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御子柴のヤキモチ勉強会⑲



「ッ、コウ・・・!」
その声に気付いた未来は、相手にやられながらもコウの方へ目をやり苦しそうに名を呼んだ。
「コウ、俺は何をしたら」
未来たちとの距離が近付き、御子紫はコウにそう尋ねる。
「御子紫は未来と悠斗を頼んだ。 俺は不良を相手にする」
「・・・分かった」
本当は体調不良であるコウに喧嘩をさせたくはないのだが、今の彼には何を言っても無駄だろうと思い、素直に言うことを受け入れた。
そしてたくさんの不良を掻き分け、未来たちのいる真ん中まで足を進める。 
御子紫もそんなコウを見失わないよう必死に付いていき、二人の目の前で彼らを守るようその場に立った。
その行為により未来たちには手を出せなくなった不良たちを一通り見渡すと、コウは自分がやられる前に相手に向かって自ら飛びかかる。

「コウ・・・」

仲間が不良たちを無力化している間、少し離れたところでは優と北野がその喧嘩を静かに見据えていた。 
優も当然コウには無理をさせたくないため止めに入ろうとするが、彼から“今は近付くな”という強いオーラを感じ取ったのか、その場から動けずにいる。
「二人共、大丈夫か?」
「あぁ・・・」
コウが不良たちを相手にし優たちも黙って見守る中、彼らを助けるよう言われた御子紫は未来たちの無事を確認した。
“体調が悪いのに喧嘩なんてしていいのか?”という複雑な表情を見せる未来と悠斗に、強めに問う。
「二人はどうしてコイツらなんかに負けていたんだ! この人数なら、ギリ勝てるはずだろ!」
1人5人を相手にしたら、少しでも勝つ希望は見えていた。 今コウが1人で10人を相手にしている方が心配をしないといけないが、御子紫はコウを信じ二人にそう尋ねる。
その問いに対して、未来は目の前で凄まじい喧嘩を繰り広げている彼らを釘づけとなったような目で見ながら、静かな口調で言葉を紡いでいった。
「俺たちよりも体格のいい男が、凄い力で押さえ付けてきて・・・。 そして身動きが取れなくなったら、一斉に襲いかかってきたんだ・・・」
御子紫の問いにはきちんと答えているが、未来の意識は集団の方へ向いたまま。 
コウの喧嘩はとても見応えのあるもので、とても素早くとてもカッコ良く、同じ男である未来たちも彼に憧れ釘づけとなっている。

そして、コウが10人の不良を相手にして数分後――――彼は不良ら全員を、全て無力化した。
「・・・すげぇ」
今もなお、未来は興奮した目で彼らのことを見つめている。 
だが――――コウが全員を無力化し終え、数秒間呼吸を整えると――――一気に未来たちのいる後ろへ振り返り、突如怒鳴り声を上げた。
「未来! 悠斗! 二人は何度言ったら分かるんだ!」
「・・・え」
今憧れていた人物が急に目の前で怒り出し、未来は夢の中から一瞬にして現実へと引き戻される。
「ユイの許可を貰わずに喧嘩はするなって、あれ程言ってあっただろ!」
「でも・・・止むを得ない場合はいいって」
滅多に感情的にならないコウを目の前にし、未来はおどおどとした口調で言葉を返した。 その発言に対し、コウも自分の思いを放していく。
「そうは言っても、二人は止むを得ない場合が多過ぎだ!」
「コウ・・・?」
またもや感情的になっているコウを見て、御子紫は心配そうな表情で彼を見つめた。
「わざわざ暴力を使わなくても、警察さえ呼べば解決できるだろ!」
そう言うと、未来も今の状況にやっと慣れたのか、当然のように反抗してくる。
「警察を呼んでいる時間が勿体ねぇ! その間に被害者が出たらどうすんだよ! だったら早く人を助けて、相手を無力化した方が絶対にいいじゃんか!」
「今コイツらを無力化できていなかっただろ!」
「ッ・・・」
その発言を聞いて返事に詰まってしまうと、コウは落ち着いた口調に戻し続けて言葉を放した。
「未来と悠斗は、今俺たちがここへ来ていなかったら確実に負けていた。 もし俺たちがここへ来なかったら、二人はどうしていたんだよ」
「・・・どうしたんだよ、コウ」
いつもとは違った仲間に戸惑いながらも未来はそう口にするが、コウの苛立ちは治まらない。

「とにかく未来は、人にすぐ手を出す癖を直せ。 “人を助けたい”っていう気持ちがあるだけで十分だ。 それに同じチームメイトなんだから、チームのルールはしっかりと守れ」

