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第75話

 倉庫に急ぎ戻ったナオは、ネイが話していたことをすぐ皆に伝えた。

「悪い予感が当たってしまいましたか……」

 ネイの会話データを見た04の口から、重い声が出る。

「しかし、また疑問が増えましたね」

 11が言うと、全員が頷いた。

「澄人をなぜ守ったかに加えて、武装の修理をどうして急いで行うように言ったのか……」
「澄人を標的にしているのであれば、修理をしないように言った方が、都合がいいはずですからね」
「しかも、最初の襲撃ではなく、第二波の部隊に、澄人を狙わせるという意図もわかりません」

 13と16の話の通り、ネイの行動や指示は、あまりにも矛盾点や不明点が多すぎる。それを解く必要がある。

「みんな。ネイが言っていた『ルシーナ』という言葉に、聞き覚えはありますか? もしかしたら、それが謎を解いてくれる、鍵になるかもしれません」
「いいえ。初めて聞きます」
「ボクたちも、初耳ですね」
「同じくだ」
「……そうですか」

 ナオは肩を落とす。

 ルシーナが何なのかわからなければ、謎を解くことはおろか、澄人を守るための作戦も満足に立てられない。

「……もしかしたら、あの六翼のアーティナル・レイスのことかも」

 ふと、06がつぶやくと、「そうか! 06の言う通り、あのアーティナル・レイスのことかもしれない!」と、他の者達は反応した。

「心当たりがあるのですか?」

 ナオが聞くと、04が頷き答える。

「前回の戦闘で、敵のアーティナル・レイスの中に、初めて見るH.Wタイプが一人いました。もしかしたら、そのH.Wタイプの名前……もしくは、コードネームかもしれません」
「その時の映像データなどは、ありますか?」
「送ります」

 ナオは04から送られてきた映像データを見る。

 映っていたのは、白銅色の髪を持つ女性型アーティナル・レイス。

 背中には、六枚の白い装翼。

 左手には、長砲身のエネルギー兵器。

 右手には、一メートルはある細身のブレード。

 空中を飛翔し、まるで天罰を下すがごとく、向かってくる敵を攻撃するその姿を見て、ナオは思わず「……まるで、六枚の翼を持つ堕天使ですね」と感想を口に出す。

「前回の戦闘で、そのアーティナル・レイスは、迎撃にあたった第二分隊を一人で圧倒し、全滅させました」

 04が述べた通り、送られてきた映像の中で、第二分隊のアーティナル・レイス達は六翼のアーティナル・レイスに、接近することができず、射撃兵器もなかなか当たらない。

 激しい空中戦を行い、味方の数が残り四人になったところで、ようやく一発のエネルギー兵器の光線が、六翼のアーティナル・レイスに直撃した――が、それは弾き消えてしまった。

「これは、まさかA.E.バリア!?」

 ナオの武装にも搭載されている、対エネルギー兵器用のバリア。それを六翼のアーティナル・レイスが装備していたのだ。

「A.E.バリアの技術は、久重重工のRAY・プロジェクトで試作されたもので、まだ公にはされていないはずなのに、なぜ……」
「同等のものを敵が開発したか、もしくは久重重工に所属する何者かが、A.E.バリアの技術を敵に渡したか……」

 04の『何者か』という言葉に、ナオは久重一将の姿を頭の中に浮かべる。

 久重一将であれば、A.E.バリアの技術を横流しすることができる。けれども、もちろん確証はない。A.E.バリアの技術を横流しするということは、久重重工の利益を失うことだ。次の代表の身である久重一将が、そのようなことをするメリットが、今のところ思いつかない。

「いずれにせよ、その類の装備を持っているということは、他の武装も並のレベルではないでしょう」

 06の言うように、A.E.バリアを実戦で使用しているということは、それを可能にするリアクターを持っているということ。それは同時に、相応の性能を有している可能性も高いという意味でもある。

 映像の六翼のアーティナル・レイスは、確かに第二分隊のアーティナル・レイス達を圧倒しているが、全力を出しているようには見えないため、持っている戦闘能力は映像よりもはるかに高いと見ていいだろう。

「とりあえず、岩崎司令にこのことを伝えよう。襲撃まで残り一〇時間もない」
「29の言う通りです。ネイが敵とわかった以上、澄人と私達が修理した、最低限対応できる武装という話も、もう当てにはなりません。岩崎司令に報告後、作戦を立てながらできるかぎりの装備を修理し、ボク達も襲撃に備えましょう。澄人も起こして……」

 16が視線を移すと、全員がそれに引っ張られるように澄人を見る。

 敵が襲ってくる危険がある今、そのことを伝えるためにも、すぐに起こすべきだ。けれど、澄人が眠ってから、まだ一時間経つか経たないか。ノンレム睡眠――深い眠りに入りかけている状態。起こすのは、少々酷なことだ。

「みんな。澄人のことは、まだ起こさないでください。状況的に非常識なのは承知していますが、今の澄人には睡眠が必要です」

 澄人と皆の間に立って、ナオは言った。「起こさないでくれませんか?」という提案ではなく、「起こさないでください」という強制の言葉を。

 それは、もし岩崎司令や他の兵達に何か文句を言われた時は、自分がその責任を負うという意志を込めて言ったことだった。

「わかりました。ですが……いざという時は、あなた一人が責任を負う必要はありませんよ」「ボク達は、あなたの姉妹兄妹であり、澄人の味方です」
「我々の気持ちは、全員一緒だ。澄人のためならば、責任を負うのもやぶさかではない」
「みんな……」

 04達に言われ、ナオは涙を流しそうになった。

 賭けバトルの一件以来、澄人の味方は、ナオと荒山くらいだった。しかし今は違う。八人の姉妹兄妹達が、責任を負うことをいとわず、澄人の味方でいてくれている。そのことが、とても心強く思えた。

「では、私と06が岩崎司令のところに、直接報告に行きます。ただメッセージを送っただけでは、ネイが敵であるということを信用してくれないでしょうから。ナオとみんなは、迎撃に使用する武装の用意をしていてください」

 04と06が岩崎司令に報告するため倉庫を出ると、皆はさっそく準備を始め、ナオも自分の武装を準備するために、倉庫の外に置いてあるコンテナへ向かった。

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