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225話 その頃アノ人達は

 ――ゴチン!

 ったぁ~い!
 何故かあたしの形のいい頭に、レン君の鉄拳制裁が!

「俺のタンコブの原因は、それの万倍痛かったっつーの」

 え? うそ?
 あたしは助けを求めて周囲を見渡す。あ、これ、ダメなヤツね。みんな視線を逸らすんだもん。

「あー、うん。ごめんなさい?」
「……ふぅ。まあいいよ。お前のお陰で助かった。サンキューな」
「私からも。シルト。それに皆さん。本当に有難うございました」

 ふっと目から力の抜けたレン君と、涙を堪えたヒメが頭を下げてくれる。

「あははは。依頼だからね。しかも大事な仲間からの。あたし、頑張っちゃったよ!」
「そう、ですね……これで皆さんへの依頼は完了、という事になりますね……」

 もう! ヒメったらそんなに寂しそうな顔しちゃダメ! あたしはヒメの頭に手をまわし抱きしめた。

「ヒメにはこの国の女王として最初の仕事があるんだよ? ほら、命を懸けてくれたみんなを労わないと!」
「……はい! そうでしたね。感傷に浸っている場合ではありませんでした!」

 ん! いい顔つきになったわね。頑張れ、ヒメ!

*****

 その頃のシャオロンとアル

「シャオロンさん! 魔物の駆逐、完了しました!」
「うん。ありがとう。引き続き警戒に当たってくれるかな」
「はっ! 了解です!」

 帝国から逃れた民を引き連れて避難した都市は、少し前まで迷宮化していた。この街がそうだ。そして迷宮化させていた魔人との戦いでこの街は灰塵と化した筈なんだけど……

「うむ! 吾輩が迷宮化させた以前の状態に戻してしまうとは、さすがに我が主人は人間離れしておるな!」

 こいつはこの街を迷宮化させた張本人なんだけど、特に人間には思う事がないらしい。シルトと一騎打ちで完敗して、とある条件でシルトに従っている。戦闘時はゴツイ全身甲冑で顔なんか分からないけど、鎧の中身は超絶美少女魔人なんだ。

「アルのお陰で多くの帝都の人達を助けられた。ありがとう」

 これは本当にそう思っている。帝都民を脱出させた事に気付いた魔人達の追撃が無かった訳じゃない。一応僕達も百人程の守護者達(ガーディアンズ)を率いて護衛をしていたけど、アルの働きには本当に助けられた。

「む? 我輩は積極的に魔人を倒してはおらんぞ?」

 それは確かにその通り。好んで同族を殺すような戦闘狂じゃない。攻撃してきた魔人には容赦していなかったけど。助けられたというのは、そういう暴力面よりもむしろ土魔法による防御だった。これで多くの帝都民を助けていた事を僕は知っている。

「それでもだよ」
「む。そうか」

 そんなアルの協力もあって、帝都民の疎開(・・)も無事完了した。すぐに帝都に引き返し、魔王と戦ってる連中の助太刀に行きたいところなんだけど。

「それは難しいであろうな。城壁に守られた街の中とは言え、一歩外に出れば魔物や猛獣もおる。貴様らのような戦力がいる事で、民の安心感も違うであろう。なに、帝都には我輩が赴こう。貴様らは民を守ってやるがよい」
「……済まない。頼むよ。迷宮自治区に帰る時は必ず寄って行ってくれ」
「うむ。主人にも伝えおこう。ではな!」
「ああ。アルも気を付けて」

 帝都へと戻るアルの背中を見ながら思う。僕は勇者として召喚されながら魔王とまみえる事はなかった。魔王を倒した勇者として名を残す事はないだろう。でも僕は、この国の人を守る機会をこうして与えられたんだ。あの時、守り切れずに死なせてしまった人たちの為にも、今度はこの街の人達を守り抜こう。

*****

 シェンカー辺境伯領 前線駐屯地

「閣下。お嬢様より早馬です」

 側近の一人が、幕舎の中の俺に書状を届けにきた。
 何故戦場にいるのかと言えば、王都のバカ者どもが、魔王出現のどさくさ紛れに迷宮自治区の接収に動いたからだ。自ら切り捨てておきながら、有用性に気付いた途端に奪いに来るとはほとほとあきれ返る。
 当然、そのような暴挙は許さん。娘たちとの約束もあるしな。たとえ王国を敵に回そうとも退く訳にはいかんのだ。魔王討伐という重責を引き受けてくれたあの若者たちの為にもな。
 その魔王討伐に赴いた娘からの連絡か。吉報であれば良いが……

「読め」
「はっ!……これは! 閣下! やりましたぞ!」
「む?」

 俺は側近から書状を受け取ると、一字一句逃さぬよう慎重に読み進めた。

「そうか……フォートレスがやってくれたか……全軍に伝えろ! 魔王討伐は成った! もはや後顧の憂いはない! 向かってくる者には容赦するなとな!」
「は!」

 俺は幕舎を出て行く側近の背を見ながら表情を緩めてしまう。しかしそれは一瞬だ。

「あの娘たちの帰る家は守ってやらんとな」

 再び気を引き締め俺は剣を取った。 

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