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6話

「お、おおおぉぉぉぉぉ………」
昨日のクエストのお金から、リリーの借金を返した後の全額で俺たちは皆の家を買おうとしていた。のだが、、、

「このお金だと、このくらいの家しかなくって…いや、町の迷惑モンスターであるゾンビナイトを倒していただいたのも考慮して割引はしているのですが…」

この世界の不動産屋さんが申し訳なさそうに見せたその家は、木造のボロボロになった家だった。

緋色の髪をポニーテールに結んだ貧乏神が言う。
「えっと、皆、ごめんね?」
俺たちは無言で立ちすくんでいた。


遡ること半日、ゾンビナイトの奇跡的な討伐により酒場は大盛り上がりになっていた。ガブとミシェルも例外ではなく飲み明かすと行って酒場に残っていた。

1人でのんびりと宿に帰りながら、宿暮らしも今日で最後かな、やっとゆっくり出きるのかな?と思っていた。
その時にふと思った。
そういえば、俺たちのお金は誰が持ってるんだろう…。そして、リリーは何処へ行ったんだろう。

翌朝、酒場に行くとガブとミシェルと
なぜか土下座しているリリーがいた。やめてくれ。まさかとは思うがやめてくれ…まさかギャンブル…

ガブが俺に気づいた。
「ミツルさん!聞いてください!リリーが賭博で3000万失って帰ってきました!許せません!!」
あぁ、もういっそ天使らしく天罰でも与えてくれよ。

ガブの隣でミシェルは、結婚がぁと泣いていて喧しい。
いや、あのお金は家のために使ってくれるって言ってたじゃないか。結婚は関係ないだろう。

そうすると、リリーは俺に向かって顔をあげてぬけぬけと言いはなった。
「ミツル!私だって悪気があった訳じゃないんだよ!やっちまったもんは仕方ないし、家なら残った金で探そう!それにまたクエストに行けば金も貯まるさ!」

お前が言うな。
残った金で住める家なんてないだろうし、金が入ってもどうせすぐにお前が使うじゃないか。この貧乏神が。

俺は言いたいことは色々あったのだが、話す気力もわかないので黙って頷いた。

するとリリーは満面の笑みで
「お前は天使だ!よし!そうとなったら家を探しに行くぞ!」
「少しは反省してください!あと、今後はすぐに各自に財産を分けてしまいますからね!」

俺は天使ではない。天使なのはそこでお前に怒り狂っている金髪の女だ。
それにしてもガブがなぜここまで。ミシェルがお金のことで必死になるのはわかるが、この天使はどれだけ金にがめついんだろう。

そうして、物件を見に来たわけだが、やはり良い家はない。無理もない。4人ですむ家を1500万で出せというのは最早盗賊のようなものだ。

事情をガブに説明してもらった店主は、町のヒーローだからということで、条件付きで4人にそれぞれの部屋とリビングまである家を紹介してくれることになった。


そうして、案内されたのが、平屋の木造の建物。町から少し遠くにあり、手入れもされていないせいか衛生面から見てボロボロになっている。

「こちらの家の清掃と補修をしてくださるのであれば、喜んで1500万ハンスでお譲り致します。残念ながら、他にはありません。」
店主もそうとう苦しそうだ。

ガブは放心状態のミシェルの肩にそっと手を置く。リリーは居たたまれなさそうだ。なんだこの空間は地獄か。

俺は現状を脱したかったので、黙って店主に頷き、契約書にサインをした。
そう、ここが俺たちの冒険の拠点となるのだ。


「リリー!あなたには皆以上に清掃に取り組んでもらうわ!覚悟しなさい!」
やっとミシェルが人の言葉を話せるくらいに回復した。さっきまでは何かあれば、結婚としか話さないおもちゃだったのに。

