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第5話 悪党VS兄妹


深琴を連れ出した男は街の中心街から外れた場所を歩いていた。なんとなく、ひと気がなくなる感じに深琴は不安になり男に確認した。




「あの~段々、街の外れにきているようなんですけど……こっちなんですか?」




「もうちょっと行った所にありますから」

こちらの顔も見ずに答える男に不審感を覚えさらに男に聞いた。




「すみません、本当に薬の材料の場所に向かっているのですよね?」




男は軽く舌打ちをして、辺りを見回した後に深琴の方にふり返った。

 
挿絵




「この辺までくれば少々騒いでも平気だろう……」




深琴は案内している男の言葉が理解できなかった。そんな深琴に男は笑いながら言いだした。




「ハッハハッハハーお嬢ちゃんどこまでお人よしなのかな? そんな都合のいい話

あるわけがないだろう」




深琴はそれを聞いても、まだ騙されたのに気が付いていなかったので男は続けて言う。




「俺たちの目的はお嬢ちゃんの持っているその金だよ!」




深琴はハッとなり、ようやく騙されたことに気が付いたのだった。




「それじゃ材料の事は全部ウソなんですか?!」




「そうだよ、店でお嬢ちゃんが金貨を見せてるところを見ちまってな、

軽くみても二百枚以上はあると思ったからよ」




「せっかく……村の子供たちが早く良くなると思ったのに……助かると思ったのに!」




独り言をつぶやいた深琴は、下を向いたままじっとその場に立ちすくんだ。




「さあ、わかったら金を置いてさっさといくんだな……そうすれば命は助けてやる」




「やだ……お前なんかに……お前なんかに渡す物などない!」




自身の感情が込み上げて来て、小さな声がだんだん大きな声になっていった深琴。

腰の剣に手を掛け今にも抜きそうな勢いである。男はそれを見てニヤけた表情で言葉をかけてきた。




「おいおい! やるのかい! やだね~おとなしく渡せば命は取らないでいてやったのに……まっ! しょうがないか」




男は指笛を鳴らすと、隠れていた仲間がゾロゾロ出てきたのだった。深琴はそれを見て、この男に仲間がいることを知った。




「仲間!隠れてたの!」




「一人で狙うと思ってたのかい? 甘いね~お嬢ちゃん」




完全に剣を抜いて臨戦態勢になると、盗賊たちは薄笑いを浮かべていた。

あとから出てきた盗賊は七人にもなり、怒りもあるが冷静さがなくなったわけではなく、状況が悪いのを理解してどうするか考えを巡らせていた。




(こんな場所じゃまともに戦えない……場所を変えなきゃ)




場所を変えるためジリジリと、さがりながら隙を伺う。




(そうだ! ちょっとムカつくけど……)




金銭が狙いだと思い出し、金銭を盗賊にバラ撒いて注意を逸らす方法を思いついた。




「あなたたち! これが欲しいんでしょ!」




深琴は腰袋に手をやると軽く掴んだ金銭をばら撒いた。

盗賊たちの注意がそちらに向けられた隙にその場から逃げることに成功したが、すぐに盗賊の一人が深琴が逃げた事に気がつくと声を上げ仲間に罵声を浴びせていた。

「バカ野郎! 逃げたじゃねぇか! あいつの持っている金はもっとあるんだぞ! 追え!」




盗賊たちは深琴を追いかける……逃げている彼女の姿が街灯に照らされて建物の壁に大きな影として映し出されていたのを見たオルト。




「ん? あれか?」




兄オルトが近くまで探しに来ていることに気付かず、逃げている深琴は追いついた盗賊たちに囲まれた状態となっていた。




「手間かけさせやがって! 逃がさねーぞ!」




深琴は周りを確認して、この辺りならと改めて剣に手を掛ける。




(仕方ないか、この場所で……)




深琴は覚悟を決めて剣を強く握った。その時、自分の後方からこちらに向かって誰かが声をかけてきた。深琴はその聞き慣れた声に思わず強く握っていた剣を緩めるが盗賊から目を逸らす事はできず、声の主を想像した。




