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第65話

 撃ったのは隊長の男。だが、その銃口の先は澄人ではなく床。そして銃が握られた右手首は、ネイによって掴まれていた。

「「ネイ……!?」」

 今まで傍観していたネイが、なぜ急に?

 澄人とナオが唖然とした顔になっていると、隊長の男がネイに向かって怒鳴った。

「なんのつもりだ、ネイ!」
「柳原澄人様とそのアーティナル・レイスには、危害を加えないでくださいますよう、お願い致します。修理に影響が出ますので」

 隊長の男は、ネイの手を振り払おうとするが、ネイの手はまったく動かず離れない。

 すると近くにいた部下の一人が、ネイに近づいた。

「なら、お前が俺達の相手をしろよ」
「申し訳ありませんが、それは不可能でございます。私は柳原澄人様の監視を命令されております」
「岩崎の命令って言うのなら、後から言えば問題ねぇよ! いいから隊長の手を離して、俺達と――!」

 そう言い、部下の男がネイの肩に左手を置いた直後、その左手首がゴキンッという音を鳴らし、あらぬ方向に曲がった。

「う……うぁああああああああああああっ お、俺の手がぁああああーーーー!」
「申し訳ありません。命令を妨害する人間は、場合によっては排除しても良いと言われておりますので」

 ネイは、左手首を抑えながらうずくまる部下の男を尻目にすると、再び隊長の男に視線をやる。

「倉庫から出ていっていただけないでしょうか? もし断るというのであれば……柳原澄人様のアーティナル・レイスにもご協力いただいて、あなた方を排除させていただくことになります」

 男たちの顔色が変わった。

 ナオだけなら、その体躯と人数でなんとか抑え込めただろう。だが、ネイも含めてアーティナル・レイスの数が二人となり、しかも“排除”という行動をとられるとなれば、話は別だ。

 ここにいる男たちが持っている武器は、せいぜい拳銃とナイフ。そして人数は八人。その程度では、人間以上のパワーとスピードを備える、アーティナル・レイス二人を相手にして勝つことなど、到底できない。それにナオはともかく、おそらくネイは命を奪うことに躊躇はない。

 彼等は、いつ死ぬかわからない運命だと口にしていた。けれどそれは、死ぬことを恐れていないわけでは――死にたいからここにいるというわけではないのだ。

「……お前ら、いくぞ」
「ご理解いただき、ありがとうございます」

 隊長の男は、頭を下げるネイに背を向けると、部下達を連れて倉庫から出ていった。

「ありがとう、ネイ。助かったよ」

 澄人はほっとした息を吐くと、ネイに礼を言った。

「お礼は不要でございます。私は与えられている命令に従っただけですので」
「じゃあ、その命令を与えた岩崎司令に、感謝しないといけないね」
「その必要はありません。それよりも、柳原澄人様。今のトラブルで遅れが生じてしまいました。作業を再開していただきたいのですが」
「わかったよ」

 ネイに笑顔を見せながら、うなずく澄人。

 それを目にしたナオは、少々ムッとしてしまう。先に澄人のために行動したのは自分なのにという思いと、今まで自分に向けられていた笑顔が、今日会ったばかりのネイにも向けられたことが、彼女にとっては嫌だった。

「ナオも、ありがとう」
「いいえ」

 ナオはツンとした態度をとり、澄人と顔を合わせない。その頬は、無意識に膨らんでいた。

「えっと……どうかした?」
「なんでもありません。作業を再開しましょう」
「(もしかして、ネイに先にお礼言ったから……?)」

 澄人が脳内音声|《ブレイン・シグナル・ボイス》で聞いてきたが、ナオは答えず、そっぽを向いたままだ。

「(ごめん。でも、これには理由があって……)」
「(私には、ただネイと仲良くなりたいようにしか、見えませんでした)」
「(そりゃ、ちょっとは思っていたけど……)」
「(やっぱり思っていたんですね! 姉さんという恋人がいて、私が側にいるというのに――!!)」
「(そ、そういう意味で言ったんじゃないよ! ただ単に、仲良くなることができたら、ここの状況とか、もっと詳しく話してくれるんじゃないかと思ったからだよ。あと……ちょっと気になったことがあったから)」
「(気になったこと?)」
「(……ネイに命令を与えている、人物についてだよ)」

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