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引き継がれる想い

1
女性が消えたのと同時に、空間の中には何もなくなり、花音達だけになる。
「今の女の人って、もしかして……」
「沙羅の姉、か?」
風夜と顔を見合わせていると、ふと人の気配が増えた気がした。
「……!!」
それに反応して、警戒する花音達の前に現れたのは数人の男女で、その中には過去の映像の中にいた息子と似ている者もいた。
「……!!お前等、まさかっ……」
「そう、彼等は私の術によって、存在することを許されなかった。……私のもう一人の息子とその子孫達」
それを見て息をのんだのは《風夜》で、彼に答えるように更に一人の女性が出てくる。
その女性は、先程消えるところを見たばかりの沙羅の姉だった。
「えっ?何?一体、どうなってるの?」
「……術によって、存在出来なかったってことは、お前達は……」
「そうだ。そいつと同じ魔族だよ」
話についていけてないらしい風華と違い、言いかけた空夜に、その内の一人が《風夜》を指して言う。
「……だが、こんな状況で現れて、一体何をするつもりなんだ?」
「こんな状況だから、現れたのよ。……恐らく、私達が身体を失っても、意思だけで存在していたのは、この時の為だったのね」
言いながら、女性が風夜を見る。
「おい!待てよ!」
それに気付いて、《風夜》が声を上げた。
「お前等、一体何をするつもりなんだ?まさか、こいつを[完全に]魔族にするつもりか!?」
そう叫んだ《風夜》に、花音は思わず彼を見た。
「どういうことだ?風夜は今だって…….」
「……それは違う。今までは一体化していた俺の力を引き出して、使っていただけなんだ。だから、お前等と時間の流れも一緒だし、俺を引っ込めさえすれば、格上の魔力に影響を受けることもなかった」
「そう、でもそれはもう無理よ」
「えっ?どうして?」
「……あいつが俺を出すときに使った術だ。あの術で俺は出されただけでなく、戻れなくされた」
疑問の声を上げた花音に《風夜》が苦い顔で答えた。
「つまり、今の風夜は……」
「俺の存在を知らなかった頃と同じ、ただの人間ってことだ」
「そう、だから今度は私達の力を使ってもらおうと思ってるの。身体がない私達と、強い力を必要とする貴方……、利害は一致すると思うけど」
「駄目だ!」
女性の言葉に答えたのは、何故か《風夜》だった。
「って、何でお前が答えるんだよ?」
「決まってるだろ!こいつらの力を受け入れれば、今度はお前自身が魔族になる。そうすれば、お前の時間はこいつらと大きく異なる。それにだ、一緒に行動してきた神族の奴等が、お前を見逃しているのは〈人間〉としてのお前がいたからだ。だが、あいつらの力を受け取れば……」
「……貴方は、一度人としての生を終える。そして魔族に転生すると同時に、彼等とは、相容れない、対立しあう存在になる」
《風夜》と女性が言う。
「それでも、私達の力を合わせれば、その力は最上級クラス。窮姫達や、闘神達以上の力……、簡単には消されないと思うけど」
「…………」
それを聞きながら、風夜は顔を俯かせた。
「……二つ、聞いていいか?」
顔を俯かせているため、表情が読めない風夜が口を開く。
「何かしら?」
「俺がお前達の力を受け入れたら、もう一人の俺はどうなる?」
「……そうね。完全に別の存在になるのは、間違いないでしょうね。……でも、貴方の中に戻れないからといって、消えることはないはずよ。私達も、消させるつもりはないしね」
「……もう一つ、お前達が力を貸そうとするのは何故だ?」
「決まっているでしょう。この国、そしてこの世界の為よ」
女性のその言葉に、風夜は顔を上げた。
2
「……本当に、それが目的なのか?」
「ええ。私はあの人と息子達が愛し、大切にしていたこの国を壊されたくないの。私だけでなく、彼等もね」
そう言って、女性は周りにいる子孫達を見る。
すると、その内の一人が口を開く。
「俺達は存在していなかったとはいっても、もう一人の自分を通して、外の世界を見てきた。……もう一人の自分がどれだけこの国を愛し、大切に思ってきたのかも知ってる。それを自分達の欲望の為に壊されるのを黙って見ているわけにはいかない」
「……貴方にとっては、酷な選択かもしれない。でも……」
それを聞きながら、風夜は少し目を閉じたが、すぐに目を開ける。
その表情は、覚悟を決めたようにも見えた。
「……わかった。……お前達の力を受け入れよう」
「なっ!?」
「っ!」
「風兄様!?」
風夜が言った言葉に、《風夜》が声を上げ、空夜と風華が彼を見る。
「おい!本気なのか?さっき言ったことは、嘘じゃないんだぞ!」
「……ああ、わかってるさ。……それでも、これが最善策なんだ」
「最善って、今のお前なら王族として、過ごせるんだぞ!」
《風夜》の言葉に、風夜は首を横に振った。
「……風の国の王位を継ぐなら、兄上がいる。それなら、俺は俺にしか出来ないことをするだけだ」
そう言った風夜の意思は固いようだった。
「本当にいいのね?」
「ああ」
「そう……、なら始めましょうか」
女性が言うと同時に、風夜の足下に魔方陣が敷かれる。
女性や周りにいた子孫達が手を翳すと、魔方陣が光りだし、その中にいた風夜が膝をついた。
「……っ!」
魔方陣から凄まじいエネルギーが立ち上ぼり、風夜の姿も見えなくなる。
「風兄様!?」
「一体、どうなってるんだ?」
「……あいつらの力が、もう一人の俺の中に流れ込んでいる。あいつの力が変化していくのがわかる」
風華と空夜に答えるように《風夜》が言う。
それを聞きながら、花音は立ち上ぼっている力を見る。
まだ風夜の姿は見えない。
それでも彼を包んでいる力は、魔族のものとは思えない、優しいもののように感じた。
少し時間が経ち、力の放出がなくなると、風夜の姿が見えてくる。
その姿は、見た感じでは変化はなかった。
「気分はどうだ?」
「ああ、問題はなさそうだな」
言いながら、風夜は立ち上がる。
それと同時に、花音達がいた空間が激しく揺れた。
「な、何?」
「……外から攻撃を受けたみたいね。そろそろ時間だわ」
そう言った女性が風夜を見る。
「……私達の力、確かに託したわ。その力で、この国を取り返して」
その言葉に、風夜が頷く。
それと同時に、花音達のいた空間が激しい震動と共に砕け散った。

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