バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

5話

昨日はよほど疲れていたというのもあって珍しく眠れた。今日は頑張れそうだ。
ガブはいそいそと準備をしている。そういえば、今日は13:00に酒場だったよな。俺もゆっくりとでも準備をすると、ガブと共に酒場に出発した。

酒場に着くとそこにはリリーと、そしてミシェルが既に席に座っていた。ミシェルの横に置いてある大きな盾は踊り子には似合わないが、きっとミシェルのものだろう。

「お早うございます!一晩考えて、私もパーティーに入れてもらおうと考えました。リーダーのミツルさん、よろしくお願いいたします!」
「あ、あぁ、よろしく。」

リーダーってまだ俺だったのか。俺はミシェルと握手をしてから、気になっていたことを聞いた。

「ところで、踊り子って戦闘では何が出来るんだ?」
「お前、知らずに昨日踊り子って言ってたのかよ!」
リリーが突っ込んできた。そう、俺はなんとなくぼぉっとしながら踊り子と言っただけなのだ。

「いや、足止めが出来るってことはわかるが、具体的には?」
俺がそう聞くと、ミシェルが答える。
「主に相手モンスターを状態異常にする舞と注目の的になる魅惑の舞とを使います。ただ…」

もはや恒例となった、ただ…、の台詞に俺は欠陥を感じ取った。さて、今度はどんな欠陥なのだろう。

「若いときに使ってみたのですが、不思議と魅惑の舞が効いた試しがありません。私の魅惑の舞は周囲の人が激昂します。」

あかんやん。足止めできてない。 てか、このルックスの人が魅惑の舞で激昂されるって最早呪われているんじゃないのか?

「そ、そのかわり、混乱に陥らせる舞と眠らせる舞とが使えます!ただ、眠らせる舞は成功率が少しだけ低いです。まぁ、混乱の舞を使えば、一応は足止めは出来るかと!」

「なるほど。なら安心だ。改めてよろしく。」
俺とミシェルとの挨拶も無事に済んだところを見て、ガブが明るく言う。

「さて、挨拶も終わったことですし、早速クエストに行きましょう!」
「昨日と同じクエストにしよう。今日は一人辺り2万と考えて、4匹倒すぞ!」

リリーが即座に返す。なるほど、昨日の作戦が通用するのかを試したいらしい。

特に反対する理由もないので、1匹2万ハンスの鬼小僧の討伐クエストに向かうことにした。

こうして、四人になって初めてのクエストに俺たちは向かったのである。


俺たち四人は、昨日えらい目にあったばかりの鬼小僧の巣の前に来ていた。昨日とは異なり、今日は10匹程度がうろついている。

相変わらず、俺たちは茂みの中でこそこそと隠れていた。

「ね、ねぇ。なんかもうちょっと冒険者っぽく堂々としないかしら?不意討ちってちょっと…」
「アホか、堂々といったら瞬殺されるぞ!」
「そうですよ!それに、こそこそといって、こっそり殺しちゃうなんて暗殺者みたいでかっこいいじゃないですか!」

冒険者らしいことをいうミシェルに、リリーとガブがツッコミを入れる。というか、ガブの発言は最早天使のそれではない。

俺はさっさとこんな場所からおさらばするために、作戦を伝え始めた。

「ミシェルの言いたいこともわかるが、俺たちにはまだ実力がない。まず、ミシェルが混乱の舞を踊ってくれ。その後に、昨日と同じようにリリーがダイスを離れたところから打つ。ミシェルの丁度反対側の茂みにいると良いかもな。俺とガブはこのままここに隠れている。ダイスが成功すればそれでおしまいだ。ダイスが失敗すると、全員が麻痺になる。だから、麻痺が解けたらガブはダメージを受けたやつの回復を頼む。これでどうかな…?」

3人は満足げに頷くとそれぞれ配置についた。

昨日から思っていたんだが、俺は一体なにをする係りなのだろうか。俺は作戦だけ伝えて、あとは来なくても良い気がしてきた。明日からそうしよう。

さて、作戦が始まる。ミシェルが離れた茂みから飛び出すと鬼小僧達はミシェルの方をじっと見ている。
「混乱の舞!」
ミシェルの妖しげな舞を見て、鬼小僧達は動きがおかしくなった。これは凄い。というか、どうやら真正面からでなければ混乱にはならないらし……真正面?

