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第78話

 二人の傭兵によって運ばれてきたネイの体は、倉庫一階にある、メンテナンスベッドに寝かされた。

「ネイ……」

 手を合わせ、黙祷を行う澄人。それを見たナオと他の先行量産型達も、同じように黙祷をネイに捧げた。

「こいつ、何考えてんだ?」
「アーティナル・レイスに黙祷だなんて、変なやつだ」

 傭兵達が小声で話しながら奇異の目を向けてくるが、澄人は構わず黙祷を一分間続け、それからネイの体を調べ始めた。

「外傷は……巻いている包帯以外のところには、ないみたいだ」

 澄人はネイの体に触れ、注意深く見るが、大きな傷や人工血液が出血した形跡はない。

「ネットワークを通じて、攻撃プログラムを送り込まれて、人格を破壊されたということですか?」

 起動停止した原因が外傷でないとすれば、ネットワークを通して攻撃されたのではないかと、ナオは思ったのだが、

「……アーティナル・レイスの人工頭脳――AI-visは一般的なコンピューターとは違って、人間の脳のように、複雑な疑似神経回路で構成されている。しかもその回路は、人格プログラムの学習、成長と共に構築されていくから、アーティナル・レイスごとに異なる。仮にネットワークを通じて機能停止させるとしたら、その回路を解析した上で、専用の攻撃プログラムを作る必要があるけど、そのためには専門的な知識はもちろん、時間も必要だ。たった一人のアーティナル・レイスを機能停止させるために、わざわざ攻撃プログラムを用意するのは、労力的に割に合わないし、非効率だとは思うけど……初めて会った時から、外傷が増えていない以上、疑うべきはそこしかないか。ナオ、タブレット端末を持ってきて」
「どうぞ」
「ありがとう」

 澄人はナオからタブレット端末を受け取ると、ネイの耳部のユニットとコードで繋げ、アクセスを始めるが、

「……どういうことだ?」
「どうした?」

 岩崎がタブレット端末の画面を覗き込む。そこには、エラーが表示されていた。

「機能停止しているからではないのか?」
「機能停止していても、メンテナンスベッドなどでエネルギー供給をすれば、物理的な破損がない限り、アクセスはできるはずなんです」

 調べていくうち、澄人の視線が、ネイの頭に巻いてある包帯へ移り、

「まさか……」

 それを手早く解いた。

「これは――!」

 澄人が目を見開いて驚きの声を出すと、その場にいた全員の目が、包帯が解かれたネイの頭に行く。その額の辺りには、直径一センチ程度の小さな穴が空いており、それは後頭部まで貫通していた。

「……熱による溶解が見られます」
「これは、エネルギー系の拳銃によるものですね」

 06と11が傷を見ながら言うと、傭兵の一人が「じゃあ、誰かがこいつを撃った後に、わざわざ包帯を巻き直したっていうのか?」と聞くと、それに04が答える。

「いいえ。包帯の巻かれ方が、昨日と同じでした。それに、包帯にも服にも、人工血液が付着していませんし……第一、撃った後に巻き直す必要性がありません。巻き直すくらいなら、ネイの体を抱えて、すぐにその場から立ち去った後で隠した方が、気づかれる時間を稼げます」

 04が説明している間、ナオはネイの額に空いた穴を観察し、そして指を差した。

「澄人。わずかですが、人工皮膚が自動修復しています。撃たれてからある程度――少なくとも一週間以上は、時間が経過しているようです」
「つまり、こいつは……」

 息を飲んで、言葉を途切れさせた岩崎の言葉の続きを、澄人が言う。

「……人工頭脳が停止した状態で動いていた」

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