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御子柴のヤキモチ勉強会⑫




日曜日 昼 北野の家


翌日、御子紫は朝食をコウの家で済ませ、各自勉強会を開いている北野の家と優の家へ向かった。 御子紫は自分の家には帰宅せず、今の荷物を持ったまま北野の家へ向かう。
着くと既に3人は到着しており、勉強会を開始していた。 御子紫も彼らに交ざり机の上に教科書やノートを広げるが、あまり集中ができない。
開始して二時間くらい経つが、コウがいないからなのか勉強がなかなかはかどらなかった。
「んー、やっぱりコウが作ったお菓子は美味いね! 御子紫、いいものを貰ってきたなー」
椎野はそう言いながら、コウ手作りのタルトを美味しそうに頬張っている。 その時御子紫は、勉強が手に付かないためその場に寝転がってあることを考えていた。
それは、昨日コウに言われたことだ。 自分はコウになりたいと思っていたが、彼はそれを否定した。 それでも御子紫は、諦める気にはなれない。
「昨日の勉強はどうだったー? ちゃんと教えてもらったか?」
「教えてもらったよ。 全ての教科、一通り終えることができた」
「マジで? それは凄いな。 よく一日でできるよ」
なおもタルトを食べ続けながら、椎野は御子紫と会話を続ける。 
本当はここで『一日で終わったのは、コウが効率よく勉強を教えてくれたからだよ』と言いたかったが、発言すること自体が面倒に感じ口を開くのを止めた。

そして椎野がタルトを食べ終え勉強を再開してから数分後、再び御子紫に向かって言葉を発する。
「御子紫ー」
「ん?」
「ここの問題解んねぇ。 教えて」
寝転がっている御子紫に助けを求めてくるが、起き上がることすらも面倒で他の奴に任せた。
「北野に聞けよ」
「今いない」
「じゃあ夜月」
“どうして頭のいいこの二人に聞かないのか”と内心思いつつも、返事をしていく。 すると椎野は、少し強めの口調でこう口にした。
「だからいないって。 二人はさっき、コンビニへ買い出しに行ったろ」
「・・・あぁ、そうだったな」
先刻二人が家から出て行ったことを思い出すと、渋々重たい身体を起こす。
「つか、どうして頭の悪い俺らを残したんだよ」
「二人のことだから、俺たちに気遣って勉強する時間を少しでも与えてくれたんだろ」
「・・・」
あまり納得したくない答えだが、面倒になりながらも椎野が今解いている問題を見た。
「あぁ、ここ解るか?」
自分のノートを覗き込んできた御子紫に、彼は見やすいように移動させてくれる。

―――・・・よりによって数学かよ。

自分の苦手な数学を聞かれ一瞬戸惑うが、昨日コウに教えてもらった手順を思い出しながら自分のノートに問題を解いていく。
「・・・こうだろ」
時間をかけ何とか解き終えた答えを見せると、彼は驚いた表情を素直に見せた。
「あれ、正解」
「なッ、解ってんなら聞くなよ!」
「答えは解っていても、解き方が解らなかったんだよ。 そのやり方見せて」
そう言って椎野は御子紫のノートを手に取り、やり方を書き写していく。 
そんな彼を見て“自分の役目は終えた”と思い再び寝転がろうとするが、それを阻止するかのように椎野が口を開いた。
「てか、本当に昨日はちゃんと勉強していたんだな」
「は、当たり前だろ」
「・・・御子紫、何かあったのか?」
「え・・・。 どうして?」
ノートに書き写している手を止め、真剣な表情をしながら突然そう尋ねてきた椎野に“自分の心が見透かされた”と思い動揺する。
「もしかして、コウのこと?」
「・・・何で分かったんだよ」
またもや悩んでいることを当てられてしまった御子紫はすぐにそう返すが、彼は一瞬驚いた顔を見せすぐに笑い出した。
「え、もしかして当たったの? よっしゃ!」
「・・・ちッ」

―――偶然言ったら当たっていたパターンかよ。

「いや、流石に人が悩んでいることまでは分かんないって。 で、何があったんだ?」
優しい表情をしながらそう尋ねてきた椎野に、ここは素直に尋ねてみる。
「コウってさ・・・どんな奴?」
「コウ? んー・・・。 完璧?」
そう言って難しそうな顔をして首を傾げる彼に、更に問いかけた。
「もっと具体的に。 細かく言って」
「カッコ良くて女子にもモテて優しくて。 それに頭もいいし料理もできるしスポーツもできてー・・・。 うん、悪いところないよな」
彼を敬うような気持ちでそう言った後、椎野は机の上に肘を付きそこへ頭を乗せる。 まるで何でもできるコウに、逆に呆れてしまうような感じで。
「だよな。 じゃあ、どうやったらコウになれると思う?」
その言葉を聞いた瞬間彼はキョトンとした表情を見せるが、突然笑い出しこう言った。
「え、御子紫はコウになろうとしてんの? 無理無理! コウになんて、なれるわけないだろ」
「笑うなよ、俺だって本気なんだ!」
大きな声で笑い始めた椎野に対し御子紫は怒ったような表情で返すと、彼は落ち着いた態度に改め言葉を紡ぎ出す。

「悪い悪い。 でもさ、御子紫って・・・コウと一緒にいるようになってから、何か変わったよな」

「・・・変わった?」

その言葉に、彼は小さく頷いた。
「まぁもっと具体的に言うと、結黄賊を結成してから? その時くらいから、コウとはしょっちゅう絡むことになっただろ。 そん時くらいから」
「変わったって・・・。 俺のどこが変わったって言うんだよ」
そう尋ねると、椎野は少しの間黙り込んだ。 そして返事がまとまったのか、静かな口調で言葉を綴っていく。
「んー・・・。 普段俺たちといる時はそうでもないんだけど、御子紫がコウと一対一で話している時とか、何かいつもの御子柴じゃないっていうか・・・。
 コウに気を遣って、自分を無理に押し込めているっていうか・・・」
「・・・何だよ、それ」
椎野が綴り出す言葉に、彼に聞こえないよう小さな声でそう呟いた。

―――コウの前では俺が普段と違う?
―――確かにコウの前では素直になれないって思ってはいたけど・・・。
―――・・・これが俺なんだ、俺はいつも通りなんだよ!

少し感情的になってしまった御子紫は、その勢いでその場に立ち上がり玄関へと向かう。
「あ、おい御子紫! どこへ行くんだよ!」
急な行動に椎野は驚きながらも、後を追ってそう尋ねた。
「少しの間、散歩してくる」
「少しって・・・」
「一時間くらいで戻るから」
そう言って、乱暴にドアを閉める。 こんな自分に呆れ溜め息をつくと、足を一歩前へ踏み出した。 
御子紫は少しでも気を静めようと――――街に向かって、一人歩き始める。


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