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第62話

 ナオが04と呼んだ姉妹は、右腕と両脚が失われ、顔の右半分の皮膚が剥がれているというひどい状態になっていた。

「どうして、あなたがこんなところに……!」

 人工血液もほとんど流れ落ち、すっかり軽くなってしまった04の体を、ナオは思わず抱きかかえた。

「ワタシ……だけ、では……ありま、せん。他……にも……」

 ギギ……という異音を出しながら首を動かし、04が視線を向けた先には、

「06、09、11……13、18……25……29、30、32…………!!」

 ナオの姉妹兄弟である先行量産型が全部で十人、倉庫に転がされていた。

 悪い夢なら覚めてほしい。夢であってほしい。そう思うくらい、ナオにとっては悪夢のような光景だった。

「どうして先行量産型が、こんなに……」

 ナオが驚倒しそうになっていると、澄人も駆け寄ってきた。

「しけん、や……じっけんに、つかわ、れた、あと……この……基地に…………」
「試験や実験……? そういえば、ここに放置されている他のアーティナル・レイス達も、前に資料で見たことがある気が……」

 04の話を聞いて、澄人は改めて、倉庫内のアーティナル・レイス達を見た。

 H.MタイプとH.Wタイプのほとんどが、体に施術跡があったり、M.Lタイプはパーツの変更がされていたりしている。

「澄人、お願いです! みんなを……みんなを助けてください! お願いします……!!」

 澄人の服を掴み、ナオは涙を流しながら強く訴えた。

 通常、アーティナル・レイスは登録者であるマスターに、このような――感情的に願いごとをするのは、本来望ましくないことだ。しかし、同じ日に生み出され、共にはるのもとで学び時を過ごした姉妹兄弟達が、見るも無残な姿になっているのを目にして、彼女が冷静でいることなど、できるはずもなかった。

「柳原澄人様。岩崎司令からメッセージです。コンテナが運び終わったら、すぐに仕事にとりかかれとのことです」

 岩崎からの言葉を淡々と伝えてくるネイの目は、アーティナル・レイスを単なる機械のモノとしか見ていない、この基地にいる人間達の価値観を体現しているかのように、冷いものに見えた。

「……岩崎司令には、わかったと伝えてくれ」
「澄人!」

 今すぐに診てはくれないのかと、ナオは澄人の服を握る手に、さらに力を入れてしまう。

「ナオ。みんなを治すためには、どうしても機材が必要だ。コンテナが運び終わるまで、待ってから――」
「それでも! それでも……せめて診るくらい、できるじゃないですか! お願い……お願いですから……!!」
「ああ。だから、すぐに診るよ」
「……え?」

 すると澄人は、ナオの手に優しく触れた。

「こんな状態のアーティナル・レイス達を見て、僕が黙っていられるわけがないじゃないか。僕はここに、アーティナル・レイス達を治して救うためにきたんだから」
「澄人……!」
「どれだけ救えるかわからないけど、やれるだけのことはやってみる。とりあえず、まず全員の状態チェック。それから、体を洗ってあげて……あと、施術を行うスペースを確保するために、ここを片付けないといけないか。ナオ、手伝ってくれ」
「はい!!」
「ネイ。君もできれば手伝ってくれないか?」
「大変申し訳ありませんが、柳原澄人様の作業を手伝うことは、許可されておりません。私がここにいるのは、あくまでも柳原澄人様が怠ることなく、適切に作業を行うかを確認するためですので」

 それはつまり監視役ということであり、岩崎が澄人のことを微塵も信用していないことを意味していた。

「……ナオと二人でやるしかないか」

 澄人は腕まくりをすると、ナオと共に倉庫のアーティナル・レイスを診始めた。

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