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是正4

 現在の時刻を確認した後、まだ夕方には十分に時間があるようなので、魔法道具を弄る事にする。
 手を加える魔法道具は、変わらず転移装置。今のところ設置場所を変えるつもりはないのだから、別の方法を考えなければならない。
 とりあえず目の前に地下三階にある転移装置と同じ物を創りだす。相変わらず大きいが、この部屋も広いからな、少し圧迫感を覚える程度なので問題はない。流石に転移装置を置く周辺の片付けぐらいはしている。
 さて、次はこれをどうするかだ。
 今のままでは転移の有効範囲はまだ狭い。それを上げるには、まずは他の魔法なりと干渉しないようにしなければならないが、その為には少なくとも地上に設置しなければならないだろう。しかし、転移装置の設置場所を動かすつもりはないので、それを別の物で補助するか、転移装置に組み込んでいる魔法の出力を上げるかしなければならない。
 魔法の出力を上げる場合は、まず転移装置自体の容量を上げなければならないが、これ以上の巨大化は出来たら避けたいところ。なので、どうにもならなかったらの最終手段としてとっておこう。
 そういう訳で、自ずと転移装置を補助する魔法道具の作製を行う事になる。

「・・・補助の魔法道具を作製するのと、転移装置の容量増やすのに何か違いがあるのだろうか?」

 結局のところ新しい何かを創るという事になるので、それは即ち新しく何かしらの物を追加するという事になってしまう。それは転移装置を大きくして容量を増やすのと違いがあるのだろうか? と不意に疑問に思ってしまった訳だ。
 まぁ、転移装置を大きくする場合はその場で大きくするので狭くなるというのはあるが、あの部屋は魔法道具を置いているだけだからな、転移出来る場所さえ確保出来れば問題ない。
 だが補助の魔法道具の場合は、持ち運びがしやすいという利点がある。
 例えば転移装置の本体は動かせないが、補助の魔法道具と転移装置を魔力なりなんなりで繋げてしまい、補助の魔法道具を地上に置いてしまえば、転移装置の出張所のような位置づけにはならないだろうか? 勿論、転移した時は転移装置周辺に転移するが、それでも転移の道を補助の魔法道具の方に繋げてしまい、そこから転移装置の本体の方へと元々繋げている道を使って送ってしまえばいい訳で。そうすれば、転移装置の設置場所はそのままに、地上へと転移装置を設置したのと同じ効果が得られるような気がする。

「ふーむ、ふむ。咄嗟に考えたにしては悪くないかも?」

 補助の魔法道具自体は以前考えていたので多少の構想があったのだが、それにしても今その考えを纏めたにしてはいい考えだと思う。これならいけるかもしれないので、もう少し煮詰めてみよう。

「大枠では今の考えでいいだろう。本体の転移装置が在り、それと繋げて補助する魔法道具を創る。あとは補助の魔法道具の役割をもう少し明確にすれば、本体の魔法の調整も出来るだろう。それと本体と補助の接続方法か」

 ただ、本体と補助を魔力で繋げるという方法だが、それを阻害されてしまう可能性はあるだろう。可能性は低いだろうが、そうなっては困る。それは故意的に起きるだけではないだろうし。
 では有線で物理的に繋げるというのも方法ではあるが、その為には階層を貫通させなければならないし、幾ら小さな穴にしたとしても、直通の穴が開くのは歓迎できないだろう。それではプラタの努力が水泡に帰しかねない。

「そうなると、補助の魔法道具の更に補助が必要という事になるのか? いや、もう全部ひっくるめて補助の魔法道具なのだろうが」

 今考えている構想としては、本体である転移装置とそれを繋ぐ魔法道具。更にその魔法道具と繋ぐ別の魔法道具・・・といった感じで繋げていき、最終的に地上に補助の魔法道具を設置するというものだ。
 魔力で繋げる場合、短ければ短いほど強固な繋がりになるので、それを利用して階層間には穴を開けずに魔力で繋げ、同じ階層というか部屋では有線で繋ぐといった感じ。要は各階層の天井と床に魔法道具を設置して、それを魔力と有線で繋げていくという訳だ。階層間の厚み程度であれば、魔力で繋いだとしても余程強力に干渉しようとしない限りは乱される事はないだろうからな。
 つまり、これで魔力の繋がりが乱される様であれば、それは故意である可能性が非常に高く、それを何者かの攻撃だと断定可能だという事。
 有線の方は、実際に切断するか触れられる距離まで近づかない限り干渉がかなり難しいので、こちらが干渉を受けた場合は、何者かが既に侵入を果たしている事になるだろう。
 そういう訳で、この構想で繋がりの方は何とかなりそうだ。あとは補助の魔法道具の役割と組み込む魔法の構成。それに伴う本体の方の調整ぐらいか。それらが終われば後は実際に稼働させてみて、それも上手くいけば完成だろう。そうなれば、少しは転移の有効範囲が広がると思うのだが。

