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182話 魔王軍の強さを知るには

 なんだか分からないけど、しおらしくなったシャオロンがあたし達の求めに応じて話してくれた内容によれば、魔王は帝都の宮殿から出現したそうだ。

「有り得る事ではあるな。重要なものを封印したり保護したり、又は隠蔽する為に国家として最も重要なものをその地に建てる。その役を負うのが皇族ともなればむしろ当然とも言える」

 ミハエル様が重々しくそう語ると、それに応えてヒメが言った。

「確かに、勇者召喚の魔法陣は王城の中心にある宮殿の地下にありましたが……魔王が封印されている場所など、私は全く知らないのですが……」
「まあ、封印が解かれるにしても何かトリガーがあったんだろう。でもそれを今考えても仕方がないよ。現に魔王は現れちまったんだ。魔王が帝都で大人しくしている保証もないし、早急に片を付けるべきだろうな」

 ヒメが申し訳無さそうに言うけど、レン君の言う通りだと思うのよ。
 でも気に掛かるのは魔王以外の敵の事。魔王は強い。それは過去に国家単位で抗っても歯が立たず、異界の勇者を召喚するという手段を取らざるを得なかった事から推して知るべし。
 その魔王が、さらに『魔王軍』とも言える眷属を引き連れているらしいのよね。そっちの方を守護者達(ガーディアンズ)に任せられるのかどうか。

「今までに見たことも無い異形のバケモノを多数引き連れている、か。高い身体能力、物理も魔法も強く、対物理、対魔法の耐性も高い。そんな連中が数百………」

 心底嫌そうな表情のアインさん。
 確かに物理も魔法も高レベルで強いのは厄介だ。で、そんな敵と事を構えるにあたって、例えば迷宮の魔物と比べてどの程度強いのか、その強さの指標が欲しいのよね。
 その魔王軍の兵……魔人と呼称しましょうか。魔人一体の強さがオークキングレベルなら、こちらも被害は覚悟の上でどうにかできると思う。今の守護者達(ガーディアンズ)や騎士団なら、単独パーティで勝てるしね。
 でもそれが、ミノタウロスレベルの敵が数百もいるとなると、まともにぶつかっても被害ばかりが大きくなってしまう。
 そこであたしは考えました!

「シャオロン。あんた、適当にパーティ組んで迷宮に潜りなさい。引率のパーティは付けたげるから。あんたは魔人の強さを身を以て知っている証人みたいなものでしょ? だから迷宮の敵と比べてどうなのか、実際に戦闘してあたしに報告しなさい」

 途中から話題が自分に向けられてシャオロンが目を丸くしている。

「迷宮に?……と言うか、シルト、君は随分と発言力があるみたいだけど……」

 ああ、そっか。高ランクとは言え、ただの冒険者が貴族や騎士団長相手に対等に近い感じで接してるからね。

「こいつはな、いずれ迷宮の街が国になった時に女王になる予定なんだぜ? 今は迷宮守護の目的で設立された傭兵団の頭目だけどな」

 いや、レン君。女王の話、あたし承服してないから。できれば嫌なのよ?
 あ! ミハエル様はくつくつ笑ってるし、ヒメもアインさんもお腹抱えてピクピクしてる! ヒメは元々そういう血筋だからいいけどさ、あたしなんて父子家庭の町娘だったんだよ?

「……そうか。君は迷宮の支配者なのか。なあ、君の組織ではオークキングに勝てる者ばかりだと言っていたけど、迷宮に潜れば僕も強くなれるだろうか?」

 ん? なんかね、シャオロンの目が決意に満ちているんだけど……

「強くなりたいの? なぜ?」

 あたしの問いに暫く考えこんでいたシャオロンが口を開く。

「僕は……皇帝のつまらない野望の為に、望んでもいないこの世界に連れて来られた。どうせ戻れないのなら、皇帝のご機嫌を伺って面白おかしく暮らそうと思った。でも……魔王が現れた時、街の人が、兵士達が僕を頼って来るんだよ。僕は魔王の強さに恐怖した。早く逃げ出したかった。でも僕を頼って来る奴らがそれを許してくれない」

 拳を握りしめ、歯をガチガチ言わせながらシャオロンは必死になって話を続ける。

「兵士を纏めて住人達を逃がしたのは、そうしないと僕が逃げられなかったからさ。全く善意や使命なんてものじゃない。邪魔な奴らだとすら思ったよ。でもこの領地まで落ち延びてきた僕は、兵にも帝都の住民にも凄く感謝された。お前らの為にした事じゃない。そう言っても次々と僕の所へ群がって来て感謝の言葉を口にしていく」

 そこまで話すとシャオロンは感情を抑える事が出来なくなったようで、爆発するように叫んだ。

「僕は感謝されるような事は何もしちゃいない! 心が痛いんだよ! 僕みたいなクズが純粋に感謝とかされるとさあ! この痛みを消すにはどうすればいい!? 本物の勇者になるしかないじゃないか! だけど僕は弱かった! もっと強くならなきゃ魔王とは戦えない!」

 はぁ……シャオロンの魂の叫びってやつかしら。まあ、芯まで腐ってるとは思ってなかったけどね。帝都でレン君と一騎打ちした時から思ってたけど、妙に正々堂々とした感じだったし。

「迷宮は……帝都の温い訓練とは訳が違うわよ? 常に死と隣り合わせの厳しい場所。一瞬の油断が命取り。まあ、断ったとしても迷宮には放り込むけど。それから、強くなれるかって話だけど……」

 ああ……シャオロンの視線が期待に満ちている。そして周囲の視線は生温かい。何故に?

「おほん! 強くなれるわよ? それこそ爆発的に。ただある条件を満たす必要があるんだけどね」
「そ、その方法とは!?」

 ちょっ! 
 食い付きすぎ! 
 近い! 
 近い!! 
 眉毛太い!!

 ――ゴツン!

 物凄い勢いで至近距離まで寄って来て、襟首掴まれて揺らされちゃったら反射的に拳骨が出ちゃったわ。

「ちょっと落ち着いてよ! その方法は今は教えられない。教えて欲しければあたし達の信頼を得る事ね」
「信頼……」

 ちょっとの間シャオロンを見極めてみましょうか。視線でみんなに問うてみると、みんな頷いてくれた。

 

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