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154話 土壇場のファインプレイ

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……くそ。一体どうなっているんだ?」

 先日、宮殿に侵入してきた賊によって訓練兵達が連れ去られ、召喚魔法陣も破壊された。
 賊が何者か僕にはわからないけど、少なくともあの男は僕と同じ異界からの召喚者だ。正直、甘く見ていた。僕が奪ったスキルの一つに、対象の行動を支配するというものがあるんだけど、それが発動すれば逃がす事なんて有り得なかったはずなんだ。

「スキルが発動しない。『行動支配』だけじゃない。魔法スキルが全く発動しない」

 さっきから何度も試しているんだ。でもダメだった。幸いなのは、僕のユニークスキルである『ジークンドー』はちゃんと発動するって事。

「僕のもち肌に傷を付けたあの男だけは、必ず殺してやる。僕はドラゴ〇なんだ! デブゴ〇なんかじゃない!」

 そう言えば、賊が逃げる時にモーニングスターで目くらましをしてきた、盾を持ったあの娘、僕を見て何かつぶやいていたっけ。可愛い娘だったなぁ……

*****

「くちゅん! くちゅん! ひ~~~っくちゅんっ! ずびび~!」

 うお~、今なんか背筋がぞくぞくってなったわ~。

「おいおい、シルト。風邪かよ?」
「うん? ちょっと寒気がしたけど大丈夫! あたし、今まで一度も風邪ひいた事ないし!」

(まあ、シルトだからね)
(風邪一つひかないっていうのは比喩だと思っていたのですが……現実に有り得るんですね……)
(バカは風邪をひかないっていう通説に、これ以上ない信憑性が……ボクは信じる)

「ほら、これでも齧ってちょっと待ってろ」

 レン君がそう言いながら、魔法鞄からレモンを取り出し放ってよこす。それとは別にカップとレモン、それにあれははちみつかしら?

「すっぱ~~っ!」
「ははは。我慢しろ。今いいもの飲ませてやっから。ラーヴァさん、とびっきり美味いお湯、出してくれません?」
「ああ、いいよ?このカップにでいいかい?」

 お姉ちゃんが、火魔法と水魔法の併用で作り出したお湯をカップの中に生み出した。レン君はそれにレモンを絞ってはちみつを加えてかき混ぜる。

「ほら、これ飲んでみろよ?」
「うん、ありがと」

 ちびり、と一口飲んでみる。うわぁ……なんて優しい甘酸っぱさなんだろう。

「ほっ……美味しい」
「だろ?」
「うん。それに身体がとっても温まる。芯からホカホカしてくるよ」
「それは、風邪ひいた時に結構飲んだりしたんだ。レモンには風邪に強くなる栄養が入ってるんだよ」

 そうなんだ。レン君ったら、心配してくれたんだね。ありがと。でもね、そういう事するとね……

「レン! ずるいです! 私にもそれ作って下さい! そしてレンが味見したものを私に下さい!」

 ほらね。レン君大好きなお姫様が発作起こしちゃうから。

「あ~、レン君? 私にも貰えるかな?」
「ボクも飲みたいなぁ?」
《私は猫舌なのでぬるめでお願いします》
「アイギスも!?」

 あははは。黒豹もやっぱり猫舌なのね。

《創造主様も、妙なところでリアリティを出さなくてもいいと思うのです》

 確かにそうよねぇ。アイギスを生み出したオウカって子、生真面目なのかワザとボケているのか……一度会ってみたかったな。

 そう言えば、バタバタしていてみんなに言いそびれていた事があるんだ。この温かい飲み物で和んでいる今なら怒られないと思うんだ。

「あの~、ちょっとみんなに言いそびれてた事が有るんだけどぉ……」
「何だい、シルト?」
「えっと、実は、宮殿から逃げる時にシャオロンと目が合ったのね。その時つい、リセット発動させちゃって。多分シャオロンは、スキルとか自分が元々持ってたヤツしか使えなくなってるハズ」
「「「「えええっ!?」」」」

 あはは~、やっちゃったのよ。咄嗟に。 

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