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198話 もう一つの戦場

 縦長に伸びた隊列の横腹を突かれる形の奇襲。先行していた部隊は大混乱に陥り、収集が付かない状態になっている。
 こうなったらあたしが前線に出て!

「待てシルト!」

 飛び出そうとしたあたしをレン君が呼び止める。

「何よ! 早く行かないと先行部隊が――」
「落ち着けッ!」

 いつになく強烈な気合を乗せたレン君の声で、思わずあたしの体がビクリとなる。

「いいか? 落ち着いてよく聞け。前線には俺たちが行く。負傷兵を後方に下げるからお前がリセットで元通りにしてやるんだ。ここで兵を減らしてしまうと、ただでさえ少ない俺たちの軍は魔王まで届かなくなるかもしれない。お前のリセットが必要なんだ。分かるな?」

(コクコク!)

「それから、奇襲の兵力は百だそうだ。あのシ・バーイとかいう奴が率いていた本隊も、撤退を中止して攻撃に加わっている。となると、街に残してきた戦力はいないって事だ」

(コテン?)

「森に潜ませていた別動隊はそのまま街に突入させるんだ。こっちは俺たちだけで何とか持たせる。この事をアイギスを走らせてセラフさんに伝えるんだ。いいな!」

(コク!)

「よし! それじゃあ魔人共を蹴散らしてくる!」
「シルト、後方は任せた!」
「前線はボクたちに任せてね! ヒメはシルトと一緒に治癒を頼んだよ~」

 レン君、メッサーさん、お姉ちゃんが駆けていく。ん、あたしたちも頑張らなきゃ!

「ヒメ! 頑張ろうね!」
「はい!」
「救護班! 重傷の人から連れてきて! 軽傷の人はヒールを使える人が面倒を見てあげて!」

 とにかくリセットで元通りに! 酷いケガの人も多い。殆ど死にかけてる人もいる。

「生きてる限りはあたしが助けてあげる! だからみんな気を確かに持って! 近くの人で励まし合って! 生きてさえいれば! 必ず! 必ず!!」

 どんどん運び込まれてくる負傷兵達。腕や脚を失った者。目を抉られた者。全身が焼け爛れた者。

「ヒメはヒールで少しでも延命措置をお願い!」
「はい!」

 いつも前線で戦っていたあたしには知りえなかった、もう一つの戦場。
 こんな修羅場になってるなんて知らなかったし、知ろうともしなかった。正直、これなら前線で戦っている方がずっとマシだと思う。でもあたしはここを託された。お姉ちゃんやメッサーさん、レン君ならきっと状況を打開してくれる。あたしは信じてこの戦場で戦い抜いてやる!

*****

 私たち別動隊は、森に潜んで奇襲の機会を伺っています。ですが本隊の様子がおかしいのです。戦闘音は聞こえてくるので接敵したのは間違いないのでしょうが……攻撃開始の命令が来ないのです。

「セラフさん! 大変です!」

 状況確認のため放っていた斥候が戻りました。この慌て具合、嫌な予感がします。

「退却を開始した敵部隊を追撃した本隊が、敵伏兵に急襲されました! さらに退却していた敵部隊も反転攻勢に出たため味方は不利、死傷者多数!」

 ……なんて事! 今すぐ救援に向かわなければ!

「奇襲部隊に通達! 本隊の救援に向かいます。至急集結するように!」
「は!」

 それにしても……退却すると見せかけて、我々を釣り出し伏兵で叩くとは……やはり今度の指揮官は相当な切れ者なのでしょうか。

「奇襲部隊、集結完了しました!」

 先ほどの斥候役が報告に来てくれました。

「現在本隊が敵と戦闘中です。苦戦中なので我々は救援に向かいますが……直接介入はせずこのまま森を進み敵の背後を取ります。くれぐれも敵に気取られぬように、そして迅速な行動をこころがけて――」
『お待ちください!』

 私の命令内容を遮るように現れたのはアイギスさんでした。

『セラフさん。本隊からの指示を伝えます。現在敵軍はほぼ全戦力を投入して本隊と戦っています。つまり、街の防備はほぼいないという事になります』
「確かに……」
『本隊への救援は不要。別働隊はこのまま街を制圧せよ。以上です』

 なるほど……こんな大胆な作戦を思いつくのはレン君でしょうか? しかし、本隊は大丈夫なのでしょうか。

『大丈夫ですよ。フォートレスが本気になりました。必ず盛り返します』

 ……そうですね。あの人達の非常識っぷりは、私が一番近くで見てきたのでした。魔人の百や二百、どうという事はありませんね!

「全隊予定変更! 我々はこれより戦場を迂回し、直接街を制圧します!」
『先導します』

 信じてますよ? シルトさん……

 

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