「補助の魔法道具を一時的に道の終点に設定すれば、少なくとも地下に張り巡らされているプラタの魔法の干渉は避けられるし、地下という空間からも脱せられるから、そこそこ有効範囲は延びると思うんだよな。それでも千キロメートルはいかないだろうが」

 いっそ国外にも設置するというのも手だが、どれだけ他所からの干渉を厳しく禁止にしていたとしても絶対は無いからな。この辺りは流石に今考えることではなく、実行するにも少しずつ様子をみながら考えていかないといけない事だな。
 国外、もっと正確に言えば、プラタが張っている結界の外に関してはまた日を改めて考えるとして、その内側ギリギリまでなら考えてもいいかもしれない。結界近くまで移動すれば、その分外との距離も近くなるわけだし。
 ただ、基本的に有効範囲は円形なので、設置するにしても一ヵ所では有効範囲が偏ってしまう。この場合は東西南北の四ヵ所に設置するぐらいでなければ駄目か。
 無論理想は中心に一つだけ起点であり終点になる場所を設置する事だが、今のボクでは実力が伴っていない。

「そうなると、補助の魔法道具間の地上での接続方法を考えなければならないな」

 地下から地上への構想は先程のでいいだろう。それに組み込むべき魔法も幾つか候補があるので、そちらを検討した後に本体部分の転移装置の調整をすれば完成だ。こちらに関しては問題なさそうだな。
 その一連の構想を整備して調整したら、第一段階が完成する事になる。これで有効範囲が少し伸びた事になるので、それで次が今考えている部分だ。
 第一段階では有効範囲が少し伸びた程度なので、正直これではその前と大差ない。だが、地上に転移の道を創ったというのが大きいのだ。なので、第二段階は引き継ぎ有効範囲を拡大させる方面で思案している。
 概要としては至極単純で、転移装置の主張所を各方面に設置して繋げるというもの。この第二段階では主張所の設置は国内に留め、国外の設置は後回しだ。
 最終的には中心に一つに集約したいところだが、その目処は全く立っていないので、今はどうでもいい。
 さて、国内に主張所を設置するのは問題ないのだが、問題はその主張所の接続方法。こちらは第一段階の時に危惧したように、魔力で繋ぐと干渉や妨害を受けてしまう可能性が在る。そうなると、最悪転移装置を使って地下三階まで一気に敵を呼び込んでしまいかねないし、そこまでいかなくとも、各主張所を掌握されてしまうと国内を好き勝手に移動されかねない。それは十分危機的状況と言えるだろう。
 そうなっては困るので、魔力での接続も考えものだ。では有線での接続はとなると、これもこれで難しい。
 この地下空間のように閉鎖的な場所であれば管理も容易いが、国内とはいえ地上に張り巡らせるには隙が多くなりすぎる。そこから侵入されれば、結局は同じ事。いや、線を切断されれば簡単確実に妨害が出来てしまうので、それも厄介だ。

「有線の場合、線は地下に埋めるという方法もあるけれど、それでも確実ではないからな。どれだけ深く埋めようとも、穴を掘られたらいつか到達出来てしまうし、それに現在この国はまだ発展途上。主張所を繋げる為に地下に線を張り巡らせてしまえば、開発に支障が出るかもしれない。その辺りを考えれば簡単にはいかないよな」

 拡げるにしてもまずは国内よりも、この上に広がっている街の範囲から考えていくべきかも? ・・・そうだな。第二段階は修正して、国内からまずは上の街内への範囲に縮小する。

