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201話 魔人軍師の迷惑な置き土産

 シ・バーイとの戦闘で犠牲になったのは約二十人。そう、あたしのリセットでも死者は蘇らせることは出来ない。

「ごめんね……守ってあげられなくて」
「シルトのせいではないよ。そして、あの場面で追撃の指示を出した私の判断も間違っているとは思わない。奴の策が一枚上手だったという事だ」

 アインさん……そうだよね。戦争で兵隊さんが死ぬのは当たり前の事。それを嘆いているあたしはまだ覚悟が甘いって事なんだよね!

「シルト。そろそろ始めるよ?」
「あ、はい。お願い、お姉ちゃん」

 戦死者たちを悼み、お姉ちゃんが魔法で生み出した業火で骨も残さずに焼き尽くし、灰は風に舞い天へと帰る。
 あの村で、ネクロマンサーに弄ばれた死者たちを見たあたしたちは、土葬で済まそうとは思わなかった。二度と眠りを妨げられないように天へと送る。遺品は回収して魔法鞄へしっかりと保管した。

「……絶対に魔王を倒して彼らの犠牲に報いねばなりませんね。行きましょう、皆さん」

 ヒメが悲しみから決意の籠ったいい表情に切り替わったわね。自分の祖国を解放する為の戦いで犠牲が出たのだから、あたし以上に心を痛めていた筈なのに。さすが、生粋のお姫様って強いんだなぁ……

 シ・バーイが拠点にしていた街に到着すると、アイギスが出迎えてくれた。アイギスの案内で街中を歩いてみたけど、戦闘になった様子はない。
 シ・バーイは本当に全戦力を投入して、あたし達を倒しにきたみたいだ。ただ、先行してこの街に入ったセラフさんの別動隊には、何故か疲労の色が見える。

「あ! 皆さんご無事で何よりです!」

 あたし達を見つけてセラフさんが駆けよって来た。

「うん。犠牲者は出ちゃったけどまた一人、四天王を倒す事ができたよ。ところで何があったんだい? 随分疲れているようだけど?」
「ええ、実は……」

 お姉ちゃんの問い掛けに対するセラフさんの答えはこうだ。

「街には魔人の一人もおらず拍子抜けしたのですが、トラップが多数仕掛けられておりまして……致死性のものは無かったのですが行動を阻害するものが多く、嵌ったトラップからの脱出やトラップ自体の解除に随分と消耗させられまして……」

 なるほど。死して尚嫌がらせをしてくるとはさすが四天王ね。
 あれ? でもアイギスはトラップの事何も言ってなかったよね?

『私はトラップの存在自体は知りませんでした。ただ、なんとなく不吉な感じがするルートを避けて移動していたのです。ですがそれも魔人達の罠だったようですね。結果的に袋小路に追い込まれ、深手を負ってしまいました』

 うわ……トラップを避けても結果的に追い詰められちゃうのかぁ。やっぱりあの魔人って頭いいんだね。

「シャオロン達の話じゃ、魔人達の数は精々数百程度って言ってたよな? その内の三百がこの街の防衛に当たってたって事は、魔人達にとってこの街は重要拠点だった訳だ。しかもご丁寧に拠点奪還に来る人間へのトラップまで仕掛けてある。王国からのルートにだけ戦力を割く訳にはいかないだろうから、この先帝都までの道筋で待ち構えている敵は多くないと思う」

 うんうん、なるほど。
 つまりレン君が言いたいのは、四天王の残りの二人は、帝国に隣接する他の国からの進行ルートに備えているんじゃないかって事だね?

「確か、ここから帝都までの間にこの規模の街はあと一つ。魔王が王国ルートにしか警戒していないなら、そこにも四天王がいるかもしれないが、その可能性は低いと思う」
「レン君の見立てでは帝都に至るまでの最大の山は越えたと?」

 騎士団長のアインさんとしては、この先の展開次第では撤退して戦力を立て直す事も視野に入れなければならないだろう。ここの判断は慎重になるよね。

「僕からひとついいかな?」

 お、最近引き締まっていい感じになったシャオロン?

「帝都からの撤退戦は地獄だった。あの思いをするくらいなら、僕は玉砕覚悟で帝都まで攻め上り、今回で終わりにしたい。帝国から落ち延びてこの軍に参加している者達は、僕と同じ考えの人が多いと思う」

 あたし達は周囲を見渡す。帝国出身の人達はシャオロンに同調しているように頷いているね。そこでメッサーさんが声を上げた。

「シェンカー辺境伯領は王国中央部との抗争も控えている。そうそう時間稼ぎも出来ないだろう? どの道私達にはこの一度きりしかチャンスは無いのさ。行くべきだね」
「そうだよね~。そしてそのワンチャンスをモノにしなくちゃボク達には未来はない」

 そうだね……お姉ちゃんの言う通り、あたし達って結構崖っぷち。

「なあに、魔人も魔王も切り刻むのみ」
「そうそう、ボクが焼き尽くしてあげるよ!」
「なら俺は一刀両断!」
「サポートはお任せ下さい!」

 メッサーさん、お姉ちゃん、レン君、ヒメ。皆が不退転の覚悟を表明する。そしてあたしを見る。

「え、えーと、魔王なんか、あたしがボッコボコに殴り倒します!」

 あたしの声を受けてアインさんが一際大きな声を張り上げた。

「みんな! 私達の最大最強戦力の五人がこう言っている! 負ける気がしないじゃないか! よって、本日はこの街でゆっくりと休息し、明日から帝都に向けて進軍する!」

 おお。凄い。士気が上がった。アインさんの檄でみんなが雄たけびを上げている。よし!今日はとっておきのお肉提供しちゃおうかな!
 

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