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第25話 執行される二人

広場に多くの見物人が集まっていた。しかしそこに集まった人のほとんどが誰の処刑が行われるかを知らなかったので、レバンナが連行されて姿を見せたときには、あちこちから動揺した状況と悲鳴が上がった。




 処刑台の前に立ち、レバンナは辺りを見回すが、まだ目当ての者の姿は無いようだった。




「レバンナ、抵抗もせずに刑を受けるとは……どういう風の吹き回しですかな?」




「さあな……」




 そのレバンナの態度にジャミスの片側の眉が少し上がった。




「まあいいでしょう。ここまで来たら、もうどうすることも出来ないでしょうから。さようならレバンナ」




「やっぱりお前はバカだ」




 レバンナの放った一言に異常なほどの反応を示したジャミスは、レバンナの顔を思いっきり手の甲で殴った。そして睨みながら凄い剣幕で言葉を吐いた。




「あなたは一度ならず二度までも! 私の事を侮辱しましたね……私は、あの時の事を忘れてはいない! あなたに皆の前で侮辱されたことを!」





 それは三年程前、ジャミスがラスグーンシーフの出世頭として頭角を現してきていた時の事だった。もともと高すぎる自尊心を持っている故に、他人を見下す傾向のあったジャミスは、ある出来事でレバンナにたしなめられた。




 最初の立場から違うのが彼にとっては不公平であると思った事に起因していたのだろう。レバンナが周りに大事にされぬくぬくと育っていたことと、自身のように周りや環境に恵まれず、泥をすするような形で生きてきた違いを感じ始めた時に、年端もいかぬレバンナに恥をかかされたと勝手に思い込み、ジャミスは元から感じていたレバンナに対する嫌悪感をさらに憎悪へと膨らませていったのだ。そして日に日にレバンナに対する負の感情は大きくなり、このシーフの長になる事で復讐を果たそうという野望を抱えるまでに至ったのである。





 ジャミスはレバンナの傍から離れ、見晴らしの良い見物席に移動した。




 そしてレバンナと深琴は最後の言葉を執行人から受けていた。




「あなた方は我々が保管していた大事な物を盗みました。そして、いま尚その大切な物を返還せずにいる事も我々への裏切り行為とみなし、刑を行う事とします。何か言いたいことがあればどうぞ」




 そこに集まった見物人たち、そして幹部の者たちもレバンナの言葉を聞こうとしていた。レバンナは少し間を空けた後に小さな声で呟いた。




「もう少し、時間が欲しかったな……ここまでか」




 それだけ言って黙ってしまい、幹部たちもレバンナがしていないと信じてはいるものの、この状況になっても否定しないことに困惑していた。




 そして深琴にも同じように執行人が告げる。




「何か言いたいことは……」




 その問いに深琴はレバンナと違って、この場にいるみんなに聞こえるような大きな声で言った。




「私は何も盗っていない! レバンナも何も盗っていない! ここにいる人たちだって、それはわかっているんじゃないの!? そこのジャミスって人が企んでこうなっているって!」




