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第58話

「澄人!」

 強く――考え直してほしいという思いを込めて、ナオは声をあげる。

 どう考えても、これは罠。

 実習生の中で評価点が最も低い者は、澄人以外にいない。そして、断ればナオを廃棄処分するという条件をつければ、澄人は必ず行くことを選ぶ。

「行くことがどれだけ危険か、わかっているはずです! 今からでも考え直してください!」

 ナオは強く訴えたが、澄人は静かに首を横に振る。

「澄人――!!」
「そこまでにしておけ、ナオ」

 荒山が口を大きく開けたナオを止めた。

「お前が発言することを、専務は許可していない。いい加減口を慎め」
「……はい」

 ナオが口を噤むと、木村は再び澄人に体を向ける。

「それでは二週間後、君には三ツ山島へ行ってもらう。詳細は後ほど、君のアーティナル・レイスに送る。話は以上だ」
「……失礼します」

 澄人とナオは退出していくと、木村は荒山の方を向いた。

「君の言う通り、切り捨てるにはあまりにも惜しい人間のようだな」
「では……」
「例のものを手配しておこう」
「ありがとうございます」
「礼を言われるほどのことではない。彼が戦闘地域へ行くことに、変わりはない。それに……これは恩人である君の頼みだ」

 木村は窓の外に視線を移す。

「ただ、私個人ができるのはここまでだ。これ以上は私だけでなく、君達の首も締めることになりかねん」
「はい……」

 荒山も窓から空を見る。澄人の生還を願うように……。

 その頃。廊下では、ナオの声が響いていた。

「どうして……どうして行くなんて言ったんですか!!」

 自分を廃棄処分にさせないために、澄人が行くことを選んだのはわかっていた。それでもナオは言わずにはいられなかった。

「行ったら、死ぬかもしれないんですよ? 万が一……死ぬようなことになったら、子供達はどうするんですか! それに……姉さんとも会えなくなってしまうんですよ……!!」
「……わかっているよ。だけど、僕が行かなかったら君は、廃棄処分にされてしまう。それを選ぶことなんてできない。もしその選択をしたら、僕は絶対に後悔する」
「それでも……それでも、私は……」

 澄人が死ぬかもしれないということを考えていると、ナオの目には自然と涙が溢れた。

「ありがとう、ナオ。だけど、行かないという選択をして、久重重工から去ることになったら、僕はもう二度と、アーティナル・レイスに関わる仕事には携われなくなると思うんだ。問題を起こした実習生なんて、どこも雇ってくれないだろうから。そうなったら、子供達は一生マイクロメモリの中で……はるの夢も、叶えることができなくなる。それに、君も失うことになる。それは僕にとって、死ぬよりも辛いことだと思うんだ」
「…………」

 ナオは澄人の気持ちが、わからないでもなかった。それでも、わかりましたとは言えるはずがなかった。

「大丈夫。まだ死ぬと決まったわけじゃないんだから。それに、死ぬつもりもないよ」
「……じゃあ、私も一緒に連れて行ってください! いえ、ダメだと言われても、着いていきますから!!」
「ナオ……」

 ちょうどその時、詳細についてのデータがナオに送られてきた。

「あっ、今送られてきた詳細にも書いてありますよ。私を同行させることも許可するって! 私が一緒なら、澄人の生存確率が上がります! いえ、生存どころかケガすらさせません!! ですから――!!」

 ナオは、ぐいっと顔を前に出して言った。

「わ……わかったよ。でも、ナオも自分の身をちゃんと守るって約束して」
「もちろん約束します。そうしなければ、澄人を守ることはできませんからね。それに将来、澄人と姉さん、子供達と一緒に暮らしたいですから」

 五人で暮らす……それが今のナオの夢――生きる意味になっていた。だからこそ、澄人を絶対に死なせてはならない。そう胸に誓うのだった。

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