「よし。であれば、まずは第一段階の方を詰めていくか」

 時間はまだある。そろそろ夕食の時間ではあるが、どうせここで一人虚しく保存食を食べるだけだし、それに元々夕食後も作業は続けるつもりだったのだ、この勢いのままに色々と決めてから創ってしまおう。一食ぐらい抜いても問題ないだろうし。
 まずは補助の魔法道具を創る。この地上に設置する魔法道具だけは転移の起点であり終点として使用するが、他の本体との繋ぎに使用する方はそういった機能は付けない事にする。これは先程考えた国内を自由に移動させない為にも必要な処置。まだ第一段階ではあるが、そもそも間にそういった起点と終点の機能は必要ないだろう。各階には既に転移装置が設置されている訳だし、地下内であれば魔法で転移も可能だ。少々細かな移動になるかもしれないが。
 そういう訳で、まずは地上に設置する分の補助の魔法道具を創造していく。あまり大きくても目立ってしまううえに設置場所にも困ってしまうので、小型の物にする。容量的にも大型である必要はないし。

「単に起点と終点の為の魔法と、それとは別に、そこで再構築するのではなく本体の方に到着した魔力を送る魔法を組み込むだけだから、今回は安全性を大きく取るとしても、あとは精々が外部から干渉出来ないようにするだけだな。大きさとしては小さな箱ぐらいで十分か。干渉の妨害は本体の方で本格的にやればいい訳だし、あとは他の補助で補えば十分だろう」

 そう思い、手で箱の大きさを再現してみる。
 多分問題ないと思う箱の大きさは、縦横三十センチメートルで、厚さ十センチメートルぐらいだろうか。それぐらいあれば、容量の半分程は余裕をもって空けておけるだろう。
 ああそうだ。箱自体の耐久性の向上も必要だろうし、設置した後の隠蔽性も上げた方がいいか。そうなると、予定の大きさでも十分組み込めるが、安全の為にその分もう少し容量を増やした方がいいか? 大きさとしては嵩張るほどではないし。
 頭の中で想定してみた結果、僅かだが容量を増やした方がいいかと結論を得る。あとから色々と追加も増設も可能だが、そうするぐらいなら最初からしっかりと創っておいた方がいいだろう。その方が余計な手間もかからないし。
 そういう訳で、早速創造してみる。大きさは当初の予定よりも若干大きくなったが、問題ない大きさだろう。棚ぐらいには余裕をもって入りそうなので、設置場所には困らないと思う。
 それでいながら今まで研究して創った素材なので、容量的には十分。ただ、一応軽量化の魔法も組み込んでおかなければ少々重い。
 まだ何も魔法は組み込んでいないが、完成した鈍色の箱を観察する。そこまで大きな箱ではないが、やはりこのままでは持ち上げるだけでも少々重いな。
 確認のためにも軽量化の魔法を組み込み、無事に組み込めた後は様々な角度から箱の様子を観察する。

「何も知らなければ、ただの金属の塊だな」

 中が空洞だとか、ふたが付いているとかはなく、ただの鈍色に輝く四角いだけのそれを見ながら、しみじみと思う。
 これを設置して軽量化の魔法を取り除けば、どう見てもただの金属の塊だ。防犯としたらそれも重要かもしれないので、設置後は軽量化の魔法は取り除いておこう。
 こちらは地上部分に置いて、地下の天井に設置する予定の魔法道具と魔力で繋げるだけなので、分かりやすい外部接続などは不要。あとは魔法をこの箱に組み込むだけなので、容量さえ足りれば見た目はただの箱でも十分だろう。
 とりあえず外観は問題なさそうなので、次は魔法を組み込んでいく。
 転移の起点と終点とする魔法を箱に組み込んだ後、受け取った魔力を本体の方へと流す魔法を組み込んでいく。勿論妨害の方もしっかりと対策した魔法を組み込んでいるが。
 その他諸々の細々とした補助魔法を全て組み込むと、おおよそ全容量の半分をやや超えたぐらいであった。これは予定通りだが、あとはちゃんと機能するかどうかだ。
 それでも確認を終えて一応完成したので、次は転移装置と起点と終点となる魔法道具の間に設置する補助の魔法道具を作製していく。これは同じ物を創ればいいだけなので、一気に創っていく。
 もっとも、創る物は先程の魔法道具に外部接続部分がついた少し小さいだけの同じ箱だが。それを地下一階と地下二階の分で各二個ずつと、地下三階の分が一個で計五個創造した。
 それらに受け取った魔力を流す様に魔法を組み込みつつ、防犯や品質保持の為の魔法も組み込む。
 今までそれなりの数の魔法道具を作製してきたので、この程度であれば慣れたもの。同じ魔法を組み込んだ魔法道具を一気に完成させると、五個並べて一つ一つしっかりと確認する。
 その一連の作業が終わったのは、最初の地上部分に設置する予定の補助の魔法道具を作製した時よりも僅かに長い程度。なので、作業時間としては大して変わらない。
 合計六つの完成した魔法道具を眺め、自分も慣れたものだと頷くと、次は魔法道具と魔法道具を繋ぐ線の製作に入る。これは各階一本ずつでいいので、合計三本だ。
 その線には妨害対策と品質保持は勿論のこと、物理的な守りも強化していく。切断されるだけで繋がりが途絶えてしまうからな。
 魔法道具と線の全てが完成した後は、それらを目の前に創った調整用の転移装置に繋げていく。

