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御子柴のヤキモチ勉強会⑱



結人の発言を聞いて、二人は言葉が詰まり少しの間この場には沈黙が訪れる。 だがふと我に返り、何かを思い出した御子紫は慌てて会話を続けた。
「え、囲まれたって・・・。 どうして?」
動揺しながらもそう尋ねると、結人は少し呆れながら言葉を返す。

「未来と悠斗がこの病院へ向かっている途中、不良に囲まれている女子高生を発見して助けようとしたんだって。 
 それでソイツらに手を出したら、近くにいたグルの不良に見つかって、囲まれちまったんだと。 ったく、あれ程『命令なしで手を出すな』って言ったのにな」

“やれやれだぜ”といった表情を見せながら、そう言葉を綴っていった。 そして呆気に取られている御子紫とコウが目に入ると、結人は慌てて言葉を付け足していく。
「あぁ、このことは悠斗が隙を見て俺に連絡してきたんだよ。 俺たちだけが知っていてもあれだと思ったから、一応二人にも報告しておこうと思ってな」
あまりにも今の状況に危機感を感じていない結人を見て二人は違和感を抱くが、コウは未来たちについて問い続けた。
「二人は無事なのか?」
「まぁ、多分な」
「二人が囲まれた場所は」
「この病院の近くだよ。 ほら、正彩公園の近くにコンビニがあるだろ? その周辺らしい」
「なら俺が行く」
その答えを聞いたコウは、仲間を助けに行くために上半身を少しだけ起こす。 だがその行為を見た結人は、彼を止めるよう慌てて言い直した。
「あ、おい待てよ! お前らを未来たちのもとへ行かせるために、俺は報告しに来たんじゃない。 一応二人も現状は把握しておいた方がいいと思って」
「行ってくる」
結人の言葉を遮るよう、コウはそう言いながら上半身を起こし、ベッドから降りようとする。 
一方御子紫はどうしたらいいのか分からず、ずっと二人のやりとりを複雑な表情で見守ったまま。 本気で未来たちのもとへ行こうとしているコウに、結人は更に言葉を付け足した。
「だからコウ待てよ! 今仲間の二人を向かわせたし、もう既に間に合っているから」
それでもコウは止まらず、左腕に刺されている針を無理矢理引き抜く。
「ちょ、コウ何して!」
まだ点滴が終わっていないというのに、自ら針を抜いてしまったことに結人は焦りを覚えた。
「俺が二人を助けに行く」
そう言ってコウは自分のバッグを持ち、この病室から出ようとドアの方へ足を進める。 だがその行為を止めるよう、結人は彼の目の前に立ちはだかった。
「コウ戻れ! 今の自分の状態を考えろ!」
コウの前で足を開き両手も左右に広げたままそう口にするが、コウは結人のことを真剣な表情で見据え言葉を返す。
「俺は平気だ。 今は俺の体調よりも、これからやられる未来たちの方を優先すべきだ」
「いやだから」
「俺に喧嘩をする許可をくれ」
「なッ、無茶を言うな! 駄目に決まってんだろ!」
必死に彼を説得しようとするが――――コウは結人のことを鋭い目付きで見据えたまま、ある一言を放った。

「だったら俺、結黄賊を抜けるぞ」

「ッ・・・」

冗談では受け取れないその言葉を聞いて、結人は言い返すことができなくなってしまう。 その結果、渋々彼の言葉を受け入れ広げている両手を力なく下した。
「・・・分かったよ」
「ありがとう」
複雑そうな目でコウを見ながらそう言うと、彼は礼を言って二人の横を通り過ぎ、病室から走って出ていってしまう。 
そんな彼を追いかけるよう、御子紫も慌ててバッグを持ち病室のドアへと向かった。
「あ、ユイ! コウの点滴代は任せたぞ!」
「任せた、って・・・」
御子紫はそれだけを言い捨て、コウの後ろを追いかけていく。 そして一人この病室に取り残された結人は、小さく溜め息をついた。

