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校外学習と過去の因縁③




椎野班


椎野は一人屋台のある通りで立ち止まり、後ろを振り返る。
「みんなどこへ行っちまったんだよ・・・」
不安そうな表情をしながら、小さな声でそう呟いた。 そして再び前を向き、足を進めていく。
―――何でみんなはぐれちゃうかなぁ。
―――つか、みんな揃って迷子って・・・。
自分一人が班からはぐれ迷子になったというのに、班員が自らはぐれ迷子になったと勝手に決め付ける椎野。
―――北野は今どこにいんのかなー・・・。
―――・・・お?
―――何か今、あの屋台からビビッときたぞ!
目の前にある一つの屋台から、何か凄まじいオーラを感じ取った椎野はその場所へと走っていく。 
ここは小物がたくさん売られているところで、何種類ものストラップなどが飾られていた。
―――うわぁ、すっげぇたくさん!
まるで子供のようなキラキラとした目で品を見渡していると、ふと一つのストラップに目が留まる。 
―――あ・・・これ。
それを見るなり手に取って、近くでまじまじと見た。

―――これ、まるで俺たちじゃん!
―――いい物見つけたなぁ、俺!
―――他のみんなにも買っておいてやろうか・・・って、あれ、数が6個しかねぇ。
―――しゃーない、数人だけが持っていてもあれだし、自分の分だけでいいか。

「すいませーん、これくださーい」
ストラップを小さな袋に入れてもらい屋台の人から受け取ると、ご機嫌な態度でこの場から離れていく。
―――北野に会ったら早速見せよっと。
そして再び班員探しを再開すると――――あっという間に彼らを見つけた。
「あ、北野ー!」
「椎野! 今までどこへ行っていたの」
椎野が班員を見つけみんなのもとまで駆け寄ると、北野が少し怒ったような口調でそう口を開く。
「悪い悪い・・・。 ってか、お前らが俺から離れたんだろ」
「迷子になったのは椎野だけだよ。 ・・・そんなことより、女子しかいなくて凄く気まずかったんだから」
最後の言葉を耳元でそう囁かれると、もう一度彼に謝罪の言葉を述べた。 椎野の班は男子2人で女子3人のため、椎野がはぐれると北野が男子一人になってしまう。
「あ、そうだそうだ。 北野これを見てくれよ! さっき屋台で見つけて、一目見て惹かれたから即購入したんだ」
そう言って、袋からストラップを取り出し北野に手渡した。 

これはとてもシンプルなものだ。 旗の形をした小さなストラップ。 それに複雑な色のデザインではなく、一色だけのもの。 
そして椎野が購入したものは、黄色の旗のストラップだ。 旗の真ん中には、小さく『黄』と書かれていた。 他にも色はあり、赤や青、白や緑などもたくさんある。

「わぁ、これ凄い! まるで俺たちみたい!」
「だろ? シンプルで持っていても変じゃないし、これを持っているといつでもみんなのことを思い出せる気がしてな」
「でもこれ、ただの旗のストラップでしょ? 俺たちが買うなら分かるけど、他の人とかは欲しがるのかな」
「んー・・・。 あ、あれじゃね? 体育祭のカラーで購入するとか! 体育祭ではカラーの旗とか、普通にあるし」
「なるほど。 じゃあこれは体育祭の時にしか使えないね」
北野は苦笑してそう答えると、続けて口を開く。
「これはどこの屋台で買ったの?」
「ん? えっと・・・」
突然そのようなことを尋ねられ、椎野は来た道を振り返った。 そして苦笑を浮かべながら、視線を元に戻す。
「・・・どこの屋台か忘れた。 本当はみんなの分まで買いたかったんだけど、6個しかなくて買えなかったんだ」
「そっか。 それなら仕方がないね」
そう言って北野は椎野から受け取った手の中にある黄色いストラップを、再び羨ましそうに見つめた。