「おっと、その前に転移装置の方の調整もしておかないとな」

 各魔法道具と接続する前に、そちらに合わせた調整を転移装置に行っていく。といっても難しい事をする訳ではなく、外部接続に必要な部分の増設と、外部接続を円滑に行うのに必要な魔法、それの追加に伴う魔法の最適化。ついでに送出力の調整ぐらいだ。防犯の方は補助の六つだけで上手く組み込めたので、こちらには必要ないだろう。転移装置自体の容量は結構使用しているので、そこまで新しく追加出来るほどの遊びがある訳ではないのが残念だが、これぐらいならば問題ない。
 おかげでこちらに関しても腕が上がったと実感出来たが、もう少し色々組み込めるようにしたいな。魔法の軽量化や素材の容量増加などは今後も続く課題だ。
 さて、そうこうして転移装置本体の調整を終えたところで、早速接続していく。
 転移装置本体に線を繋いで、転移装置と地上部分の魔法道具の間に設置する補助の魔法道具に接続する。その先は魔力と先程創造した線で繋げた各魔法道具が続き、最終的には地上に設置する予定の魔法道具に到達するようにした。
 全てを繋ぎ合わせた後にしっかりと魔力が通っているのを確認した後、少し離れた場所に移動して、用意した転移装置の片割れを手に、地上部分に設置予定の魔法道具を終点に設定して転移を起動させる。
 転移時特有の一瞬の浮遊感と意識の漂白を味わった後、それらが元に戻った時には転移装置本体の前に転移していた。

「・・・ふむ。間違いなくあっちの魔法道具を終点に設定していたから、これは成功かな」

 地上部分に設置する魔法道具の前に転移するのではなく、そこからこちらの本体の転移装置まで魔力が送られるようにしていたので、これで成功である。
 この切り替えも対となる転移装置で行えるようにするのは苦労した。いや、そういった魔法を双方に組み込むのは問題なかったのだが、転移した時にその切り替えを行うので、その辺りの安全性を確保するのに苦労したのだ。
 今も緊張したし、上手くいって良かった。次は向こうの魔法道具の前に転移してみるとしよう。
 そう決めると、再度対となる転移装置を握って転移を起動させてみた。
 転移時特有の浮遊感と意識の漂白を感じた後、無事に目的の場所に転移する。
 先程の場所からそこまで離れている場所ではないが、これで地上部分にも転移出来る事が実証された訳だ。
 切り替えも問題ないようだし、とりあえずは完成だろう。あとはここから微調整していき、実際に使用している転移装置の方へと接続などを済ませるだけだ。そちらの方の調整も、こちらを参考にすれば問題ないだろうし。
 一応完成した事で、一息つく。時刻を確認してみると、すっかり夜中になってしまっている。
 一度伸びをしたあと、そのまま微調整を行っていく。先程実際に使用した際の感覚を基に改良していき、より安全確実快適に転移出来るのを目指す。
 暫くそうして微調整を行った後は、気分転換にお風呂に入る。
 温かいお風呂は、疲れを取るだけではなく気分転換にも最適だ。
 それから入浴を終えると、少し休んだ後に転移装置の改良を再開させる。夜は長いのだ、時間はたっぷりとある。
 しかしもう少し完成度を上げたら就寝しよう。流石に今日一日で全てが完成するとは思っていない。詰めの部分までいければいいが、あまり夜更かしはするものではないから気をつけよう。
 そう思い、念の為に腕輪に時間を設定しておき、作業に取り掛かった。





