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施錠

 その日から、部屋に鍵がかけられた。
 部屋から出れるのは、お勉強の時と食事の時。
 なぜ?ナゼナゼ?
 アレは見てはいけないモノだった?
 アレは聞いてはいけないコトだった?
 ……。
 大人しくしてればいい。
 何処かでシグナルが鳴る。
 解ってる。疑問に思っちゃいけない。
 何も知らなければいいのだと。

 カタンッ

 窓に鍵はなく簡単に開く。
 知らなければならない。
 知ってはいけない。
《お願い―》
 見渡しても人はいない。
 行かなければならない。
 行ってはいけない。
《ここへ》
 窓枠に足をかける。
 望まなければならない。
 望んではいけない。
《来ないで―――!!》

 そっと、そっと踏み出した一歩はとても重かった。

 ココは2階。
 壁にしがみつき、必死に下を見ないようにする。
 風が通り過ぎるたび、髪を揺らした。
 踏み外さないよう、慎重に歩を進める。
 手が微かに震えていた。
 隣の部屋には誰も居なかった。
 静かに足を部屋の中へと降ろした。
 誰も廊下に居ないのを確認して、そっと歩き出す。
 あの時の部屋に何かあるはず。

 やっと着いた部屋の前で深呼吸。
 そっと扉を開く。
 運良く、誰も居なかった。
 そして、一見怪しいモノもない。
 隠し部屋……?
 私はあたりを探った。
 机の引き出しを見て、次に本棚を見渡す。
 ふと、ライトのスイッチが一つ多いのに気がついた。
 これ?

 カチンッ

 小さな音の後、本棚がずれていく。
 やっぱり、あの時も此処へ。
 石造りの階段が地下へと続いていた。
 私はそこを足早に降りていく。
 誰とも行き違わないように願いながら。
 行き止まりの先に扉があった。
 誰も立ち入ることを拒むかのような重圧を感じる。
 思い切って私はその扉を開けた。

 医薬品の匂いが鼻をつく。
 大小さまざまなカプセルがそこにはあった。
 その中にはナニカ生物が入っている。
 これ……!?
 人…ちがう、胎児?ううん。それよりももっと小さいのも。
 ここって何なの??

 ゆっくりと進んだ一番奥に人が居た。
 透明なカプセルの中に女の人。
 そして、静かにその瞳が開かれる。
《とうとう、来てしまったのね》
 あの声だ。記憶を失った時の囁くような声。
《来て欲しくなかった》
 悲しげに私を見つめるその瞳。
 私は知っている。
 遠く遠く響くこの声を。

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