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175話 目に見える効果

 超回復ってレン君が言ってたっけ。
 身体を鍛えると身体能力が上がるのは、筋肉を苛めると筋肉がその苛めに負けない様に強くなろうとするからなんだって。そのしくみを超回復って言うらしい。
 苛めるっていうのはつまり鍛えるっていう事。過度に鍛えすぎると筋肉痛で動けなくなっちゃうけど、あたしはリセットでみんなを癒しながら、過酷な訓練を強いている。
 滅茶苦茶な訓練に加えて、反則技のリセットで強制的に疲労状態を無かった事に。更にドラ肉効果。通常の数か月分、いや、数年分の鍛錬と同等の効果をこの数日で叩き出すつもりだよ。まずは基礎的な身体能力を上げておかなきゃね。この後迷宮で行う実戦で死なせない為にも。

「みんな! 苦しいだろうけど頑張って! この辛い訓練を乗り越えた時、きっとみんなは窮地に陥っても諦めない精神力を手に入れる事が出来るから!」

 ピンチになって諦めたら戦場で待っている運命は『死』だけ。でも諦めなければチャンスはある。あたし達は帝国が相手だろうと王国が相手だろうと、多勢に無勢なのは分かり切っている。
 言ってみれば始まる前からピンチな訳よね? 数の暴力に抗うには個の力を高めるしかない。っていうか、あたしにはそれしか思い浮かばなかったのよね。

「ふむ、みんな目の光だけは失っていないようだな」
「うん、きっとみんな分かってるんだよ。ここにいる殆どの人はボク達の力を見知っているだけにね」
「シルトに従っときゃなんとかなる、そんな感じか?」

 メッサーさんとお姉ちゃんが戻って来た。イングおにいも一緒なのね。

「そんな他人を頼るという感じではないかな。あたし達を見て、自分も強くなれるんだっていう希望みたいな、そんな感じだよ」

 イングおにいの疑問にあたしはそう答える。もしかしたら、あたし達みたいな女の子が先頭に立って戦っているのを見て、もどかしい思いをしているのかも知れないし、この迷宮の街で大切なものを見つけたのかも知れない。とにかく、自分が強くなって戦うんだっていう意思が見える。

「そうか。ならいいんだ。俺達職人系のギルド構成員の総意をお前に伝えに来た。今後暫くは職人総出でお前らのサポートに回る。要望にはなるべく応えるから迷宮からいい素材持ってこい。その代わり、絶対に負けるんじゃねえぞ」

 そう言って、イングおにいはあたしの頭をくしゃりと撫でてくれた。まったく、いつまで経っても子供扱いするんだから。でも、嬉しいよ。イングおにいはこの先あたしがどうなったってきっと変わらない。もしあたしが王様になったら、そんな素敵なイングおにいに王様を譲ってあげよっと!

「大迷惑だバカヤロウ」

 あたし、口に出してないのに……

*****

『グモオォォォォッ!!』

 ミノタウロスが繰り出す巨大な戦斧の一撃。

「ちっ! しゃらくせえ!」

 バッジーナは大剣を頭上に構え、正面から大質量の戦斧を受け止める。一応補足しておくが普通の剣で受け切れるような攻撃ではない。
 受けた剣ごと真っ二つにされる程のミノタウロスの一撃なのだが、バッジーナのおっさんは見事に受け切ってみせた。

「オークキングの大剣じゃなかったら、今頃死んでたな、おっさん」
「うるせえ! 今話しかけんじゃねえ! 忙しいんだからよ!」

 パワレベの成果を確認する為に潜った迷宮。今は第五階層のボス、ミノタウロスと交戦中だ。シルトの指示で引率してきた俺とヒメだが、この階層に来るまで一切手出しはしていない。戦闘後に手傷を負った場合に限りヒメが回復魔法を掛けている程度だ。

「おっさんも器用なもんだな。さっき拾ったばっかの大剣、そこそこ使いこなしてるし」
「曲がりなりにも帝国軍の百人隊長を務めた方ですから、素養はあったのでしょう」

 俺はそんなバッジーナのおっさんの戦闘を、感心しながら見ていた。まあ、ヒメの言う通り、上に立つくらいだから、その辺の雑兵と一緒にしちゃいけなかったな。

「それにしてもパワレベとドラ肉の効果は凄いですね。フォートレスのメンバー以外でミノと対等に打ち合える人間がいるとは驚きです。1級冒険者クラスの実力ですよ」

 こうして話している間にもミノタウロスとバッジーナの攻防は続いているが、力任せのミノタウロスより技術と駆け引きに長けたバッジーナがやや押し気味だ。
 そんなバッジーナを驚愕の目で見ているセラフさんだが、彼女もさっきまでミノタウロスの取り巻きを一人で片付けてきたんだぞ。こちらも十分異常だろ。

「そういうセラフさんだって、ほぼ単独でオークキング倒したじゃないですか。しかも格闘戦で」

 第三階層でオークキングと対峙した際、一合目の打ち合いでバッジーナの剣が折れてしまった。よって、格闘術にたけたセラフさんが単独でオークキングに挑み、これを殴り殺したのだ。
 今バッジーナが使っているのがその時の戦利品の大剣である。

「うーん……なんかいつもよりプレッシャーを感じなかったし、動きも見切れたのでいけそうだとは思ったんですけどね。いけました」

 そのセラフさんの言葉を聞いて、ヒメが微笑む。

「どうやらレンの仮説も立証されたようですし、今回はこの階層でお開きにしましょうか。あちらの方も勝負が付きそうですし」

 押し気味に戦っていたバッジーナが与えていたダメージは、徐々にミノタウロスの体力と血を奪い、もう息も絶え絶え、立っているのもやっとという感じになっている。

「それなら私も『経験値』のお零れをいただいてきましょう」

 そう言って、セラフさんがミノタウロスへと向かって行く。数秒後、ミノタウロスの巨体は地響きをたてて大地に伏した。

「今度は守護者達(ガーディアンズ)全員の引率だな」

 ミノタウロスを倒し、ハイタッチをしているセラフさんとバッジーナのおっさんを見て俺は苦笑した。この調子でやっていけば、俺達以外にも邪龍を攻略できるヤツが現れるかもしれないな。

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