 ある時は勇者と呼ばれる者が襲撃してきた。またある時は、その世界を覆わんばかりに大きな龍に挑まれた。他にも青白い肌の魔王と名乗った者や、薄緑色の肌を持つ魔物の王。神を自称する者や黒翼の王など、とにかく色々な者と戦ってきた。
 しかし、どれもオーガストにとっては同じ事。いかに破格な性能を有する剣を持とうとも、いかに頑丈な鱗に覆われ、全てを切り裂く爪や全てを噛みちぎる牙を持とうとも、それでもやはり同じ事。
 どれだけの力を持とうとも、オーガストの前でも意味を成さない。魔法にも似た不可思議な力も体験したが、その全てが効果がない。
 必死に挑んできた者でも、余裕をもって見下してきた者だろうとも、等しくあっけなく最期を迎えた。
 オーガストにとってはどれも同じ強さで、つまらない相手。神を名乗っていようとも、結局は一世界の神でしかないのだから。
 それだけではない。色々な世界を旅したが、しかしその悉くが消滅した。オーガストが直接下した事などほぼ無いが、それでもどれも同じようなもの。

(つまらない。くだらない。いくら始まりの神に近づこうともこの程度。軽く手を振るだけで潰せる程度の者達や世界。自分が理から外れた存在なのは知っているが、それにしてもこれは酷いだろう)

 今まで訪れた世界や出会った者達を振り返り、オーガストは呆れたように息を吐く。
 その結果は予想通りとは言え、全く期待していなかった訳ではない。
 オーガスト自身、世界の歪みから生まれた存在であると自覚しているし、敵など存在していないと知っている。しかし、だからといって広い世界、自分と同じ存在が居ても不思議ではないだろう。そういう想いもあった。
 力を完全に自身のモノにした時、最初は、始まりの神でも管理者でもないというのに世界を創造してしまった、自身が生まれた世界の創造主達に期待したものだが、それは直ぐに無意味だと知った。そもそもその創造主達自身が世界の広さをまるで理解していなかったのだから、お笑い種というものである。
 ならばと次に期待したのが始まりの神である。全てを創り管理する存在。それほどに規格外な存在であれば、自分よりも上かもしれない。そういった期待をもって探してみれば、近づけば近づくほどに現実を知っていく。
 勝手に期待して勝手に失望しているだけだと理解してはいるが、では他に何に期待すればいいというのか。オーガストは最後の望みとして自分と同種の存在を探した。
 しかしこれも上手くいかない。そもそも気が遠くなるほどに永い時と無限に拡がる世界の中で、オーガストのような存在が生まれた事が初めてなのだ。それほどまでに完璧に管理していた始まりの神は十分異常な凄さなのだが、それを上回るのがオーガストという想定外。
 そんな存在がそうほいほい生まれてきても困るというもの。結果として、オーガストは数多の世界の中で唯一の存在となっていた。それはオーガストにとっては嬉しくない事実でもあった。
 しかし、何となくそれは最初から理解もしていたのがオーガストという存在。
 そんな全ての理の外に住まう存在であっても、出来ない事が一つだけある。それは、己と同種の創造。
 創造と言わずとも育成でもいいのだが、軽く手を振るだけで世界を消せるほどの馬鹿げた存在であっても、それは叶わなかった。

(流石にもう始まりの神に期待はしないが、それでも会うだけ会ってはみるか。場所の特定は終わった訳だし)

 無慈悲な現実に残念に思いながらも、オーガストは当初の目的を果たすことにする。といっても、まだ両者の距離は遠い。やろうと思えば一瞬で詰められるが、オーガストもそこまでつまらない真似をする気が起きず、小さく息を吐くだけ。
 もはや消化試合にもならない道程ながらも、オーガストはとりあえず先へと進む事にした。





 何かが起きる時は急に起きるものらしい。いや、まぁ、それも当然か。
 背嚢の中の確認や、服をジーニアス魔法学園の制服に着替えたりと色々準備を終えたところで、先程までの事を思い出す。





 それは朝目を覚ました後、色々と準備を終えて久しぶりに地上へと転移した時の事。
 転移した後に世界に色が戻った時、そこには当然のようにプラタが居た。それはいいのだが、そこに居たプラタは最近着ていたボクが贈った衣服ではなく、元から着ていた黒の服を身に付けていた。
 そして優雅に一礼した後、真っすぐにこちらに目を向けて告げる。

