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虚偽

 
「うわ~きれい」
 見上げれば紺色の闇。
 無数の光の粒。
 そして、まあるい月。
 何処までが地上で何処からが空だろう?
 地平線は遠く、闇色に染まっている。
 森が開けたところに小さな草原。
 私はそこにぺたんと座り込む。
 リィーグルも無言で隣に座った。
「ねえ、星ってどれくらいあるんですか?」
 私は空を見上げながら聞いてみた。
「さあな、数えてみるか?」
「ひとーつふたーつ・・・」
 隣でくすくすと笑い声がする。
「?なんですか?」
「数えられるわけ無いだろ」
 笑いを堪え様としてるようだが、それは無駄だった。
 クスクスとした笑いが大きくなる。
「ひどいです」
 私は頬を膨らませリィーグルを見る。
 リィーグルは相変わらず笑いが止まらない。
 また、空へと視線を戻す。
「そうですね。数えられるわけ無いですね。
 こんなにたくさんあるんですし」
 何となくつぶやいてみる。
「でも見つける事はできるだろ?」
 リンと響く声。
 さっきの笑い声とは違う真剣な声。
「え?」
「どんなにたくさんの星の中でもおまえが俺を探すなら
 ディメルという星を見つけるよ」
 遠く遠く見つめる視線。
 ちらりと見た顔はいつものふざけた調子じゃない。
 じっと私を・・・。
 違う。
 私を通してもっと遠くを見つめている。
「あの?」
「テリアって星は知ってる?」
 急にリィーグルが話題を変える。
「え??あっと、確かあの星です」
 私はそれにつられて、星を指差す。
「じゃあ、サスナ」
「あれですか?」
 次々と星の名前があがる。
 そして最後にリィーグルはこういった。
「さて、いくつの星を聞いた?」
「ええ??覚えてないですよ」
「だめだな~ディメルは」
 そう言って悪戯っぽく笑う。
「リィーグルの意地悪」
 夜空はシンと静まり返る。
 優しく風が吹く。
 髪が微かに揺れた。
 瞳をこすりながら、ぼやける星を必死に見つめる。
 一つ大きなあくびが出る。
「眠いのか?」
 夜空を見ながらリィーグルは尋ねる。
「まだ、大丈夫です」
 私は必死で光を見つめる。
 紺色の闇に赤・青・黄色。
 小さく輝く星たちを忘れないように。

 ザワッ

 一際強い風が靡く。
 風の中に声がある。
《ごめんなさい》
 響く響く、夜風の音。
 何処までも燐と冷たくて。
《どうか・・・・幸せに》
 静かに月が見つめている。
 爛々と微笑むかのように。
《たとえそれが》
 草木がサワサワと鳴った。
 記憶は不確かに道を示す。
 ゆらゆらと・・・
《偽りだとしても》
 ゆっくりと落ちゆく瞼にそれはとても心地よく。
 まるで子守唄のようで。

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