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9話

「あれ、ガブは?」
リリーの質問に、俺は正直に答える。
「今日は天界に帰ってるよ。」

「…は??あ、そうなのか。」
ん?なんでそんな受け入れるんだこいつは。頭おかしいのか?


一方、ガブリエルは。
ガブリエルは天界の方に帰ってきている。というのも、試験的に異世界に飛ばされたミツルの近況報告に来ていたのだ。

聖堂に入ってすぐに大きな扉があり、ここを通る
「さて、ガブリエルよ。よく戻ったな。近況報告を頼む。」
天使たちを束ねているゴッドがお茶を入れながら話しかけて来た。
私は先日までの様子を振り返りながら、ゴッドに話をしていく。


1つ目は睡眠について。
「ミツルさん、まだ寝れなそうですか?」
夜の帳が降りても眠れないので、1人リビングでミツルさんは漂っていた。

「あぁ。ガブか。いつも通りだろ。俺が眠れないのは。」
「そうですね。眠れそうになったら、ちゃんと布団に行くんですよ!あと、眠る前には温かい飲み物を飲むこと!それから布団は…」
「お前はおかんか!心配しないで寝ておいてくれ。気を使う。」

そうして、いつも通り部屋に戻る。だいたいこんなことを毎日繰り返している。ただ、宿を写してから毎日数時間は寝れているようだ。部屋をわけたのがよかったのだろうか。


「とまぁ、このように毎回邪険に扱われますが、少しだけ改善してきています!」
ゴッドは優しく微笑みながら、
「そうか、それはよかった。次は活動の様子の報告を続けてくれ。」
「かしこまりました!では、最近のクエストの様子を!」


山菜採りから少し時間が経ったある日、我々にはお金がなかった。ミツルさんは相変わらずクエストに行くのが少し嫌な様子でいる。
「なぁ、まだゆっくりする日が欲しいんだけどな。」
「わりぃな、ミツル。ただ、生活費がないから今日はクエストに行かないとキツいんだ。」

リリーさんが優しくミツルさんにフォローを入れる。普段、リリーさんはミツルさんに優しく接してくれているから助かっている。
ギャンブルさえしなくなれば完璧なのに。

四人で朝食を済ませた後、皆で支度をしてから、酒場に行く。クエストボードには、ゾンビナイトの前とではましになったがたくさんのクエストがまだ残っていた。

「グラスドッグの討伐?一匹4万ハンスよ!これにしましょう!」
ミシェルさんが金の臭いを嗅ぎ付けたのか、鼻息荒くそのクエストの紙を握りしめている。

「私は別に良いですけど、ミツルさん、これで大丈夫ですか?」
ミツルさんは嫌そうだが、うんとだけ答えてくれた。

生息地付近につくと、グラスドッグが5匹見えた。どうやら、グラスドッグに群れの習性はないのか、それぞれが草原に点在している。

私たちは、相変わらずまずは岩の陰に隠れてこそこそとしていた。すると、ミツルさんがいつものように

「よーし、集まれ。作戦を言うぞ。」
この言葉とともに、私たちは円陣を組んで座る。なぜか毎回この形になる。

「いいか。相手は点在している。まずはミシェルが誘惑の舞を舞うんだ。」
「え!私の誘惑は見ている人を激昂させてしまうわよ?」
見ているだけで激昂するって、逆に興味が出てくる。でも、私たちは見ないようにしなければ。

「それで良いんだ。怒った犬達はミシェルを標的にする。そうなったらミシェルは盾を持って逃げるんだ。その状態である程度犬がミシェルの辺りに集まったところで」
「私がドカーンだな!効率よくいけそうだな!さすがリーダー!」

そして、この作戦の1番の被害者がにこやかに言ってくる。
「失敗したら私はきっと殺されてしまうから、ガブは麻痺が解けたらすぐに蘇生お願いね!それで、蘇生したら作戦を繰り返しましょう。」
「は、はぁ。あの、皆さんもう少しだけ命を…」
そんな私の発言を遮るようにリリーさんが
「よし!作戦開始だ!」