「・・・」
そう注意された未来は、不機嫌そうにコウから顔をそらした。 そんな彼を見据えた後、続けて悠斗に向かって口を開く。
「悠斗。 悠斗は未来を止めようとしなかったのか?」
「・・・ごめん」
「どうして止めようとしなかった!」
「・・・」
その問いに悠斗が小さな声で謝ると、コウはまたもや怒り出した。 だがその声を聞いて、そっぽを向いていた未来がこちらへ振り向き口を挟む。
「ちょ、待てよ。 確かに悠斗は俺が喧嘩するのを止めようとした。 だから悠斗は悪くねぇ」
「でも未来と一緒に手を出したのは事実なんだろ!」
「ッ・・・」
その返された言葉にも何も言えなくなった未来はコウを睨み付けると、また不機嫌そうにそっぽを向いた。 そしてコウは、視線を悠斗へ戻し自分の思いを綴り出す。

「悠斗。 悠斗は自分の意志をしっかりと持っているんだ。 その面については、俺だって尊敬している。 だから、もっと最後まで自分の意志を貫き通せ。
 俺にはそういうことができないから、そこは俺の分まで頑張ってほしい。 ・・・未来が一番指示に従うのは、ユイではなくて悠斗なんだから」

「・・・」
その言葉を聞いて、悠斗はコウを見ながらしっかりと頷いた。 それを見たコウは、最後に二人に向かって自分の思いを吐き出す。

「それに、二人は俺たちに迷惑をかけ過ぎだ。 確かに俺もみんなには迷惑をかけているけど、もしかけるくらいなら俺みたいに全部自分一人で抱え込め。
 それができないなら、俺たちに迷惑をかけるな。 ・・・二人が思っている以上に、俺たちは未来と悠斗のことを、心配しているんだから」

真剣な眼差しで、コウがそう思いを伝え終えると――――
「・・・ごめん。 分かったよ」
悠斗はその発言を素直に受け入れ、そう口にした。 彼からの返事を聞くと、コウは未来を見据え口を開く。
「未来は?」
「・・・ったく。 分かったよ」
どこか不機嫌そうな顔をして今もなおそっぽを向いているが、未来も渋々そう口にした。 彼からそのような返事が聞けて、コウは一瞬にして緊張が解ける。
「でも、本当によかったよ。 二人が、無事、で・・・」
「ッ、コウ!」
優しい表情でそう発言していると、緊張が突然解れたためか少しよろけて倒れそうになった。 そんなコウを、御子紫が慌てて支えに入る。
「大丈夫か?」
「うん、悪いな」
「コウ! どうして・・・そんな無茶を」
倒れそうになったところを見て、優は急いで近付いてきた。 そんな彼に向かって、コウは苦笑しながら言葉を返す。
「あぁ、確かに無茶をしちまったな。 でも、俺はスッキリしたよ」
「え・・・?」
不思議そうな表情で優が見つめていると、御子紫はコウに向かって口を開いた。
「コウ、病院へ戻るか?」
その言葉を聞いた彼は、軽く離れ自力でその場に立ち歩き始める。
「いや、病院には戻らない。 というより、これから出かけようか」
「え? 出かけるってどこへ」
コウは先程投げ捨てた自分のスクールバッグを拾い、御子紫の方へ振り返って笑顔になった。
「御子紫も、来るだろ?」
「ッ・・・。 も、もちろん! あ・・・でも、勉強は?」
「勉強はしねぇよ。 今はしたい気分じゃねぇし」
苦笑しながらそう答えると、この場から歩き出してしまった。 それ追いかけるよう、御子紫も慌てて彼の後ろを付いていく。
「え・・・。 ちょ、コウ待ってよ!」
「あ・・・」
優が二人の行動に驚きながらも呼び止めると、コウは何かを思い出したかのようにその場に足を止めた。
「・・・俺としたことが。 優のことを、忘れていたなんてな」
そう呟いて自虐的に笑うと、ポケットの中から家の鍵を取り出し、優に向かって放り投げる。 そんな突然な行動にも驚くが、彼はそれを見事にキャッチした。
そして優が鍵を手にしたことを確認すると、コウは彼に向かって笑いかけながら大きな声で言葉を発する。

「優! もし家にいてくれたら、俺は必ず優のもとへ戻るよ」

「え・・・?」

それでもなおも混乱している優をよそに、コウは再び身体を進行方向へ向け、御子紫に向かって口を開いた。
「じゃあ行こうか。 今から二人で、遊びに行こう」
そう言って――――コウは立川の街を、歩き出す。


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