「コウ・・・。 そりゃないぜ。 何でこうも、自分よりも他人を優先しちまうのかな」

溜め息交じりで独り言のようにそう小さく呟くと、後ろから聞き慣れた声が聞こえてくる。
「あれ、二人は仲直りしたんだな」
「仲直り?」
この病室へ来る前にコウたちとすれ違ったのか、真宮は後ろを振り向きながらそう口にした。 
それを聞いて結人は振り返り、彼が何のことを言っているのか分からず聞き返す。 
だがあまりにもキョトンとした表情でそう聞き返してきた結人を見て、真宮は素直に驚いた表情を見せた。
「ユイ・・・。 二人のこと、知らなかったのか?」
「え?」
「何つーか・・・。 ユイは、幸せ者だな」
“本当に何も知らないんだ”と思った真宮は、苦笑しながらそう言葉を放つ。
「え、二人は喧嘩でもしていたのか?」
その言葉を聞いて、彼はより苦笑をこぼし言葉を返した。
「いや、知らなくていいよ。 もうユイはそのままでいい」
「・・・?」
真宮はそう口にした後、再びコウたちが走り去っていった廊下を、優しい表情で見つめ小さく微笑んだ。


「コウ! 本当に大丈夫なのか?」
病室から抜け出した御子紫とコウは、病院を出て未来たちのいる場所へと向かう。 
「俺は大丈夫だよ」
「でも、点滴はまだ残り半分もあったのに」
走りながらそう口にすると、彼は御子紫の方を見て優しい表情で言葉を紡いだ。
「だから大丈夫だって。 それに、御子紫は俺に付いてきてくれると思ったから、俺は安心して病室から抜け出すことができたんだよ」
「え」
そう言われて御子紫は素直に嬉しく思うが、今は自分のことよりもコウのことを心配し出す。
「だけど、そこまでしなくても・・・。 他の奴らに任せた方がいいんじゃ」
心配そうな表情でそう口にすると――――彼は少し俯き、こう口にした。
「・・・今なら、言えると思ったんだ」
「言えるって、何を?」
そして顔を上げ、御子紫のことを優しい目で見据えながら続きの言葉を発する。

「俺の本当の気持ちだよ。 未来と悠斗に、向かってさ」

「ッ・・・」

御子紫がその言葉を聞いて何も言えなくなると、前方に見慣れた人影が見えてきた。 そんな彼らに気付いた御子紫は、コウに向かって口を開く。
「あ、二人がいる! 今未来たちのところへ向かってんのかな」
「・・・」
「北野! 優!」
前方で遅めに走っている北野と優を見つけると、御子紫は大きな声で彼らの名を呼んだ。 だがその様子を見て、コウは小さな声で言葉を吐き出す。
「俺は二人には構わず先へ行くぞ」
「え、どうして?」
御子紫の声により北野と優がこちらへ振り向くと、優は驚いた顔を見せ大きな声で言葉を返した。
「御子紫? と・・・コウ!?」
「・・・」
自分の名を呼ばれたコウは、少し複雑そうな表情を見せる。
「コウ、こんなところで何をしているの? 点滴は!?」
優は心配そうな表情でそう口にするが、彼は何も答えずに御子紫に向かって口を開いた。
「御子紫、急ぐぞ」
「え?」
そう言って、こちらへ身体を向けてゆっくりバックしながら進んでいる彼らを、コウと御子紫はあっさりと抜いていく。
「二人共、悪い!」
「えぇ!? ちょ、コウ! 御子紫!?」
御子紫は謝りながら二人を抜かした。 そしてコウが後ろを振り向くと、自分たちを追いかけてくるように優たちもこちらへ向かって走ってくる。
「優に止められると思ったからさ。 ・・・つか、後ろから付いてきているし。 御子紫、追い付かれる前に未来たちのもとへ急ぐぞ!」
それから二人はただ走ることだけに集中し、足を前へ前へと進めた。 

そしてやっと――――仲間である未来たちの姿を見つける。 
未来と悠斗は10人もの不良に囲まれており、暴力を振るわれていた。 そんな仲間を見つけるとコウは悔しそうに歯を食いしばるが、未来たちに向かって声を張り上げる。

「未来! 悠斗!」


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