バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

188話 縛りプレイ

 迷宮でレベリングに励む者達。
 集団戦の連携を密にしようと頑張る者達。
 身体能力向上を目指してひたすらトレーニングに励む者達。
 誰もが来たるべき決戦に備えてできる事を全てやっておこうとしていた。シャオロンと共に落ち延びて来た兵や有志の市民たちも、祖国解放を我が手で成し遂げんと訓練に精を出す。

 そしてあたし達は、迷宮最下層で邪龍狩りをしていた。パーティ戦闘では、もはや邪龍と言えども危なげなく倒す事ができる。だけどそれではあたし達自身の更なる向上は見込めない。そこであたし達がやっているのは『縛りプレイ』だ。えっと、特殊な趣味の人がするあだるてぃなアレではないのよ?

「ちぃっ! かってえな、畜生が!」

 例えば今レン君が戦っているんだけど、レン君は得意とする魔法剣を封印して邪龍を倒そうとしているの。そう、得意技やスキルを使用しないなどの条件を課して、邪龍を倒す。それが縛りプレイ。
 剣術で邪龍を倒そうとしているレン君だけど、邪龍の固い鱗に阻まれて、なかなか有効なダメージを与えられないでいる。
 刃をガードする邪龍の鱗は、鈍い金属音を響かせてレン君の斬撃を退けていた。存在そのものが戦闘向きじゃないヒメは、終始サポート役に回ってもらっている。
 それ以外の三人と一匹は見学だ。だってそれがレン君が自分に課した縛りなのよ。それだけじゃなくて魔法剣まで封印するって言うんだからレン君もドМよね。

「レン君がこんなにもマゾ体質だったとは驚きだね」
「ほんと。ドМだねえ」
《お二人とも、それはちょっと違うのでは……》

 メッサーさんとお姉ちゃんは、自分がやるのはまっぴらごめんだと言わんばかりの表情でレン君をドМ呼ばわりしているけど、アイギスだけはそれを嗜めた。さすが、あたし達の良心。でもね、あたしにはちょっとだけ分かるんだ。

「ほらほら、押されてるよーっ!? 手伝ってあげようかー?」
「うるせえ! こんなもんまだまだ余裕だっつーの! 俺がこの手で魔王をブッ飛ばしてやるんだからよ! こんなトカゲもどきに苦戦するわきゃねーだろがっ!」

 そう言い放ったレン君は邪龍の右フックを掻い潜り、顎を逆袈裟に打ち上げた。そしてのけぞった邪龍の腹の下へと刃を立てたまま滑り込む。数少ない邪龍の柔らかい部分はそのお腹。見事に邪龍の腹を切り裂く事に成功したね。すごいよ、レン君。
 つまりね、レン君は魔王を倒す事が勇者として召喚された、自分の責務だと感じているんじゃないのかなって思うの。
 あたしの中にも異界の勇者の血が流れているからかな。その気持ちが分かる。それとも、魔王さえいなければ自分はこんな異界に呼び出される事はなかった。そんな恨みもあるかもね。

「へっへ、どうだ。倒したぜ……っとと!」

 精根尽き果てたような顔でレン君が戻ってきた。何て言うかね、無傷なのにボロボロ? 足がもつれたレン君をヒメが慌てて支える。ばくはつしたらいいわ。

「でも、ヒメのバフが無かったらヤバかったぜ」
「そんな……レンに何かあったらと思うと……ごめんなさい。勝手に支援魔法など掛けてしまって」
「何言ってんだよ。感謝してるって」

 ホント、ばくはつしないかしら。

「おおーい、シルト! お肉収納して帰るよー?」

 もうね、連日にわたって邪龍狩りしてるんだけど、邪龍がもうお肉扱いなのよ。この世界でも指折りの貴重な素材なのにお肉よお肉! さすがお姉ちゃんだわ。

「だってさ、みんなにドラ肉食わす為のヘビロテだろ? 実際肉を狩る狩猟みたいなモンだからなぁ」

 うっ……レン君の言う通りなんだけど……

「でもそれに飽きて縛りプレイを始めたのはレン君だけどねえ?」

 そう、狩猟を遊戯に昇華させたのはレン君なの。まあ、みんな面白がって乗ったんだけどね。
 因みにあたしの縛りはリセット使用不可、並びにマギ・ガン、ツイン・マギライフルの使用禁止。壮絶な殴り合いだったわね。レン君の言う通り、ヒメのバフが心強かったなぁ。

「何事も変化がないと面白くないっすから」
「ま、そりゃそうだよね。おかげでボクらもひとつ壁を乗り越えられた気がするし。そんな偉いレン君には、お姉さんがご褒美あげようか?」
「……ヒメの視線が痛いんでそういうのやめて下さい……」

 お姉ちゃん、ナイス!

*****

 お肉を回収したあたし達はギルドの訓練場へと向かう。魔王軍と戦う意思を示した者達の約束事として、迷宮に潜っている人達以外は夕食時はこの訓練場に集まる事。

 「はい!みんなちゅーもーく!今日も大量です!みんなで解体してみんなでおいしく頂きましょう!」

 《おおおーーー!》

 そう、ドラ肉をはじめとした低階層の希少な魔物の肉をみんなで食べる。冒険者も、軍人も、騎士も。いざという時に武器を手に取り戦う覚悟がある者なら八百屋のおばちゃんだって構わない。身分や職種、出身地。あるいは種族。そういう垣根を取り払って連帯感を深めるのが狙いね。その為にあたし達は連日邪龍狩りをしているの。

「その、本当に僕達もいいのかな……」
「……あんたも魔王と戦うんでしょ。迷宮で覚悟は見せてもらったわ。遠慮しないで食べなさい。立派な眉毛のくせにオドオドするんじゃないのよ」
「……眉毛は関係ないだろ! でも、有難く頂くよ。そして強くなってみせる!」

 シャオロンも例外じゃない。こいつはこいつで必死に強くなろうとしてたし。それにね、もう王国だの帝国だのエルフだのなんて言ってる場合じゃ無くなってきたのよ。つい数日前にミハエル様からアインさんに手紙が届いてね。

「シルト。王都に放っていた父上の斥候が情報を持ち帰ったようだ。手紙の内容によれば……」

 魔王軍とシェンカー領軍が戦端を開いた後、疲弊した所を狙ってリマール侯爵が攻めて来る。そういう密談が交わされていた。そしてあわよくば、帝国の領地まで切り取るつもりだと。そんな火事場泥棒を許す訳にはいかないでしょ? だからあたし達は強くなる。圧倒的にね!

しおり