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リーゼロッテ様

(ヤバっ、ヘッドホンもしないで朝からガン弾きしちゃった。ま、しようにもヘッドホン自体ないっぽいけど)こんな書き割りみたいな壁だもん、周りに丸聞こえだよね。もしかして隣の人が怒鳴り込んできた?そう思いつつ私が、
「あ、はい」
と返事をすると、何故か扉の向こうで、
「きゃぁ!」
と言う叫び声が聞こえた。そして、ワンテンポおいてから、おそるおそると言う感じでドアが開くと、この世界での私の侍女カエラちゃんが、
「おはようございます、リーゼロッテ様。
申し上げございません、朝からすばらしい演奏を聴かせていただいて、思わず拍手してしまいました」
とうわずった声でペコりと頭を下げる。あ、ここ「コントラの名手」の中だもんね。お隣さんの大学生が出てくるわけないかと、ちょっとホッとする。でも、あれって、ノックじゃなくって拍手だったの?
 えっと、ゲームの中では一応私、男爵令嬢(頭に貧乏の文字が付くけどね)なんだわ。
 
 で、入ってきたカエラちゃんはというと、質感があるのに手書き感満載で、どう言えばいいのかな……3Dアニメ? が一番しっくりくる感じかな。でも、なまじ実写化(っていうんだろうか)されてたら、この子がカエラちゃんだってわからなかったかもだし、この学芸会のセットっぽい背景じゃ、生身の人間である方が浮きそうだわ。そう思って私は目線を下にする。うん、私の身体もしっかり二次元半になってる。(ここはホッとしていいのかどうかわかんないけど) 

 それはともかく、リーゼロッテ様って……いやさ、この名前を付けたのは間違いなく自分なんだけどさ、実際にそう呼ばれるとめちゃくちゃハズい。
 だってね、このゲーム、中世のヨーロッパ風だったから、金髪碧眼のアバター作っちゃったんだもん。そんな子に本名の優花って、合わないっしょ。ま、ゲームに端から本名つける気はないし。

 私は、カエラちゃんが持ってきた服を受け取って着替える。本来なら男爵令嬢なんだから、着替えも手伝ってもらうのがセオリーだろうけど、主人公はこれから王立音楽院に行く。もっと位の高い貴族なら別なんだろうけど、ウチみたいな貧乏貴族には侍女込みで住めるところなんて用意できないから、基本的に自分のことは自分でやらなきゃならない、たぶんそんな設定だったはずだ。たったとお召し替えをしていく私に、
「はぁ、もうすぐリーゼロッテ様、行っちゃうんですね」
と、カエラちゃんがため息をついた。これって、シナリオ通りの台詞ではあるんだけど、実感込めて言われるとぐっとくるね。リアルで実家を出たときのことを思い出すなぁ。 

 着替えを終えると、ダイニング(貧乏とはいえ、そこは貴族、実家一軒まるごとはいるくらいあったりする)で、朝食を……

 しかし、出てきたメニューに思わず目が…に。ご飯に味噌汁にあじの開きに生卵に納豆って……日本の温泉旅館か、ここは!! 中世ヨーロッパじゃないの?? この舞台。

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