バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第六章 純朴なやり取り

 暎蓮を喜ばせるためとはいえ、彪は慣れない女児の遊びに疲れ切ったが、彼らは結局、休憩時間いっぱいを使い切って、『遊戯室』で遊んでしまった。

「……楽しかったですね、彪様」
 日時計を見て、休憩時間が終わりに近いことを知り、名残惜しそうに、おもちゃの数々を片付けだした暎蓮は、言った。
「もうお時間だなんて、残念です」
 彪は、疲れを顔に出さないようにしつつも、笑って見せた。
「……お姫様が、楽しかったなら、よかったよ」
「ありがとうございます。……あら。でも。結局、『作戦会議』はできませんでしたね」
 いかに精神的に子供の暎蓮でも、さすがにまずいと思ったのか、彼女は少しあわてて、言った。
「もう、しょうがないよ。あとは、夜、本番の時、『出たとこ勝負』で、決着をつけよう」
「そうですね……。申し訳ありません、彪様」
「気にしないでいいよ。……俺も、楽しかったから」
 彪は、多少苦しいと思いつつ、それでもなんとか、言った。そして、話を改めた。
「だけど、今日の夜のこと、本当に扇様に言わなくてもいいの?」
「扇賢様は、きっとご公務でお疲れでしょうから……」
 暎蓮が本当に彪と二人だけで今回の仕事をしようとしていることに、彪は改めて気を引き締めた。
(本当は、こんな遊びをしている場合じゃなかった気がするけれど。……まあ、仕方がないか)
 ……あらかた、おもちゃの類を片付けたところで、二人は一度、居間に戻った。
「じゃあ、俺はそろそろ『宇天宮』に戻るよ。……仕事もしないとね」
「はい。……では、ご門までお見送りします」
「わざわざそんなこと、いいよ。……また、夕方にはすぐに会えるんだから」
 暎蓮は、彼に向かって、優しく微笑んだ。
「……それでも、私は、お見送りしたいのです」
 彪は、その彼女の発言と微笑みに、また照れで顔を赤らめた。……だが、それ以上断り切れず、結局二人は門まで一緒に行った。
「それでは、お仕事、頑張ってください、彪様」
「ありがとう。……お姫様も、修行、頑張って」
「はい。ありがとうございます」
「それじゃ、仕事が終わったら、また」
「はい。お待ちしております」
 彼らは、微笑み合い、別れた。……暎蓮は、彪の姿が見えなくなるまで、門の中から、彼の姿を見送っていた。それに対して、彪は、何度も振り返り、彼女に手を振った。
 その二人の純な姿は、誰が見ても、とても微笑ましかった。

しおり