俺たちはまず自分達の部屋の割り振りを決めて、自身の部屋を清掃することになった。ガブは俺の手伝いをしに来てくれるらしい。ここでも迷惑をかけて申し訳ない。ますます自分が嫌になる。

俺は自分の部屋の掃除をしてみるも、少し埃を叩いてはぼぉっとしてしまっていた。
「ミツルさん。大丈夫ですか?手伝いにきましたよ。」

ガブが部屋に来てくれた。
「なんか、最近まともに天使っぽくなってきたよな。」
「私はもともと天使ですから!ミツルさんの治療のためにこの世界に連れてきたんですからね!もう。それにしても、リリーはひどいです。せっかくミツルさんのために少しでも落ち着ける家にしたかったのに。」

連れてくるにしても、もう少し安全な世界が良かったのだが。
でも、そうか、ガブはそれで怒っていたのか。
ガブが俺のために怒ってくれていたと思うと、余計に自分が情けなくなる。

俺はふとガブに面倒なことを言ってしまった。
「俺、この世界に来てから余計にダメな気がする。戦闘では役に立たないし、皆との酒もろくに付き合わない。今だって、こうして掃除をガブにしてもらっている。」

あぁ、言葉にすればきりがない。日頃募っていたどうしようもない無力感が俺を襲っていた。これも鬱のせいなのか。

そんなどうしようもない俺にガブはせっせと掃除をしながら、背中越しに言う。

「そんなことないですよ。戦闘ではミツルさんの作戦のお陰でこうして今があるわけですし。むしろ、ミツルさんがいなきゃ鬼小僧に皆やられておしまいです。掃除も。ほら!ミツルさんが埃を叩いていてくれたお陰で、あとは簡単な木材の補強だけでした!あとは、布団とかを運び入れてくれればオーケーですね!それじゃあ、晩御飯買ってきます!」

俺は黙ってガブを見送った。行ってらっしゃいを言おうとしたが、声を出したら泣いていることがばれてしまうので、黙ったままでいたのだ。


さて、夕飯の時間になった。ガブが買ってきた最低限の食材と調理器具を使い、食事をミシェルが作ってくれる。

そこへ、へらへらしたリリーが来た。まぁた、いらんこと言うぞこいつ。

「ミシェルは料理も出来るんだな!なんか、結婚に必死な感じがますます伝わるな!」
ミシェルは黙っているが、猛烈な殺気を感じる。リリー。お前は殺されたいのか。

「今度は1人で夜の技も磨いてたりして…おい、やめろミシェル!包丁はだめだ、包丁は!悪かった!少しだけ黙るから!」

ミシェルは無言でリリーに包丁を突きつけている。
「大丈夫よ。怪我してもガブがヒールをしてくれるわ。」
「ちょっと、二人とも落ち着いて!こんなことのために魔力を使わせないで下さい!」

ガブが仲裁をして事なきを得た。リリーは今日の朝の申し訳なさをどこに置いてきたのだか。

ミシェルの料理が完成し、皆で料理を食べた。
「お、うまいなミシェル!私と結婚しようか!」
「いやよ。あなた女でしょ。とうとうそんなことまで忘れたの?それでも良かった。他の二人はどうかしら?」

俺もガブも口を揃えて美味しいと答えた。いや、たしかになかなかな出来なんだろう。正直、俺は何を食べても味を感じれないのでわからない。でも、周りを見る限りではきっと美味しいのだ。

俺たちは食事を済ませ、順番に入浴をして次の日に備えるとした。

途中、ガブがリリーに下着を隠されたのなんのと騒いでいたが、俺はガブが買っておいてくれた布団を部屋に運び入れて、そこでくるまっていた。

そんなこんなで1日が終わる。明日からまたクエストにいかないとお金がないな。嫌だな…?
なんだ、誰かいる。

「なぁ、ミツル。ギャンブルで負けた分、体で払ってやろうか?」

そういうとリリーは下着姿で俺の布団に近づいてきた。なんなんだこの展開は。

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