バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

七話

 少年は、父と朝食を取っていた。実に一ヶ月ぶりである。
 もちろん、何故食事を取ってくれているのか、少年にはわかっている。
 ここ数日、耳の早い「友人」が急増しているのを考えれば、遅いくらいだ。

「ホーク。ヒーローと伝手を得たそうだな」
「伝手まで育てられるかどうかは、今後の対応次第かと」

 自らの言葉の冷たさに少年は震える。本当は、こんな会話をしたいのではなかった。
 
「私が引き継ごう。携帯を寄越せ。第一、何故あの日二つ目の携帯を買いに行った?」
「三つ目ですよ。携帯を渡しても良いですが、貴方が出た途端捨てられて終わりでしょうね。裏切るのが早すぎる」
「お前はまだ子供だ」
「だからこそ、受け入れられたと思っています。何より、ヒーロー・シャインは僕と同じくらいの年ですよ」
「……いいだろう。ならば、人をつける。ヒーローの信頼を勝ち取れ」
「お望みのままに。ところで、5月5日の誕生日パーティですが、出席されますか?」
「予定を」
「その日は軍の会議が入っております。キャンセルなさいますか?」
「まさか。誕生日パーティは欠席にしておいてくれ。もう子供じゃないだろう」

 一度だって参加してくれた事がないじゃないか! 僕はまだ13歳だぞ!。
 少年はなんでもない風を装い、食事を終えて部屋へと向かった。
 電話が鳴る。

『あー、えっと。俺の名前はアクアだ。君の名前は?』
「ホーク。電話をくれたと言う事は、困り事かな?」

 先ほどつけられたばかりのお付きの者が身じろぎして耳を澄ませるのを感じつつ、会話を続ける。

『ホームページを開設したら、すぐにカウンターが大変な事になって壊れちゃったんだ。君だったらどうにか出来る? 少なくとも、100万アクセスに耐えられるサイトが欲しいんだけど』
「もちろん。何か広報したい事が?」
『俺達が、仕事で100の事件を解決している事は知っているかな?』
「一応ね。要人の産まれるきっかけになる人々を助けているみたいだけれど」

 一応、ヒーローの情報は集めるだけ集めている。サイトを作って落としたのは、食事中に起こった事だろう。ホークの情報網でそれを見逃すはずはなかった。

『そう。実は、他にも仕事があって。ほら、普通の仕事だって、パーティの幹事とか頼まれたりするだろう?』
「君達のパーティならば、こぞって人が押し寄せるだろうね」
『だと良いけど。日を決めて、毎年盛大に騒ぎたいって話なんだ。クリスマスを超える大騒ぎをね。まだ何も決まっていないけれど、その告知をしておきたい。街を飾り付けるんだ』
「魔法の力で?」
『魔法の力で』

 ジョークに対する笑い含みの声に、ホークは息をのんだ。彼らにとっては、当たり前の事なんだ。彼らは街を魔法で飾り付ける……。思わず胸を高鳴らせる。

『なので、告知をしておかないと。それと、これは多分、ヒーローのイメージアップの為なんだろうけど、五分間の歌のPVを作る事になってるんだ。初めてサイトにアップして一ヶ月以内に100万アクセス達成したら、特別ボーナスが出る事になっている。一人が達成すれば良いんだけれど、どうせだからって全員で歌う事になって。これをホームページであげるか、ユーチューブに代理であげて欲しい』
「日本で多い手法だね。あー……。5月5日に、大きな会場を抑えてある。僕の誕生日をするはずだったんだけれど、両親も来ないし、子供も来ないんだ。おかしいよね。両親目当ての大人達だけが来る、誰も得をしないパーティーさ。……思うんだけど、こんなパーティ開くのだけ無駄じゃないか? うん。君達が良ければその日なら場所を提供できるよ」

 必死だった。自分の誕生日がメインにならなくてもいい。でも、ちょっとぐらいは祝ってくれるかも知れない。それに、父様が出席してくれるかも知れない。
 ホークの誕生日には欠席しても、ヒーローの出席するパーティならば。

『それは……わかった。相談しておくよ』
「秘密裏に作曲家に渡りをつけるのなら、今のうちだけど。もう少ししたら、僕と君達の繋がりが広まると思う。その後で手配しても、どうしてもマスコミとかが入り込んでくるだろうね。もちろん、アクセスを稼ぐのが目的なら、大々的に宣伝する方が都合が良いけれど」
『勝手だと思うけれど、俺達もよく知らないし、下手な事を喋って変な事になるのは嫌なんだよ。正体がばれるきっかけにもなると思うし。うん、渡りをつけて貰っても良いかな?』
「わかった。それと、ちゃんとした携帯を渡すから、携帯の用途を教えて欲しい。もちろん、パソコンは自宅では使っていないよね? ネットに繋げばすぐハックされると思っていい。ネットに繋いでいる限り、カメラ付のパソコンは監視カメラと同じだと思った方が良いよ。大事なデータも入れちゃ駄目だ。何せ、君達は有名人なんだからね。携帯も同じ。いつでも逆探知されると思って。無料のデータバンクとか、まさか使ったりはしないよね? セキュリティは破られるものだ」
『一応、公共のWi-Fiを使っているけど、気をつける。お互い正体は隠しているし、ここの場所も逆探知されてもいい公園だし、君に話して良い事しか話してないよ』
「よろしい」
『携帯だけど、一応通報とか色々出来た方が良いと思って。連絡とか』
「僕が代わりにするよ。窓口を僕にすれば、僕しか連絡先を知らないですむ。でもそうだね。歌については、連絡を取り合う必要があるか。いくつかメールアドレスを取得しておくから、用途毎に使いわけると良いよ」
『助かる』
「それで、報酬の話だけど。携帯とサーバーは約束だから無料にするけど、ホームページとメールアドレス、PV17本の報酬は貰うよ」
『45,000ドルでどうかな』
「言ったはずだ。お金での依頼は受けない」
『デート券やキス券でも渡せって?』
「それでいいよ。17人分ね」
『シャインのキス券は渡さない』
「君のキス券はくれるんだろう? 僕にそういう趣味はないけれど、女性になら高く売れそうだ」
『くっ 質問はなし。デートコースはこちらで決める。エッチももちろんなし。キスは……男共でほっぺならいいや。デート券の譲渡は、君からの一次譲渡のみ認める。君の仕事が完璧だったら、もう一枚ずつ渡す』
『契約成立。僕にお任せあれ。希望があったら纏めてUSBで渡して欲しい』

 電話を切る。

「作曲家のリストを。有名でなくても良い。有名でない方が良い。腕が良くて契約を守る人間を選ぶんだ。もちろん、ヒーローのイメージダウンにならないよう、人格のしっかりした人を。最終チェックは僕がする」
「サーバーはいかがいたしましょう」
「準備はするが、後で良い。まずはPVを撮る事が先だ。それまで情報を拡散させないようにしないと、ああ、それと」
「はい」
「デートに良さそうな服を仕立てないと」
「さようでございますな。それは私がお引き受けしましょう」

 執事は微笑んだ。

しおり