毎度毎度のことで感覚が麻痺してきているようで、皆が死ぬことを1つの状態異常程度にしか思わなくなってきてしまっている。天使として私はどうすれば。

そんな私の思いなど、誰も気に留めることもなく戦闘が開始された。
「誘惑の舞!」

ミシェルさんが誘惑の舞を踊る。その瞬間、5匹の犬達はそれまでに聞いたことも内容な怒り狂った声をあげミシェルさんに突っ込んでいく。 一体なにが犬達をそこまで怒らせるのだろうか。

そして、リリーさんがミシェルさんと少し離れたところに立ってダイスを唱えた。今回は2が出た。全員麻痺になり、ミシェルさんは盾を構えてから麻痺になったので少しダメージは防げているが、それでも相当に傷ついている。

麻痺が解けてから、私は慌ててミシェルさんの元へ。ミシェルさんはなんとか生きており、少し遠くから何回かに分けてヒールをかけるだけで済んだ。

ミシェルさんが生きていることもあり、犬の怒りはまだ収まっていない。親でも殺されたのだろうかあの犬達は。

そして、リリーさんがミツルさんの合図でダイスを放ち、クエストは終了。5匹の討伐で20万ハンス。1人5万ハンスとなったので、これでミツルさんも少し休めそうだ。

…なはずだった。
リリーさんが報酬を受け取ってからまたいなくなった。油断した。慌てて探すと、その姿は賭場にあった。彼女はこの数分間で半分を失ってくれたのだ。

というわけで、稼ぎは10万ハンスになってしまった。次はリリーさんを見張っておいて、私が受け取りにいこう。


お茶を起き、一息ついたゴッド。
「ご報告ありがとう。なるほど、まだ行動をしたがるようにはなっていないわけだね。ただ、外に出ると出来ることをするといった感じか。」
「そうですね。自発的に冒険に行く!ということはなく、家でゆっくりする時間を手に入れるためにクエストを受けるといった感じです。」
そうか、とゴッドは言うと、少し真剣な面持ちで語りかけてきた。

「ガブリエルよ。治療を次の治療に移していこうという決議が出たので、それに従ってもらおうと思う。」
冷静な声から、ただ事ではないのだろうと察した。私は息を飲んで指示を待つ。

「次は目標達成だ。環境を変えるだけというのは不十分なように思われてな。そこに自己効用の観点も入れたらどうだということになった。ガブリエルがいる世界は今、古の龍に支配されている。これでわかるな?」
「古の龍の討伐ですか。たしかに、私もはじめはミツルさんにそのように言いましたが、まだあまりにも早いように思われます。もう少し時間を…」
まだ、飛ばされて1ヶ月ほどしか経っていない。それなのに、討伐とはイメージが出来ない。

そんな私の想いを感じ取ったのだろう。ゴッドは話を続けた。
「さすがに、今すぐにということではない。しかし、ドラゴンの様子がそろそろ本格的に怪しくなってきたのでな。それほど多くの時間が残っていないことも事実なのだ。せめて、本人に意識させてくれるだけはしておいてくれ。」

私はわかりましたとだけ言い残して、天界を出た。


「おぉ!遅かったなガブ!今日は肉だぞ!」
リリーが高いテンションでガブに話しかける。因みに、当然だが頭の病院には行かなかった。

ガブが少し暗いような印象を受ける。なにかあったのだろうか。
「えっと、ミツルさん、少し良いですか?」
ガブの部屋に呼ばれ、ついていく。リリーがお熱いだのなんだの言っていたが、あいつはそれしか言えないのか。

「私たちの目標、はじめにいったもの覚えてます?」
「まさか、ドラゴン退治のことか?」
「そうなんです、そのドラゴン退治ですが、そろそろ本格的にそのための準備を…」
「断る!そんなの無理だ。天界が何をいったのか知らんが俺には厳しい。」

悪いが俺はガブにそう告げた。こんな鬱病放浪者と愉快なポンコツ達のパーティーでは到底叶わない。だから、断ることが大事なのだ。

しかし、俺はこのときすでに古の龍との戦いの火蓋を切るカードを持ってしまっていたのだが、それに気づくのはまだ先の話。

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