「女性一人にこの人数で何をしている? 見下げた奴らだ……」




「なんだ! テメーは!?」




それに気づいた盗賊が言葉を吐く。

オルトは盗賊と襲われている深琴の間に素早く割って入っていた。

盗賊たちはその動きに遅れて気がつく。




「え? いつの間に!」




妹だと気が付いていないオルトの背中越しに深琴が近づくと、




「に! い! さ! ま! ――!」




その雄叫びと一緒に、兄を鞘さやに納めたままの剣で思いっきり叩いた。

兄の背後からほぼ不意打ちで叩いた深琴の行為に状況が掴めず、衝撃でフラフラとなった兄の身体をそのまま揺さぶる深琴。




「どこにいたのですか! 兄様! 村の子供たちが大変なんですよ! 兄様が居ないから、私がこの街に来ることになったんですからね~」




「う~んお前だったのか」




すねた感じで言う深琴を半分気絶状態のような兄オルトに話していた。兄は頭を抑えながら深琴に言葉をかけた。




「今の、効いたぞ……」




頭を振り、もとに戻った兄はさらに続けて言ってきた。

「店主の話で何となく繋がった……お前が薬の材料を集めていたとはな」

深琴は頷きながら兄に言った。

「はい、ファブルさんに、村にある薬では治らないと言われたので」




「再会のところ、申し訳ないんだが! 続きはあの世でやってくれねえか!」




二人が話をしていると、盗賊が前触れもなく斬りかかってきたが、それを何事も無かったかのようにかわしていた。




「なに!」




深琴たちは態勢を整え、盗賊に向き直すと。




「とりあえず、こやつらを片づけないといかんな」




「はい! 兄さま」




オルトは剣を抜き、深琴も打ち合せたかの如く同時に剣を抜き構えた。二人は多数いる盗賊相手に怯むようすもなく、息の合った展開で瞬またたく間に一人を除いて盗賊たちすべて打ち倒した。最後の一人となった盗賊にオルトは質問をした。




「貴様たちは単独で動いているのか?」




「なんのことだ?」




「他に仲間がいるのか? と言った意味だが」




ほんの一瞬だけ目線を外した盗賊は明確に応えず剣を向けて来た。




「お前の知った事か! 死ね!」




向かってくる盗賊に質問の答えを得ぬまま打ち倒したオルトは深琴と共に剣を鞘(さや)に収めると、その場から立ち去っていく。




「深琴、一緒に来なさい」




「兄様どこに行くんですか?」




「薬の材料がいるのであろう?――これから、それを取りに行く」




兄は深琴を連れてしばらく移動すると、さっきの“風変わりの店”の店主が中央広場で待っていた。




「旦那、手が空いたらここに来てくれって言われて待ってましたが、あまり時間をかけたくないんで戻ってもいいですか? 店もあることですし……あれ? さっきのお嬢ちゃんじゃないかい?」




「あ、先ほどはどうも」




妹は店主に挨拶をかわす。オルトは妹と店主を自分の後方にしながら話をした。




「店主、すまないがもう少しだけ付き合ってくれないか」




「え? まぁ――構わないですけど一体あっしに何を?」




「さっきの話だと宝庫番が明日にならないと来ないという事だったな」




それを聞いて店主は改めて答えた。




「そうです、宝庫番がいないと宝物庫はひらきませんから明日まで待ってもらおうとお嬢ちゃんに言っていたんです」




妹は口を尖らせながら、少々すねた感じでその会話に入る。




「それでは間に合わないかも知れない――そう思ったら、さっきみたいな事に……」




「では宝物庫を開けば、材料がどれかわかるのだな、店主」




「そりゃ、商売柄それくらいの事はわかりますよ……でも明日にならなければ宝物庫は」




その問いに店主は質問の意味がわからずに答えていたが、オルトは地面に魔法陣を書き終えると、その先の話をした。




「では開ければ、いいだけだな!」




目の前の空中に円状の魔法陣が出て、そこから宝物庫の扉が出てきたのであった。だが、それと同時に二体のガーディアン(門番)も現れたのだった。




「え?何?」




言葉を漏らした深琴、店主の方は何が出現したのか理解して後ずさりする。




「なんで旦那が宝物庫の呼び出し方を知ってるんですか? うわ! ちゃんとした手順で宝物庫を開けないと、門番が(ガーディアン)が出てくる仕組みを知らないんですかーー!」




「知っている、時間が無いのでな! ガーディアンを倒して開けるしか今は方法がなさそうだ!! 深琴は下がってなさい」




慌てたように言うと店主は物陰に隠れた。兄であるオルトは深琴にさがるように声をかけ、深琴も言われた通りに下がり、兄を見守ることにした。

現れたガーディアンは大きな体躯で重量もあるのであろうその足取りは重く、一歩ごとに大きな足跡が残るほどであった。

久しぶりの本格的な戦いにオルトは少々緊張しているように深琴には見えた。




「さて……やるか!」




言ったのと同時にガーディアンに素早く斬りかかった。

二体のガーディアンはオルトを敵だと認識すると、ゆっくりとした動きで攻撃をはじめた。オルトはそれをかわしながら剣を振るっているが、あたった刃にはガーディアンの硬さを現すかのように甲高い音が何度も響くだけだった。




「なかなか……骨が折れる仕事になりそうだ!」




ガーディアンの動きは遅いため左右に避けては切り込むが、オルトの攻撃はまともに効いていなかった。

この相手に対して物理的攻撃しかしていなかったのはガーディアンが魔法耐性が高いのをオルトは知っているからだっだが、この攻撃では効果が薄そうなのも理解していた。

その様子を心配そうに深琴は見ていた。




(どうするの、 兄さま?)




