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第十二章 暎蓮に関する謎と、羅羅の身の上話

 余談だが、暎蓮は『斎姫』という『巫覡』の最高位だが、結婚している。だが、彼女は、結婚前、『結婚しても『斎姫』としての能力を失わない』、という『天啓』を視ていた。それが、相手が、『天帝の御使い』、『五彩の虎』という性を持った男、扇賢だからなのかどうかは、まだ謎のままだが。

 それはともかく、羅羅は、遠くを見るような瞳になって、言った。
『そう……。だから、私たちの恋は、あくまでも秘められた、清廉なものだった。私は、当時、『玉水宮(ぎょくすいきゅう)』に仕える女官だったが、『合』が『巫覡』だったから、結婚はあきらめて、『合』が仕官するのをただ見つめているだけのつもりだった。『合』が私を愛してくれていると思えば、そんなことはどうでもよかったんだ。だけど、あいつは……』
 羅羅は、唇を噛んで、叫んだ。
『『巫覡』の身である上、それを捨て、ほかの女と、結婚した。私のことを、すっかり忘れて!』
 羅羅はつづけた。
『『浅南国』からの留学を終えた『合』は、今度は文官としての身分で、『昏天国』に戻ってきた。そして、なに食わぬ顔で、この城の施設の一つである『桃木宮(とうぼくきゅう)(城に仕官する文官たちが何家族か合同で住まう宮殿)』で、『浅南国』から連れてきた妻とともに住みだしたんだ。その日から、私の存在を、すべて無視してね。……私は、すべての事情を知り、激情を押さえられなかった。なにがしかの言い訳を作り、『合』の妻を呼び出し、ここで、殺した』
「それでは、この壺の中身は……」
『私の、髪さ』
 羅羅は、凄味のある顔で、笑ってみせた。
『女官の髪は、長いからね。……それに、私の髪は、『お前の髪は、どの女のものより美しい』と、『合』によく言われていたんだ。だから、そのあてつけをも込めて、この髪で、『合』の妻を縊り殺し、髪を切って壺に入れ、封じておいたのさ。もし、三十年ほどもたっても、まだ、『合』が私を思い出さなかったなら、これを使って、必ず、『呪詛』して殺してやろうと』
「先ほど、『清白宮』にも『邪気』を当てたのは、『合』様の存在を確かめるためですか」
『その通りさ。あの男の妻の死体は、『清白宮』のかつてのあの男の部屋の外に埋めたからね。……『合』は、結婚して『桃木宮』に住んではいたが、『清白宮』にも自分の仕事道具を置いて、独身の時同様に、部屋を使っていたんだ。そこは、死体を埋めるのにちょうどいい場所だったんだよ。だからさ。それに、『桃木宮』は、所帯を持った文官の家族たちが、任期ごとに、入れ代わり立ち代わり入る宮殿だ。私の恨みとはまるで関係のない、その人たちを巻き込もうとまでは、さすがの私にもできなかったのさ』
「だけど、今まで、『清白宮』の外に、死体が埋まっているなんて気配、感じなかったけどなあ」
 彪が、また言った。
『それはそうさ。私は、妻を殺したその後処理を、『仙士(せんし)(民間の、『気』を使った『術』で、客の様々な要望に応える生業をしている者)』に託したからね。いかに、坊やが『巫覡』であったとしても、あの場所に最初から関心が向かない、死体の『気配』を絶つという『術』の波動を受けつづけていれば、なにも感じないさ』
 それを聞いた彪が、苦々しげに、言った。
「……『仙士』の『術』とはね。俺も、まだまだ修行が足りないな。……それで?羅羅さんは、これからどうしようと思っているの?」
『決まっているさ。『合』が生きている以上、私の復讐はつづく。……今から、『呪詛』の力で、あの妻の遺体をよみがえらせるのさ。そして、あの男をその妻に殺させる。あいつの魂を、『滅界(めっかい)』に落とすためにね』
「ですが、あなた様も、もうお亡くなりになっているでしょう」
 暎蓮が口をはさんだ。羅羅は、言った。
『あいつの妻を殺した後、自分が情けなくなって、女官をやめ、故郷に戻り、入水したのさ。だが、『罪』を犯したせいか、死んでも魂はどこにも行けず、今日、『呪詛』が発動するまで、ずっとこの世界のあちこちをさまよっていた。……それというのも、みんなあいつのせいじゃないか。だから、こうして、戻ってきたんだ』

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