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158話 シルトの掌で踊る人々

「うおりゃ~!」
「そっちだ! 回り込め!」
「下がって! 弓撃つよ!」
「わぎゃああああ!」
「ちょっ!? きゃああ!」
「どうぇぇぇ!?」

 コボルトに切りかかった前衛が、鍔迫り合いから力負けして跳ね返される。後ずさった前衛の人がバランスを崩して、弓士の構えた弓の射線を塞いで弓士の人がパニックになる。
 あらぬ所で弓弦を緩めてしまったおかげで矢は味方の足元へと突き刺ささる。もうこうなるとコントよね。総崩れなんだけど笑えるわね~。ぷぷっ。

「あっぶねえなチクショー!」
「ごっ、ごめん!」
「もう一回だもう一回!」

 うん。気合と勢いは十分なのよね。でもこれはちょっと……へっぽこだわね。コボルトってかなり弱い部類だからね?

「まあ、急に成長する訳じゃない。今の所は実戦の怖さを覚えてもらうだけでいいんじゃないのかい?」
「それに、かなり痛い怪我をしても臆する事なく向かって行くあたり、見所が有ると思うよぉ?」
「そうだね。出会った頃のシルトを思い出すよ」
「あたし、あんなに酷かったですか?」

 メッサーさんとお姉ちゃんは頼もし気に見物してるけど、ルーキーの頃のあたしもあんなに情けなかったのかと思うと、二人の記憶を消し去りたくなるわね。

「いやいや、技量とか立ち回りとかそういう話じゃないよ。立ち向かう鋼の心、かな。彼等はヒメを守ろうと、強くなろうと望んでいる。シルトだって守るものの為に強くあろうとしたのは一緒だろう?」
「ああ、そういう方向で似てるって事ですか……」

 メッサーさんの話を聞いて、なるほどって思っちゃった。あたしは父さんのように、みんなを守りたかった。この人達はヒメを守りたい。

「俺らは滅茶苦茶強いシルトしか知らねえからさ、シルトにもそんな時代があったのかと思うと、なんだか安心するよな」
「そうですね。私にとってのヒーローはレンですが、レンにとってのヒーローはシルトですからね」

 ああ……あの時のレン君は、ヒメを守るためにオーガの群れに立ち向かい、瀕死重傷を負いながらも一歩も引く事はなかったもんね。確かにレン君はヒーローの素養はたっぷりだと思うわ。
 そしてそこに現れたあたし達がオーガを蹴散らし、レン君を『元通り』にし、さらにヒメをも『元通り』にした。
 自分ができなかった事をあっさりとやってしまったあたしは、確かにレン君にとってヒーローみたいな存在に――

 ――ん?

 ちょっと! こんな美少女をつかまえてヒーローってなにさ? そこはヒロインでしょうにっ!

「ちょ! バカ! そういう事は本人の前で言うもんじゃねえぇぇぇ!!」
「あらあら、うふふふ」

 はいはい。とっとと爆発して下さい。

「……にしても、歯がゆいです! ちょっと揉んで来ますね!」

 情けない戦いを続けている皆に、お手本を見せてあげるわ!

「下がっていなさい!」

 コボルトの前で隊形を立て直した訓練兵達の前に躍り出たあたしは、後方に下がるように指示を出す。

「でも一人じゃ!?」

 ふふふ。コボルトなんて何十匹いようが敵じゃないのよ。

「まあ、黙って見てなさい」

 武器がどうのこうの言われるのも嫌なので、敢えて不得手な剣を手に取る。といってもあたしが持ってる剣は短めのソードブレイカーだけなんだよね。まあ、斬る、突くはショートソードや短剣と同じようなもんでしょ。

「はっ! せっ!」

 一足飛びに間合いを詰めたあたしは、一匹をすれ違い様に腹を切り裂き、斬り掛かって来たもう一匹はアブソーバー改で剣を受けパリィを発動。後は隙だらけの胴へソードブレイカーを突き刺し、二匹目も仕留める。
 ここまでやれば、ヘイトはあたしに集中してる訳で、残った五匹があたしに殺到してくれる。そうなればもうあたしの土俵。

「す、すげえ……」
「たった一人で五匹を同時に相手取って圧倒してるだと……?」

 右からの攻撃はソードブレイカーでパリィ。そしてそこからシールドバッシュ。左から来る攻撃は盾でパリィ。そして剣で攻撃。
 時には左右同時パリィ。そんな時には仕方がないので蹴りとか。いくら相手が多くたって一度に掛かって来れるのは四人くらいまで。背後からの攻撃はドッジ・タンクの本領発揮で華麗に避ける。

 言葉で表せば単純な事。敵の攻撃は躱す、弾く、捌く。そして可能な限りカウンターを入れる。パリィのような戦闘スキルも織り交ぜてはいるけど、基本的には迷宮で何度も傷だらけになりながら身に付けたテクニックだ。

「……そうか。やっぱりあたしもおんなじだ! 傷だらけになって、次は怪我しない様にって頑張って、結果、今がある!」

 最後のコボルトを斬り倒して、あたしは後ろを振り返る。

「あたしも始めはみんなと同じだった! だからみんなだって頑張ればきっと強くなれる!」

 コボルト五匹を蹂躙したあたしの言葉は、この場にいる二百人全員の心を打った様だ。

「よおし! やるからにはスパルタでいくわよ! みんな付いて来れるかしら?」
《おおお!!》

 うふふ。やっぱり単純な人達ね。

 

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