夜月班


「お前ら長いなー。 まだ決まんねぇのかー?」
未来は屋台の前にいる同じ班員である女子らに向かって、退屈そうに後ろからそう尋ねる。
「んー? あ、未来くんたち他の屋台を回っていてもいいよ! 私たち、決めるのにまだ時間がかかりそうだから」
「そっか。 じゃあそうしておく」
女子からそのようなことを言われ、同じ班員である夜月と悠斗を誘い一緒に歩き出した。
「人が多いなー。 こんなに多いと、屋台を見る気にはなれッ、ちょ、危ねぇな!」
未来が先頭に立ち歩いていると、前から来た他校の高校生らとぶつかってしまう。 予め接触すると思い少しだけ避けたのだが、相手からわざと当たってきたのだ。
あまりにも強い衝撃だったため少しよろけるが、何とか持ち堪え強めの口調で物を言う。
「あぁ? 何だよ、やる気か」
「はぁ? ぶつかってきたのはそっちだろ!」
明らかに相手から当たってきたのに喧嘩を売ったと間違えられ、未来も負けずに反抗した。 その様子を見て、悠斗が慌てて口を開く。
「未来、構うな。 先へ行こう」
そう言って悠斗は未来の腕を引っ張り、この場から去ろうとした。
「喧嘩なら、買ってやるぜ」
「なッ、そのようなことを軽々しく言うな! それに喧嘩なんて、俺たちがどうせ勝つからしねぇ!」
ここは仲間の言葉を素直に受け入れ大人しくこの場から去ろうとしたのだが、相手が挑発してきたため再び食い付いてしまう。
「おい未来」
悠斗はそんな未来を再び引っ張り、この場から離れさせようとした。

「やってもいないのにどうして『勝つ』なんてことが言えるんだよ」
「結果が分かっているからそう言ったんだよ!」
「このチビのくせに」
「ッ、何をぉ!? チビなんて喧嘩には関係ねぇだろ! 確かに身長は低くてチビかもしれねぇが、それでも喧嘩には勝てるんだよ!」

子供のやり取りにしか思えない程つまらない言い合いを聞いて、近くにいた夜月が溜め息をつく。
「・・・未来、お前が挑発してどうすんだよ」
彼らには聞こえないくらいの小さな声でそう呟くと、未来は顔を相手に向けたまま夜月に向かって言葉を放した。
「夜月、俺に喧嘩の許可をくれ」
「やらん」
「はッ、何でだよ!? コイツは俺を馬鹿にしてきたんだぞ!」
そう即答されると未来はすぐさま夜月の方へ視線を移し、相手を指差しながらそう訴える。 そんな未来に対し、夜月は淡々とした口調で説明し出した。
「今は互いに問題を起こしたらマズいだろ。 俺たちは今学校行事なわけだし、コイツらも制服だから問題を起こしたら面倒なことになる」
「いや、でもさ!」

「悠斗ぉー!」

「「「?」」」

その発言に反論しようとすると、突然陽気な声が彼らの耳に届く。 それと同時に、その声の持ち主は悠斗に軽く抱き着いた。
唐突な出来事にこの場にいる皆が呆気に取られていると、悠斗にくっついた少年――――優が、未来と敵対している高校生の存在に気付く。
「・・・誰?」
「・・・さぁ?」
優が彼らを不審な目で見ながらそう口にすると、抱き着かれている悠斗も同様不審な目で相手を見据えそう返した。 そして数秒後、この場にはコウが現れる。
新たな登場にみんながその方へ目を向けると、彼は敵対している高校生を鋭い目付きで睨み付けた。
「ッ・・・。 行こうぜ」
コウに睨まれたことにより恐怖を感じたのか、急いでこの場から不機嫌そうな顔をして去っていく。 
そんな彼らの後ろ姿を黙って見ていると、再び陽気な声がみんなの耳に届いてきた。
「やぁやぁ、皆さんお揃いでー」
「あれ・・・。 どうしてここに?」
優がいるということはコウもいると自然に思い違和感は感じなかったのだが、彼らにくっついて御子紫も登場すると未来が不思議そうな表情でそう尋ねる。
「さっき、コウたちと合流したんだ」
そして夜月は未来に近付き、耳元で一つの忠告をした。
「・・・未来。 頼むから、問題は起こすなよ」


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