「おはようございます。ご主人様。早速で申し訳ないのですが、人間界に魔物達が侵攻を開始致しました」
「・・・え?」

 突然のプラタの報告に、ボクは挨拶も忘れて僅かに放心する。
 別に人間界がどうなろうと、もうどうだっていいのだが、それでも突然言われれば驚いてしまう。

「以前ご主人様が仰られた御学友も戦闘に参加されています。おそらくこのままでは、今日中には命を落とすかと」
「え? セフィラが!? ・・・・・・えっと、現状はどうなっているの?」

 続いてのプラタの言葉に更に驚くも、一度深呼吸をして自分を落ち着かせてから、まずは状況の確認から行う事にした。それを行わなければ判断のしようもないからな。

「少し前から人間界へと全方位から魔物の攻撃が行われております。既に結界は破損。修復が間に合っておりません。防壁も破壊された場所もあり、遅くとも今日中には人間界は滅ぶかと」
「南のエルフとアルセイドは?」
「エルフは滅亡。アルセイドは現在も交戦中ですが、長い事戦って既に大分消耗しております。回復も追い付いていないようなので、もう長くは保たないかと」

 淡々と告げるプラタの言葉を聞きながら、さてどうしたものかと急ぎ思案する。
 助けるのはいいのだが、それは一時的なものだろう。今魔物を退けたとしても相手は数が多いのだ、直ぐに攻撃が再開されると思われる。
 そうなった場合、結局は亡ぶだけ。なので、ここでただ助けるだけでは僅かに延命しただけに過ぎない。それでも助けると言えなくはないだろうが、本当の意味で助けるとは言えないだろう。
 ではどうするかだが。・・・うーん、どうしよう?

「・・・如何なさいましたか?」

 そんな事を考えていると、それを察したのか説明を終えたプラタが問い掛けてくる。
 時間も無いのでプラタに今考えていた事を説明すると、プラタは「なるほど」 と頷いて僅かに思案する間を空けた。

「ご主人様が宜しければですが」

 プラタは最初にそう断ると、感情の窺えない瞳で真っすぐこちらを見据えながら提案する。

「ご主人様が救いたいと思われる者をこの国で保護しては如何でしょうか?」
「この国で?」
「はい。人間でもこの国で生活するぐらいは可能です。勿論しっかりとこの国の規則は守ってもらいますが、それでも普通に生活は送れるかと」
「なるほど」

 その提案に、ボクは頷く。確かにこの国に越してくれば安全だし、生活も出来る。助けたという意味では助けた事になるだろう。連れてくる相手もそう多くはないし、あとは本人達次第。

「そうだね。そういう話をしてみてもいいかもしれない」
「ご主人様の御心のままに」
「ありがとう」
「その際は細々とした事も御任せください」

 プラタの頼もしい言葉を受けた後、再度お礼を言って早速転移しようと思ったが、その前にいくつか準備した方がいいかと思い直す。せめてジーニアス魔法学園の制服ぐらいは着ておかないと、ボクだと分からないかもしれないしな。
 それに、助けた時に周囲に色々と説明するのも面倒くさいし。周囲もそんな余裕はないだろうが。
 そんな事を思いつつ、プラタに準備をした後に人間界への転移を頼み、一旦自室に戻ってきたのだった。





 先程までのやり取りを思い出した後、ため息一つ零して立ち上がると、背嚢の位置を調整してから転移装置の片割れを取り出す。
 その転移装置の片割れを使用して地上の小部屋に戻ると、待機していたプラタに頼んで人間界へと転移する。
 一瞬の浮遊感と意識の漂白の後、見慣れた平原に到着した。ほぼ着替えただけに等しいので、準備に掛けた時間は僅かだが、視界に入った光景は悲惨なものであった。

「すっかり壊れているな」

 黒煙を立ち昇らせながら防壁が崩れた光景。こちらに迫ってくる魔物を一掃しながら、人間界へと近づいていく。
 セフィラが居たのがナン大公国だから、ここはナン大公国だろう。アルセイドの方はまぁ、別にいいか。そちらはプラタに判断を任せるとしよう。ボクとアルセイドは面識がない訳だし。
 それにしても、侵攻が始まったのが少し前だと聞いているが、随分と攻め込まれているものだ。軽く確認しただけだが、駐屯地もほぼ壊滅しているようだしな。
 それでも戦っている者が居る事から完全に潰れた訳ではないようだが、もう市街地方面へも結構な数の魔物が向かった事だろう。
 まあそれはそれとしても、駐屯地で未だに抵抗を続けている者達の中に目的の人物を発見した。

しおり