俺はすかさずリリーのいる茂みの方を見た。リリーが出てこない。あ、あの貧乏神やりやがったな。

「ミシェル!リリーがお前の舞で混乱した!俺とガブで対処してくるから舞を続けてくれ!」
「え、うそ!?わ、わかったわ。なるべく早くお願いね!」

ミシェルにそう伝えると、ガブと二人でリリーを見に行く。
リリーは目の前で、地面でのたうち回っていた。どんだけ効いてるんだ。鬼小僧より効果くらってんじゃねぇか。

近づいてみるとリリーはなにか言っている。
「よし、詠唱完了だ!私の呪いの魔法を食らえ!カー」
俺は慌ててリリーの口を塞いだ。危なかった。危うく誰か殺されるところだった。

ガブがリリーの混乱を解く魔法をかけ、リリーも落ち着きを取り戻した。次はミシェルの斜め前の辺りの茂みから攻撃を仕掛ける。

「よし、リリー。頼むぞ。」
「任された!ダイス!」
サイコロが出てきた。出た目は…
5!決まった。すると、鬼小僧の群れの真ん中に光が差して…
鬼小僧達は爆散した。おおぉ、ダイス凄いな。

ミシェルもこちらに満面の笑みでやって来た。クエスト成功だ。
「やったやった!これで今日だけで一人辺り5万ハンス…ね……」
ミシェルの顔が笑顔から青ざめたものに変わった。その場からこちらに近づこうとしない。やめてくれよ、そういうのはもう。

俺が振り返ると、そこには黒い鎧を身に纏った騎士がいた。
あ、これはほんとにだめだ。

ガブは足がすくんだのか、全く身動きがとれていない。俺と共にぼぉっとしていた。
リリーは少し…笑っている?少しだけ距離を取ってリリーは言った。

「ダイス!」
やってくれたなこの貧乏神め。


ダイスを唱えて出た目は
4だった。今日は付いているみたいだ。
その騎士に光が差し、そして爆発する。騎士の頭が吹き飛んだ。

と、次の瞬間、騎士は頭が吹き飛んだ状態で襲いかかってきた。なんだこいつ、モンスターならなんでもありか!

ガブはぼぉっとしている俺を引っ張って慌てて逃げる。逃げながら説明してくれた。

「あのモンスターはゾンビナイトといって、この街の辺りを取り仕切っているモンスターです!あのモンスターさえ倒せればこの街のクエストも少しは楽になるということで高額賞金がかかっています!」

なるほど、それであの貧乏神が反応したわけだ。納得がいった。ただ、そんなモンスター俺たちに倒せるわけがないだろう。幸い動きは遅いようで、俺たちは岩陰に隠れることに成功した。

リリーはニヤニヤしながら言ってくる。
「どうするリーダー!どうやって倒す?」
黙れ貧乏神。次にミシェルの方を見ると、ミシェルも
「まずは私が注意を引きましょうか。そこで、もう一度ダイスを…」
あかん、こいつも金の亡者、行き遅れアラサーだった。
ガブは成り行きに任せると言った感じでニコニコしてる。ずるいぞこの悪魔。

まぁ、ここで死んでも俺は構わないし、ここは戦ってみるか。相手はゾンビ。となると、あれしかないだろう。

「リリー、昨日の今日で言うのもなんだが、ここはカースを使おう。」
リリーが驚く。
「お前、失敗したら誰か死ぬんだぞ?」
「仕方ない。ダイスで全員が麻痺したらそれこそ今回は全員が殺されかねない。ガブさえ生きていれば蘇生魔法を使える。仮にガブが死んだら、少し高いけど復活の魔法をギルドにいるヒーラーにお願いしよう。」

