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208話 土魔法に注目の回

 あたしが名乗ると、今まで紳士的だった全身鎧のアルフォートが、急に禍々しいプレッシャーをまき散らしてきた。

「なるほど、吾輩の迷宮を破壊し尽してくれたのは君かね」
「あー、いや、これはあたしがやったんじゃないんだけど……でも迷宮核を潰しに来たのは間違いないかな」

 お互いに周囲の惨状を見渡しながら言葉を交わす。

「吾輩の迷宮に異常を察知して、転移魔法陣で飛んで来てみれば……想像以上の状態で吾輩憤怒である。しかも、帝都の反対側の街も迷宮にすべく準備しておったというのに、それも邪魔されてしまった」

 怒ってる。凄く怒ってる。フルフェイスの兜からピーーッって湯気が出そう。

「あのねえ、こっちとしても人間の街をホイホイ迷宮化されると困っちゃうのよ。それにあなた、ボスを自称するからには邪竜並みには強いのかしら?」
「じゃ、邪竜だとっ!?」

 あ、今鎧がガシャッって。ちょっと中の人、ビクってしたのかな?

「竜種に勝てる者など、魔王様くらいのものだ!」

 今の言葉を聞いて、あたし達は顔を見合わせた。凄く重要な情報よね、それって。

「あたし、邪竜より強いよ? 降参する気はないかなー?」
「ふん。確かに強者の風格はあるようだが、所詮はヒト種の少女にすぎぬ貴様が邪竜より強いとは――片腹痛いわ!」

 アルフォートは物凄く憤慨したようで、怒りをそのまま拳に乗せて地面を殴りつけた。

「!!」

 足元の土が石の槍となって突き出してくる。
 それを飛び退いて回避するあたし達。
 でも回避した石の槍はそのまま矛先を転じてあたし達を追尾してきた。土魔法か。今まであんまり使い手がいなかったわね。

「くっ! 厄介だな!」

 毒づくアインさんをを一瞥してニヤリとしているだろうアルフォート。
 いや、フルフェイスだから顔なんて見えないんだけど、絶対あれはニヤけているよ!
 そしてその間にあたし達の回避行動を解析していたのか、アルフォートは地面を殴りつけた拳はそのままに、今度は左の掌を地面に付けて魔力を流し始めた。

「魔法の並行起動だと!?」

 シャオロンが驚愕して叫んだ。あたしはメッサーさんがちょいちょい使ってるからそんなに驚かないんだけどね。でも実際これは窮地に陥ったかもしれない。

「くっ! 逃げ場がないか!?」

 アインさんの表情に焦燥感が浮かぶ。アルフォートが左手で発動した魔法により、あたし達は頑丈な土壁に包囲されてしまったのだ。
 こうしている間にも石の槍の追尾は続く。

*****

 俺は防壁の上で大の字になって伸びていた。ライトニングヒュドラは、発動させるのは言うに及ばず、その後の制御にも膨大な魔力を消費する。要は魔力枯渇でぶっ倒れた訳だ。

「レン殿! 団長達が危険です!」

 危険? あいつがいるんだ。滅多な事は起きないだろうに。

「状況を教えてくれますか? それと、すみませんが魔力回復ポーションを」
「は! こちらをどうぞ!」

 騎士団所属の二十代後半くらいの魔法使いが、ポーションを手渡してくる。そのポーションを煽りながら状況の説明を受けた。不味いな。いや、ポーションがな。
 ポーションの効果で幾分体内に魔力が循環すると、俺はようやく立ち上がって自分の目で戦況を見る事ができた。街の中に突入した部隊は、新たにポップした魔物を危なげなく討伐している。戦況は悪くない。自分でもふっと笑みがこぼれるのが分かった。

「レン殿?」

 魔法使いが訝し気だ。まあ、傍から見ればシルト達は大ピンチだ。土の壁に囲まれ、回避する場所を限定された挙句にどこまでも追尾してくる石の槍。

「大丈夫っすよ。シルトのヤツ、敵を見定めているんだと思います。魔法戦闘ならシルトは百パーセント負けませんんよ。まあ見てて下さい」
「はぁ……」

 状況に似つかわしくない俺の落ち着きぶりに毒気を抜かれたのか、魔法使いも大人しく戦況を見守り始めた。

「やあ、シルトは後でオシオキが必要かな?」
「まあまあ、ボクの見立てでは、シルトなりの考えがありそうだと思うんだよね~」

 幾分魔力が回復したのか、メッサーさんとラーヴァさんが合流してきた。まったく……この二人の魔力回復速度には敵わないな。

「はははっ。でも騎士団のみんなを心配させてる分は、オシオキは必要だと思うっすね」

 隣で魔法使いがうんうんと頷いている。

「な!?」

 そして戦況を見守っていた別の魔法使いが、驚きの声をあげた。

「あれは一体?」
「ああ、シルトの仕業っすね」

 視線の先にはガラガラと崩れ去った石の槍と、地面に帰っていく土の壁があった。

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