 それを聞いた観衆は動揺したが、今度はジャミスが観衆に向けて話した。




「それは聞き捨てなりませんな。証拠もないのに、その様なことを言うとはさすが賊!」




「何言ってるの! あなたの方が悪人じゃない! マスターシーフの座を狙ってしたことじゃないの!」




「ええい! そのような戯言たわごとを聞く耳はありません! その二名の刑を執行せよ!」




 ジャミスが叫ぶと、執行人が二人を刑を行う台上に上げた。




「レバンナ! もうこれ以上は待てないわよ!」




 深琴はそう言うと、手足に繋がれていた鎖を簡単に外してしまった。




「間に合わないか……」




 そう呟くと、深琴に続いてレバンナも手足に繋がれていた鎖をあっさりと外した。それを見たジャミスは観衆に訴えかけた。




「ほら、見なさい! これが賊の本性なんですよ! さっさと刑を執行しなさい!」




 その命令に、その場にいたジャミスの大勢の部下たちがレバンナたちを囲んでいく。




「間に合わなかったようだ……仕方がない、すまなかったな深琴」




「何を持ってたかは知らないけど、もう無理、反撃しちゃうからね!~天かける光よ、この場に姿を見せよ」




 深琴がレバンナと会話しながらも器用に魔法を唱えると、深琴の周りに光の輪が現れた。




「レバンナこっちに来て!」




 レバンナは言われたとおり深琴のそばに行った。取り囲んだ相手が一人斬りかかったが、光の輪に弾かれて届かない。




「なんの魔法だ?」




「光の障壁の守りよ」




「深琴やるね~」




 防御障壁の魔法を発動させた深琴をちゃかしながらも褒めた。その様子を見ていたジャミスがいきり立ちながら、部下をけしかけた。




「何をしている! そんな魔法に手間取っているんじゃない! 闇のオーラよ光を駆逐せよ!」




 ジャミスは自ら魔法を唱えて深琴が作った光の障壁を破壊した。




「うっそ~!」




「意外にあっさり壊されたな……けど奴もしっぽを出した!」




 その瞬間、広場の観衆の中からレバンナを目がけて一つの筒が投げ込まれた。その筒こそがレバンナの待ち望んでいた物だった。それをしっかり受け取ると、レバンナは即座に中身を見る。そこに書かれていたのは、ジャミスが他の都市や町にあるシーフギルドの一部の者たちと結託し、悪事を働いていることを証明するものだった。




「でかした!ミル!」




 そう叫ぶとレバンナはそこに集まっている全ての人たちに向かって叫んだ!




「ここにいる皆に伝える!そこにいるジャミスは一部のシーフギルドの者と結託して、『利益のみの紛争や戦争に加担しない』というシーフ約定を反故にして、この国に騒乱を起こそうとしている!」




 レバンナの発言に広場はざわついた。その発言を聞いた幹部たちは一斉にジャミス本人に問いただした。




「何! 本当か?ジャミス!」




 一人の幹部が言うとジャミスはその状況を治めようとする。がしかし、レバンナに書状を投げた部下がその言葉を遮った。




「何をその様な戯言を。レバンナは我々の宝である」




「それもあなたの部下がやった事でしょ?あなたの企みはもう明らかにされたのよジャミス!」




「ミル!お前、今までどこに行っていた?」




「レバンナ様に頼まれて、ジャミスの裏切りの証拠を集めていました」




 幹部の一人が、現れたレバンナの部下であるミルに向かって言葉をかけるとミルと呼ばれた者は自ら被っていたフードを外し姿を示した。短めの髪は綺麗な黒色をしており、その髪が露わになった事で女性であるとがわかった。小柄な印象を受ける姿と打って変わり、その眼差しはしっかりと相手を捉え威嚇さえ出来る程の強さをしていた。




「貴様! 見かけないとは思っていたが、そんな事をしていたのか!」




「レバンナ様は随分前からあなたが何か企んでいる事を気が付いていたのよ! その証拠を探って欲しいと頼まれて、私はここを離れていた」




「くそ! そんなことを――構わぬ! レバンナを殺せ!」




 ジャミスは幹部たちから離れ自分の部下に命令を下すと、自らはまた呪文を唱えだした。




「ジャミス! お前の企みはもうバレたんだ! 大人しく罪を認めれば、刑の軽減を頼んでやる!」




 そういうレバンナにジャミスは唱えていた呪文の完成と共に言葉を返す。




「な・に・を今更……貴様に受けた屈辱は今も忘れる事はない! 来たれ闇の兵士よ!」




 その言葉と同時にジャミスが投げ放った白い欠片がレバンナの周りに無造作に落ちると、変化をしはじめ、骸骨の騎士や朽ち果てた姿の兵士などの多数の魔物が現れた。




 それを見た広場の人たちは声を上げてその場から逃げ出した。幹部たちもただらなぬ気配を感じ、広場の人たちを避難させる。




「あんな物を出しおって!」




「みんな! この場から逃げろ!」




 そんな中、ミルが果敢にもジャミスに斬りかかるがジャミスの前に立ちはだかった彼の部下によって弾き返されてしまった。




「キャ!」




「ふん! 貴様などにやられる訳にはいかない!」




 ジャミスはミルに一瞥すると、その場から離れようとさらに移動する。会場では逃げ惑う人たちがジャミスの放った魔物によって大混乱となっており、レバンナは逃げようとするジャミスに気が付いていたが魔物によってなかなか近づけずにいた。その二人を二匹の魔物が追い詰めかなり不利な状況のレバンナと深琴だった。

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