なるほど、とリリーは言った。

そこにガブは待ったをかける。
「復活の魔法は死体が完全に硬直したら間に合いません。なので、私が死んだらその時点で逃げないと私が死んでしまいます。」

厄介だな、復活の魔法。まぁ、普通は死んだら生き返らない訳だし仕方ないか。
俺たちはそれを了解すると、リリーがゾンビナイトの前に飛び出し詠唱を始める。カースはダイスとは違い、詠唱が必要なようだ。

ゾンビナイトは剣を抜くとリリーを見つけるや否や、リリーに襲いかかる。リリーはカースを唱えた。

ゾンビナイトには何も起こっていない。失敗か?リリーは慌ててゾンビナイトから逃げ、距離を取った。
すると突然、ミシェルが紫色のベールに包まれ、悲鳴をあげた。

ガブは慌てて復活の魔法を唱え始める。俺はそんな姿をぼぉっと見ていた。こんな時も俺はなにも出来ないのか。リリーが詠唱を始める。ガブが死ぬまでやるつもりだ。ミシェルは目を開かないし、ガブは蘇生をしている。

「え!ミツルさん!」
俺はなにをしてるんだろう。次の瞬間、俺は自分でも驚いた行動を取っていた。

リリーを襲うゾンビナイトに俺は走っていった。ゾンビナイトも俺に気づいたようで剣を俺に向かって振り上げる。もうだめだ。振り上げられた剣が俺の頭にもう触れようとしていたその時だった。

「カース!」


ゾンビナイトの動きが止まり、目の前で紫色のベールに包まれ始めた。カースが成功した。俺はその場で立ちすくんでいると、ゾンビナイトは目の前で倒れた。

蘇生を終えたガブとミシェルが寄ってくる。蘇生に成功したようだ。よかった。
リリーがステータス帳を確認すると、顔がニヤつき始める。
彼女のステータス帳にはしっかりと、今日の日付に鬼小僧10匹とゾンビナイト1匹が記録されていたのだった。

こうして、かなり運が絡んだものではあるものの、俺たちの初めてのクエストは町のモンスターのボスを倒すという大金星をあげて幕を閉じたのである。


さて、俺たちは酒場に戻った。もうすっかり日も落ちて、酒場は相変わらず負傷者達の宴会場となっていた。

リリーは受付嬢に意気揚々とステータス帳を見せる。受付嬢は目を丸くしていた。
「嘘…まだ冒険をはじめて3日目のミツルさん達のパーティーがゾンビナイトを…!?まさか…ただいま報酬を用意しますので、少々お待ちくださいね!」

その瞬間酒場がしんとなる。全員が俺たちの方を見つめると、大歓声が巻き起こった。
「この町を苦しめていたゾンビナイトがくたばりやがったぞ!」
「これでここのクエストも少しは楽になる…やっとまともに稼げそうだ!」

俺たちはまるでヒーローかのような扱いを受けていた。なにこの感じ、悪くない…けど……俺はなにもしていない。

受付嬢が報酬を持ってくる。
「今回の報酬です!まずは鬼小僧の退治で20万ハンス。そして、ゾンビナイトの報酬で5000万ハンスです!」
5000万!?リリーもミシェルも満面の笑みになっている。これは驚いた。鬼小僧と合わせて1人辺り1255万か!

リリーはこれで見事に借金を完済した。そして、ガブはというと
「さて、ミツルさん!このお金で小さなおうちを買いましょう!」
それにミシェルが続く。
「なら、私のも使って皆で住める拠点を作りましょう!」

そうこうして、俺はようやく待望のゆったり生活をするための拠点を手に入れたのである。

しおり