見て、伊達は嬉しそうに言葉を紡ぎ出した。
「櫻井、中学の頃と比べて大分変わったよな。 んー、変わったと言えば、櫻井が文化祭の時にユイと関わり始めてからか・・・。 ユイと何かあった?」
「え」
突然そのようなことを尋ねられ、あまり伊達とは会話慣れしていない櫻井は戸惑ってしまう。
「まぁとりあえず、ユイと何かあったのは間違いねぇんだろ。 よかったな」
「・・・」
だがそんな彼に構わず、なおも嬉しそうな表情でそう付け加えた。 そんな伊達を見て俯いてしまった櫻井に、結人は優しくフォローを入れる。
「櫻井、大丈夫だよ。 伊達はいい奴だから、怖がる必要なんてねぇ」
その言葉を聞いた櫻井は、ゆっくりと顔を上げ結人のことを見て、もう一度伊達と目を合わせた。
「うん・・・知っているよ。 中学の頃、伊達くんとは、何度か同じ・・・クラスに、なったことがあるし。 
 優しくて・・・人思いで、とても温かい人だっていうことは・・・俺は知っているよ」
「あ・・・。 そっか」
優しい表情でゆっくりとその言葉を綴った彼に、小さな微笑みを返す。

―――櫻井はいい奴ってことは知っていたけど、伊達も結構色んな人のことを見ているんだな。
―――流石だぜ。

その言葉を聞いた伊達は微笑み返し、ふと右の方へ目をやった。 そして彼女の姿が目に入るなり、突然声を張り上げる。
「お、藍梨!」
そう口にして走って藍梨のもとへ駆け寄る姿を見て、結人は慌てて口を挟んだ。
「あ、おい伊達! お前抜け駆けすんなよ!」
―――何だよ、伊達のことを感心したばかりだっつーのに!
だが伊達を引き止めるのはもう手遅れだと思い、彼を追いかけることを諦めその場に足を止める。
―――つか・・・藍梨を一度手放した俺も悪いが、伊達に藍梨を呼び捨てされると地味に腹が立つなぁ・・・。
内心そう思いつつ伊達のことを軽く睨んでいると、真宮が結人に近付いて楽しそうに言葉を紡ぎ出した。
「いやー、伊達もある意味青春していますねー」
それを聞いて、溜め息をつき小さな声で呟く。
「あぁ・・・。 何かすっげぇモヤモヤする・・・」
「ん? 伊達のことで?」
「いや・・・。 伊達が来る前からこのモヤモヤはあった。 何つーか・・・。 嫌な予感がする、っていうか・・・」
「嫌な予感? ・・・あぁ、椎野たちのことか?」
真宮からそう言われ、結人は俯いたまま彼から顔を背けた。
「まぁ・・・この嫌な予感が、それだといいんだけどな」
「だから大丈夫だろ。 椎野と北野なら、普通に仲直りするって」
「・・・」

―――それは・・・分かっている。
―――でも・・・何なんだろう。
―――この、漠然とした不安は。


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