あまり時間をかけすぎると、周りが騒ぎになる可能性を考え始めていたオルトは攻撃方法を変えることにした。




「やってみるか!」




そう自身に檄を吐くとガーディアン二体の間に入り、さらなる攻撃を行った。

一体の攻撃をかわしつつ、もう一体のガーディアンを徐々に引きつけていく、二体のガーディアンが近づくと、さらにきわどい攻撃がくるのをかわし続けている。

相手を誘うような動きをしてガーディアンの“ある攻撃”が来るタイミングを計っているように見られた。そしてオルトは自ら空中に飛ぶと、そこに二体のガーディアンは同時に攻撃を仕掛けてきた。その状況を瞬きもしないで見ていた深琴は思わず声をあげてしまった。




「兄様! あぶない!」




オルトはその攻撃を予測していた様に空中で体を反転させ、ガーディアンの攻撃をギリギリでかわすと、二体の攻撃はそれぞれのガーディアンにあたってしまい、二体とも大きく粉砕して崩れてしまった。同士討ちで倒れたガーディアンが動かない事を確認して深琴と店主がオルトに近づいて行く。




「兄様! 大丈夫ですか?」




心配している深琴――オルトは服についた埃をはらうと深琴と店主に声をかけてきた。

「ふぅ~大丈夫だ。店主、妹が求めている材料はどれか? 探してくれるか?」




店主は今あった目の前の出来事もおぼろげな感覚のまま、宝物庫の中を探して薬の材料を深琴に渡してくれた。




「それにしても旦那、宝物庫を力ずくで開けるなんて……見た事ないよ」




深琴は店主に材料の代金を払い、オルトは話をした。




「時間が無いのでな――この様な開け方を許してもらうとしよう。それと深琴、お前に頼みがあるんだが……」




兄のオルトがこれからの行動を途中までしか説明していないにもかかわらず、深琴は声を荒げて兄に詰め寄ってきた。用は早とちりをしたわけだが……。




「兄様は村の子供たちの事を諦めろと言うのですか?!」




「ちゃんと最後まで聞きなさい、お前が持って帰るのでは遅くなる――それでは多分間に合わないだろう……だから私が代わりに急いで村に持って帰ると言っている」




「それなら私も兄様と一緒に戻ります」




オルトは首を振り深琴に頼みたい大切な要件があることを話した。

「私は大事な用がある為にイリノアの街に来ているのだ。その用件を私の代わりに頼めるか? とお前に話しているのだが」




「兄様の代わりに、明日この街に来るその方に荷物を渡すってことですか?」




オルトは明日この街にやってくる人物に大事な物を渡したいので、その代わりを街に残ってして欲しいと伝えたのだった。




「そうだ……頼めるか?」




「そういう事でしたら、そういたします……兄様、村の子供たちの事、頼みます」




「ああ、わかっている。店主、妹を私の泊っている宿に案内してやってもらえるか?」




オルトは“風変わりの店”の店主に深琴が自分の代わりに泊る宿の案内を頼むと、話を聞いていた店主は、深琴を案内する事を了承してくれた。

「旦那には通常のお代以上を貰っていますので、それくらい」




「それでは頼むぞ」




「わかりました。兄様、お気を付けて」




話がまとまり、オルトは早々はやばやと村に向かう――走り去る兄を見送ってから妹と店主は宿に向かいだした。




「それにしても旦那はすごい人だ……まさか宝物庫をあんなあけ方するなんて初めて見たよ」




「宝物庫ってあんなふうになってるなんて知りませんでした。 私のいる村だと大きなことも起らないので……他の都市もあんな方法なんですか?」




「まぁ、だいたいは――各都市にある宝物庫の警備は一括管理されていてね、王都ウォーセンにある銀行ギルドで管理しているのさ、銀行ギルドは依頼されて預かった物を管理して、それを運用または手数料を得て運営しているんだよ。大都市になればなるほど警備は凄くなるがね」




「よく知ってますねマスター」




「これでも昔はウォーセンで稼いでいた商人だったんだよ――まぁ、今はこの街でなんとかやっているだけだ……それに」




話を続けている店主の声も上の空に、深琴は村の子供たちそして村に向かった兄オルトの事に思いを馳せて夜空を見上げていた。

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