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わたしの助手になりなさいっ!!

 あれから、何故か彼女の助手となることになった忍武は、彼女の指示で、盾役として山の繁みの中を掻き分け進む。そこは山間部にさしかかった高速道路の横の森だった。山道はしばらく整備された後がまるで無く、雑草や樹の枝が覆い茂っていて実に進みにくい。

「こんな獣道に一体何の用なんだい? しかも案内役は君の方のハズなのに、何故僕が先頭を……」

「いいからそのまま進みなさい、わたしの裏家業の姿を勝手に覗き見した罰よ。あなたにはちょっとした作戦に協力してもらうわ」

 彼女は忍武の背をぐいぐいと押しながら、樹の枝を避けていく。いいように使われる忍武だったが、母に似ている彼女の声には何故か逆らえない力があった。

「……んで、結局その裏家業ってのは何なのさ? 確か葬儀屋とか言ってたけど、君はあそこの鷹月霊園の関係者なの?」

「ええ、まぁ大体合ってるわ。わたしは葬儀屋『妖牙』の長女、榊美保。ミホと呼びなさい」

「えっとミホ……さん?」

「同学年なんでしょ? さん付けはいらないわ。それよりあなたの名前は?」

「……冬芽忍武。冬の芽と書いて冬芽、変わった苗字でしょ? よろしく……」

「ふーん、なんだか妖牙の響きと似ているわね。あ、ちなみに妖牙は父方の姓ね。わたしは亡くなってしまった母方の姓を継いだから『榊』なのよ。よろしくね忍武くん」

 忍武はどちらの名も聞いたことが無かった。もしかしたら榊美保は自分の親戚なのかもしれないと思ったが、母からそんな話は聞かされた事は無かったし、ミホが母の墓の前に立っていたのだって、ナマズを待ち構えていた為の偶然に過ぎないようだった。

「葬儀屋『妖牙』の裏家業は古くより国から『波動』関連の事件の対処、さらには放射能力者(ラジエイター)たちの管理や監視を任されたものでね。表向きでは男どもが葬儀業と霊園管理を行っていて、裏では私のような放射能力者(ラジエイター)の力を持つ女が危険な波動ナマズを狩っているのよ。もっとも能力者が現れる数自体がとても希少なものだし、波動ナマズも、本来は滅多に地上へ姿を現さないので、それほど仕事がある訳じゃないんだけどね。それでも、アイツら放っといたら凶悪な種は人間の命の波動を喰らう事もあるので、わたしらはその始末屋と言った感じ?」

 ミホの説明を聞いて、忍武はようやく事情がわかってきた。やはり自分の眼に映る『振動』は幻覚などではなく、実在する裏側の世界が見えるようになった為であるらしい。

「さぁ、やっと着いたわ。ここよ」

 ようやく繁みを抜けた二人は、神社の境内のような少し開けた場所に出る。その奥にはポツンと小さな祠が一つ祭ってあるのが見えた。

「我が榊家が代々守ってきたお社様よ。もっとも、神社は取り潰されちゃってもう無いけどね」

「え……それって……」

 それを聞いた忍武は動揺する。高速道路工事の裏で取り潰された神社の噂は本当だったらしい。しかもかなり複雑な家庭の事情も抱えているようだ。

「ってまぁ、今はそんな事どうでもいいわ。用があるのは祠の中に封印されている剣よ。」

 質問してもいいのが考えあぐねている忍武をよそに、ミホはズンズンと祠の方へ進んで、扉の鍵を開けてしまう。

「危険だからあなたは触らないでね。この剣は強烈な波動を帯びている剣でもあって、抜刀したらこのわたしでも、10分と連続で持っていられない代物よ。波動膜で手を保護出来ないあなたは触るべきではないわ」

 その祠の中には埃を被った祭事道具と一緒に一本の大きな短剣らしきものが置いてあるのが見えた。

「これが、榊家に代々伝わりし共鳴封具。『鬼神の舌(デーモン・コア)』よ。こいつは波動増幅器(アンプリファー)としての機能も持つの。これから、更なる大物ナマズと対決するために、これくらいの装備が必要になるからね」

「えっ……何それ聞いてない……、まだあれより大きいナマズがいるの!?」

 ミホがサラリと恐ろしい事を言うので、忍武は仰天する。

「そっか、あなたは波動ナマズを見たのはあれが初めてなんだっけ? まぁ奴らは普段、地下深くで泳いでいる深海魚のようなものだからそれも当然か」

「うん、全く知らなかった。まさかあんな生物が地面の下に生息していたなんて……」

「奴らは生物ではないわ。『波動』のエネルギーの塊に意識が目覚めてしまったものよ。あなたならわかるでしょう? この世界は『波動』で満ちている。動物も植物もみんな全てによ。そしてそれはこの『大地』とて例外ではない」

「……ッ!? まさか、それって……」

「そう、奴らは『地震のエネルギー』そのものが具現化した姿なの。昔の人達の話で、ナマズが地震を起こしているという説はある意味で本当だった訳ね」

 それを聞いて真実を確信してしまった忍武は、雷に打たれたような衝撃を受ける。あのナマズを見た時から何となくわかっていたことではあったが、こうもハッキリと言われては世界観を根底から変えざるをえない。

「そして、わたしが追い続けているアイツも最大級の獲物になるわ。その名も、『鷹月断層ナマズ』。かつて、7年前にあの鷹月地震を引き起こした元凶よ」

 そこまで聞いた忍武は膝から崩れ落ちていった。ショックと情報量が多すぎて、感情を整理しきれない。

「……どうする? 怖いならやめる? 無理はしなくて

いいのよ」

 忍武の顔色が悪いのに気付いたミホは、流石に遠慮の色を見せ始める。だが、忍武はすぐに取り繕って立ち上がり、気丈に振る舞って見せた。

「いや、やるよ。まだ全然実感が湧かないけれど、あのナマズたちは人間の魂とやらも喰ってしまうんだろ? 放っておけない」

「よく言ってっくれたわ。流石はわたしの見込んだ助手ね」

「……それで、具体的に僕は何をすればいいんだ? 僕は君みたいに剣を出したりとかは出来ないが……」

「大丈夫よ。あなたは敵の居場所を見つけてくれるだけでいいの。その方法はまず、わたしがやってみるからあなたはよく見ていてね」

 そうしてミホは再び祠へ向き合ったかと思うと、右手に赤い波動を帯びさせて封印された短剣を手に取り、鞘を抜いて地面へと叩きつけた。その短剣はやたらと横幅の大きな刃をしていた。緩やかに反ってカーブしている刀身から赤い波動が放たれる。

「波動反響(エコー)!!!!」

 放たれた波動は大地を大海原のように揺るがし、その振動はミルククラウンのように周囲へと広がって行った。

「え……なんだこれ……? 波が反射して、地下の構造が手に取るようにわかるぞ!?」

 忍武の脳内には3Dマップのように地下の広範囲な地図が構築されつつあった。無数に這った木の根、家屋や高速道路の基盤、そして排水管や、さらにその下の岩盤まで忍武には見通せた。

「でしょでしょ? わたしにはボヤっとした位置しかわからないけれど、あなたならもっとより広範囲を感知できると思ったのよ」

「確かに……、これならさっきのようなナマズも見つけられそうだ……」

「上出来ね。おっけい、今のは練習。じゃあ次、本番行くわよ! 喰らえ最大出力!」

 ミホはそう叫ぶと、再び剣を思いっきり振りかぶる。そこから放たれた特大の波動は街全体へと伝わって行った。

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